依頼
帝都に来てから、数日が経った。
僕とリアは、毎日のように冒険者ギルドへ通っていた。
とはいっても、毎日が冒険というわけではない。
「今日も薬草集めかぁ...」
掲示板に貼られた依頼を眺めながら、リアが呟く。
僕も掲示板を眺める。
冒険者になれば、もっと色々な場所へ行って、魔物と戦って、人を助けるものだと思っていた。
だけど、現実はそう簡単ではなかった。
「スライム一頭討伐、銅貨20枚か...」
討伐系は時間がかかる割に、モンスターに会えないことも多い。
それに、戦闘になれば怪我をする可能性もある。
なので、確実に集められる薬草か、帝都内での探し物か、ドブさらいがいい。
だが、薬草集めも報酬が良ければ15枚程度貰えるが、悪いと5枚程度しか貰えないし、帝都内だと他の人が既にやっている可能性が高い。
ドブさらいは一回やった以降やっていない。
こう考えると、数日前にやった運搬依頼は良かったなぁ。
・・・そして今。
僕は目を覚ます。天井は白く、見覚えのある天井だった。
「ここは...?」
上半身を起こすと、そこには成人の儀を受けた教会の景色が広がっていた。
「目覚めましたか」
そこには、ヨハネさんが屈んで僕を見ていた。
「ヨハネさん...?」
「はい。覚えていてくれたようですね」
ヨハネさんは、ほっとしたように微笑んだ。
「どうして僕はここに……?」
「それが、私にも分からないのです」
「え?」
「あなたは、教会の前で倒れていたところを発見されたのです。かなり衰弱していました」
「倒れて...?」
僕は自分の身体を見た。特に痛いところはない。
「リアは?」
「お友達なら、隣の部屋で休んでいますよ」
「...よかった」
その言葉を聞いて、僕は胸を撫で下ろした。
「二人とも、しばらく休んだほうがいいでしょう。何があったのかは、身体が回復してからゆっくり聞かせてください」
「はい...」
ヨハネさんは、優しく微笑む。
何があったんだろう。立派な建物に入り、依頼者に会う途中で記憶が途切れている。その後は夢を見ていた気がする。
教会で倒れていたなんて、ますます意味が分からない。
僕たちは運搬依頼をしていたはずなのに。
まあ、とりあえず立ち上がるか。ん?なんだこの重み。
荷物が入っているバッグに、妙な重さを感じる。
中を確認すると、布袋があり、その中に銅貨50枚が入っていた。思わず声に出す
「な、なんだこれ?」
「どうされたのですか」
ヨハネさんが聞いてきた。すぐさま僕はバッグに手を突っ込む
「いえ、何でもないです...」
バッグの中に視線を落とす。思わぬ銅貨に少し怖くなってきた。手が震え始める
そこで閃く。そうだ!これ依頼報酬だ。
だけど、おかしいな。依頼達成報酬は、ギルドで報告して承認されてから貰うものなのに。不思議...
後でリアとギルドへ確認しに行こう!そうすれば分かるはず。
そう思い立ちとりあえずリアがいるらしい隣の部屋に入る。
僕を見てリアが笑顔になる
「ショア大丈夫?」
「リアこそ大丈夫なの?」
「私は平気。どこも痛くないよ」
「そっか...よかった」
リアの姿を確認して、少し安心する。
「ねえ、ショア」
「なに?」
「私たち、どうして教会にいるの?」
「それが僕にも分からないんだ」
「だよね...」
リアも困ったような顔をする。
「運搬依頼を受けて、依頼者を待っているところまでは覚えてるんだけど...」
「僕もそこまでは覚えてる」
二人で顔を見合わせる。
「その後は?」
「...分からない」
「私もよ」
やっぱり、何かがおかしい。
「それに、これ」
僕はバッグから布袋を取り出す。中には銅貨が50枚入っている。
「これ、運搬依頼の報酬だと思うんだけど……」
「でも、ギルドで報告してないよね?」
「うん」
リアも不思議そうに銅貨を眺める。
「じゃあ、誰が入れたんだろう?」
「分からない...」
僕は布袋をバッグに戻した。
「とりあえず、ギルドに行ってみよう」
「そうだね。そこで聞けば分かるかも」
二人で教会を出ようとすると、後ろから声が聞こえた。
「お二人とも」
振り返ると、ヨハネさんが立っていた。
「はい?」
「無理はしないでくださいね」
「大丈夫です。ありがとうございます」
ヨハネさんは、いつものように優しく微笑んだ。
「では、また何かありましたら教会へいらしてください」
「はい!」
僕たちは教会を出て、冒険者ギルドへ向かった。
受付に着くと、依頼について報告しようと依頼書を探す。しかし、バッグの中に依頼書はなかった。
受付嬢が、もたつく僕を睨みながら、机を指で叩く。
「あれ...?おかしいなぁ」
「タンタンタン!なに?はやくしてくんない」
とにかく受付嬢の圧が強い。余計に焦るショア
痺れを切らせ話す。
「ハァ...依頼書がないなら、依頼内容を言ってください」
「はい...運搬依頼です」
「依頼者の名前や納品物、街名などは分かりますか?」
「えっと...ごめんなさい分かりません」
「それが分からないと調べられません」
「報酬が銅貨50枚でした」
「...銅貨50枚?」
受付嬢が怪訝な顔をする。けれど、調べてくれた
「...ありました」
「本当ですか?」
「はい。運搬依頼ですね。報酬も銅貨50枚になっています」
「やっぱり!」
「ですが...」
受付嬢が首を傾げ、詐欺師を見るような目を向けてきた。
「この依頼、すでに完了していますよ」
「え?」
「依頼主から報告の書類が届いています。もう、問題ありませんね」
「でも、僕たちは報告してません」
「はぁ...そうですか」
「僕たちは...」
そこまで言って、僕は言葉に詰まった。
運搬依頼を受け、依頼者を待っていたところまでは覚えている。
でも、その後のことは何も覚えていない。
「...どういうことなんだろう」
「はぁ...私も暇じゃないんで、では」
受付嬢はそう言って、奥の部屋へ戻って行った。
「結局何も分からなかったわね」
「うん...でも、依頼はちゃんと終わっていたし、お金もある」
「...それが一番変なんだけどね」
僕は、あの夢がなんだったのか思い出せなかった。。。
「よう!お前ら元気してるか!」
声のする方に視線を向ける。僕達に手を振ってる陽気なジルさんだった。
「あ! ジルさん」
「へッへ…」
ジルは千鳥足で近づいてくるが、途中で足がもつれた。
「うわっ!」
ズテッ!
「ジルさん、大丈夫ですか?」
「凄い、お酒臭い。ジル、飲み過ぎじゃない?」
僕とリアは慌ててジルさんのもとへ駆け寄った。
「ヘッへ...大丈夫大丈夫」
ジルは話しながら幸せそうな顔を向ける。
「ちょっと待ってて下さい」
僕は慌てて水を飲ませる。少し目が覚めたように見えた。
「あぁ〜、悪いな」
少しまともになったところで、リアが話しかける。
「ねえ、ショア、ジルって今日ギルドの中にいたんじゃない...?」
「ん? ああ、いたぞ」
「私たちが依頼から戻ってきたのって見てない?」
「ん...どうだったかなぁ」
ジルは少し考えた。
「あっ!思い出した。今日ギルドには4人しか来ていないはずだ」
僕とリアは顔を見合わせた。
もしかしたら、その中に依頼者がいるかもしれない。
「まず、一人目...というか二人だったが、泣いた少女とその母親だった。」
「俺はなんで少女が泣いているかその子に聞いた。そしたら飼っている小鳥のピーちゃんが逃げたらしい。そこで俺は...」
多分、関係なさそうだな。ジルさんには悪いが、途中で話を終わらせよう。
「ご、ごめんなさいジルさん次に訪れた方の話をお願いします」
ジルは眉間に皺を寄せる。
「えっと...次に来たのは普通の冒険者だったな。薬草の依頼を受けに来てた」
「そうなんですね」
「ああ」
「その次は?」
「その次?その...つぎ?えーっと...次は...」
ジルはしばらく黙り込んだ。
「...誰だったかなぁ」
「え?あと一人なのに」
「悪い。もう酔ってて覚えてねえや」




