それでも大切なもの
リアとアシュの間に、張り詰めた空気が流れている。
僕には、なぜ二人がこんなに睨み合っているのか分からなかった。
「ショアくん、どうしてリアさんはそんなに怯えているのでしょうね?」
「僕にも分からないんです」
「まあいいですわ。ショアくん。わたくしの馬車なら村まで行けますわ」
「...」
僕はリアを見る。
泣きそうな顔で、僕の手を握っている。
僕は少しだけ迷った。
でも、こんなリアを置いていくなんてできない。
だから...
「ありがとうございます」
「でも、リアが嫌がっているので」
「ショア!」
僕の返答を聞き、リアは目に涙を浮かべながら喜ぶ。
一方、アシュは驚いたように目を見開いていた。
「な、なぜ...ですの?」
「ショアくん...わたくしと一緒に行くより、リアさんを選ぶのですか?」
アシュは思案げな表情をしている。
「選ぶって...」
「だって、リアが嫌がってるから」
リアは涙を浮かべながら、僕の手を握っていた。
「...そうですか」
アシュは笑顔に戻った。
「リアは、ショアくんにとって、とても大切な方なのですね」
「うん。幼馴染だから」
「そうですか...」
アシュはリアを見る。
「でしたら、無理に連れていく必要はありませんわね」
リアは困惑しながら声を出した
「え?」
「わたくしは、ショアくんが困っているようでしたので、お手伝いしようと思っただけですもの」
リアは警戒したまま、僕の手を握っている。
「わざわざ気を利かせてもらってありがとうございます」
「いえいえ」
アシュは微笑む。
「それでは、お二人ともお気をつけて」
「はい」
僕は頭を下げる。そして僕たちは、その場を離れようとする。
そこで声をかけられる
「ショアくん」
「はい?」
「もしリアがいなかったら...わたくしと一緒に来てくださっていたのでしょうね?」
「え?」
僕は少し考える。と言うかアシュさんの質問の意味が分からなかった。どういうことなんだろう
「うーん...どうだろう。それでも、行かないかな」
アシュの笑顔が一瞬だけ止まった
「...そうですわね」
そのままアシュは微笑む。
「失礼いたしましたわ、今のは忘れて下さい」
「...では、お気をつけて」
アシュはそう言って、僕たちから離れていった。
「...」
リアは、アシュの姿が見えなくなるまで僕の手を離さず、握る手が強くなる。
「リア?」
「...もう大丈夫よ」
「本当に?」
「ええ」
そう言いながらも、リアの顔にはまだ不安が残っていた。
リアはそう言って、僕の手を離した。
けれど、しばらくすると、また僕の服の袖をつまんだ。
「リア?」
「...」
「どうしたの?」
「なんでもないわ」
そう言って、リアは僕の隣を歩き始めた。
それにしても参ったな。
帰り道に山賊が出没してるなんて。
「あっ!」
そうだ。
僕たちは冒険者なんだから、山賊を倒せばいいんじゃないか?
僕は思わず歩く速度を速めた。
「ちょ、ショア」
「ごめん、リア! ちょっと急ごう!」
リアも僕に合わせて歩く。
そして、僕たちはギルドへ戻った。
掲示板の前に立ち、依頼書を一枚ずつ確認していく。
「...ない」
山賊討伐の依頼は、どこにも貼られていなかった。
「おかしいな」
もう一度、掲示板を端から端まで見直す。
山賊が出ているなら、討伐の依頼があってもおかしくないはずなのに。
「ショア...」
「うん?」
「もしかしたら、依頼になってないんじゃない?」
「...そうなのかな」
とりあえず、受付のお姉さんに聞くか。
「すみません!」
受付嬢が寝起きの顔をして奥の扉から出てくる
「なに?」
「村へ帰りたいんですけど、山賊が出ているって聞いて...まだ依頼になってないんですかね?」
受付嬢は少し困惑しながら話す
「なんの話?」
「え?」
「山賊が出ているって?」
「はい。さっき馬車の御者さんが、村の近くに山賊が出ているって」
受付嬢は首を傾げた。
「少なくとも、私はそんな話は聞いてないけど」
「...え?」
僕はリアを見る。リアも驚いた顔をしていた。
僕たちの反応を見て席を立つ
「ちょっと待ってて聞いてくるから」
そう言い残し受付嬢は奥の扉に入っていく
しばらくして紙を持って半笑いで受付に帰ってくる。
「いや〜、驚いた驚いた。まさか私が寝…じゃなくて、仕事に集中している間にそんなことになってるとはね」
なんだこの人。僕でも分かるくらい、今のは怪しい。
リアも、何とも言えない顔をしている。
受付嬢はそんな僕たちを気にせず、紙を差し出した。
「はい!これが山賊の討伐依頼」
「あ、やっぱりあったんだ」
僕は目を輝かせて受け取る。よし、頑張るぞ。
「でもそれ、指名依頼らしいから貴方達、指名されるほどすごいの?」
「え?」
僕は依頼書を見る。確かに、指名依頼と書いてある。
「えっと……僕たちは話を聞いただけで、指名は受けていないと思います」
「あっ」
受付嬢は紙を取り上げた。
「なら参加資格ないじゃない。もっと有名にならないと、こういうのは」
「そ、そうなんですね...」
僕は悔しかった。でも、同時に目標ができた。
いつか、こういう依頼を任される素晴らしい冒険者になろう。
「まあ、指名依頼なんて珍しいけどね」
「僕も指名されるように頑張ります!」
「あっ、そう。頑張ってね」
そう言って、受付嬢はボードに依頼書を貼った。
「...ショア」
リアが小さく僕を呼ぶ。
「ん?」
「ううん。なんでもない」
「そう?」
「ええ」
リアは依頼書を見つめた。
そして、何かを考えるように黙り込んだ。
カイに会う方法を考える。
そうか。
徒歩でもなんでも良いじゃないか
「なあ、リア。馬車以外の方法で村まで帰れないだろうか」
僕の言葉を聞いて、リアも思いついていなかったのか、驚いた顔をした。
僕たちは南門に向かう。
門番兵がこちらに歩いてくる。
身分証を確認している間に、兵士が話しかけてきた。
「どこへ行くつもりだ」
「僕たち、村に帰りたくて」
「そうか。今は山賊が出ているからやめておけ」
兵士は続ける。
「今、対応している者たちもいる。恐らくすぐに収まるだろう」
「そうなんですか?」
「ああ。だから今は無理に帰ろうとしない方がいい」
「分かりました」
僕は少し安心した。
山賊が出ているなら村にも波及しそうで心配だったけど、対応しているなら大丈夫だろう。
「じゃあ、もう少し帝都にいるしかないね」
「...そうね」
リアは小さく答えた。
でも、その表情は安心しているようには見えなかった。
恐らく、リアも山賊が心配なのだろう。それかカイに会えないのが心配なはず。
だから、僕はリアに『大丈夫だよ』と安心させるように微笑んだ。
「じゃあ、今日は何しようか」
「...うん」
リアは小さく頷いた。僕は空を見上げる。
カイに会えると思っていたのに、少しだけ残念だった。
でも、仕方ない。山賊がいるなら、今は帰れない。
「カイ、待っててね」
僕はそう呟いた。




