ショータイム
翌朝、ジルさんに冒険者としての基本を叩き込まれた。
「まずは、冒険に出る前に水を汲んでおけよ。だが、あんまり持つと素早さが落ちるから量を考えろよ」
ショアとリアは声を合わせて返事する。
「はい!」
「よろしい。次に、食料だ。出店もいいんだが、アイツらはボッタクリだからな」
ショアは驚きの声を上げた。
「そ、そうだったんですか!」
ジルさんは考え込むような顔をした。
「な、なんだショア、アイツらから物を買ったのか?」
ショアは恥ずかしそうに答える。
「は、はい...」
「で、何をいくらで買った?」
「大根一本を銅貨30枚で買いました。」
「ハァ...バカかお前は...分かった。ついて来い!」
「はい!」
大根を買った店までジルさんを案内した。
「はい、お客様いらっしゃい。」
店主がこちらを見てニタニタしている。
「おい!お前コイツらに大根一本銅貨30枚で売ったらしいな、それって詐欺じゃねえか」
話を聞き、店主は真顔になった。
「いえいえ、詐欺ではございません。こちらがお値段を提示し、お客様が合意なされたので売買として成立したのですよ。」
「そもそも、こちら側が提示した金額にご納得いただけない場合は、ご購入しなければ良い話じゃありませんか。私、何か間違った事言ってます?」
「間違っていねえよ。だから余計に腹が立つんだ」
ジルさんの言葉を聞いて、店主はまたニタニタしだす。
「またのご来店お待ちしております。」
僕達は店を離れた。
「すまねえな、金取り戻せなくて...」
「いえいえ、ジルさんが謝ることはないです。僕が世間知らずすぎるんです。」
ジルさんは少し頭を掻きむしる。
「よし、気を取り直して食材買いに行くぞ」
ジルさんに連れられて歩く。
「着いたぞ」
目の前には、平屋の木製の建物があった。
店先には店名を書いた看板だけが立っている。
先にジルさんが店に入り、それに続く。内装は昔ながらの店だけど、清潔で整っていた。
店主が気さくに話しかける。
「いらっしゃい、ジル、と...お連れさん」
「おう!ノスバートさん買いにきたぜ!コイツらはショアとリアって言うんだ。」
「そうかい、よろしくな。ショアくんリアちゃん」
ノスバートは、茶色の髪で、白いシャツの上から茶色の前掛けを着けた、少し腹の出た中年男性だった。
ジルが大根に指を向け、話す。
「ほら、見てみろ大根の前の値札を!銅貨1枚って書いてあるだろ。」
ショアは驚愕した。ノスバートの店の商品には、全て値札が付いていた。
「ん?大根一本なら銅貨一枚だが...?」
「コイツ...出店で大根一本を銅貨30枚で買ったんだよ」
その話を聞いてノスバートは気さくに笑う。
「ハッハッ、ここも値段上げたほうがいいかな?」
「やめてくれ、俺が困る...」
「ハッハッ、冗談だよ。さて、何にする?」
ジルは商品に視線を向け、指を差す。
「じゃあ、この干し肉と硬いパンに塩をくれ」
「分かったよ。全部で銅貨4枚だが、3枚にまけてやるよ。」
「すまねえな...助かるよ」
ジルは申し訳なさそうな顔をしていた。
店を出てジルが話す。
「よし!コレで冒険の準備が整った」
ショアとリアは声を合わせて返事をする。
「はい!」
ジルは、こいつら本当に分かっているのか、と言いたげな表情を浮かべていた。
僕達は冒険者ギルドに着き、この前失敗したクエストを再び受領した。
僕は一つの疑問をジルさんに投げかけた。
「どうせ森に行くなら、このEのスライム討伐クエストも同時に受ければ良いんじゃないですか?」
ジルは険しい顔になる。
「それはやっちゃいけねぇ。冒険者は俺ら以外にもいる。そいつらも、生きていかなくちゃいけねぇんだ。帝都で生きるにはな、金がいるんだ...」
「それに、俺たちは命をかけている。あまり無茶し過ぎると死ぬぞ...」
ジルはそう言うと、しばらく黙り込む、
その表情には、どこか寂しげなものがある。
そして、ジルは明るい声を出す。
「よし!ここから何日かかるか分からねえが行くか!」
「はい!」
自分の考えが甘かったことを恥じた。
「水が飲みたくなっても舌を潤す程度にとどめておけ」
森の直前まで歩き、今日はそこで一夜過ごす。
「森に入らなければおそらくモンスターは襲ってこないはずだ。だが何があるか分からねえから、交代で見張って朝を待つぞ。」
翌朝、森の奥深くへ進んでいく。
「森に入る時はコンパスは必ず持っておけよ。迷子になりたくなかったらな。」
しばらく歩いたところで、ジルさんが立ち止まった。
そして、悲しげな顔で目の前を指差す。
「昔はこの辺に川が流れてたかもしれないんだが...見ての通り、今は何もねえ」
指差した先には、木々の間を縫うように、細長い窪地が続いていた。
川だった場所には水が流れておらず、ところどころに雨水が溜まっている。
「これ、川なんですか?」
「まあな。前日に雨が降れば、多少は水が流れてる時もあるんだがな」
そう言い、ジルさんは水溜りに歩いていく。水溜りの表面に手をつけ、濡れた手を舐める。
「水溜りは水分補給も出来るから貴重だ。だけど、あまり飲むなよ。体調に異変があったら帝都まで帰れるか怪しいからな。」
僕達も別の水溜りでジルさんと同じことをした。
「今日も、子ゴブリンは見当たらなかったな...森の中で一夜過ごすしかないな。」
ジルは本当は焚き火をしたかった。モンスターは基本火が苦手だからだが、朝まで火を絶やさないためには大量の木がいる。そんなことをしていたら、また一日が終わってしまう。
なので、持ってきていた草と木でできた掛け物をかけ、朝まで過ごす。
食料はまだ良いが、水は残り半分か。
「明日太陽が昇り切る前に見つからなかったら帝都に帰るぞ」
「分かりました。明日見つけましょう!」
僕は空元気を出して言った。
翌朝、森をまた歩く。すると...!
「いたぞ!」
ジルさんは興奮していた。僕もつられて興奮した。
そんな僕達に子ゴブリン2頭が気付き、襲いかかってくる。
「俺が、先頭に立つ」
ジルが子ゴブリン達に向かって斧を振る。
子ゴブリン達は怯む。
「おりゃー!」
ジルさんは声を荒げ、斧を上に振りかぶる。
だが、それは振り下ろすと見せかけたフェイントだった。そのまま腹に前蹴りを喰らわせ、子ゴブリンの一体が腹を押さえ、尻もちをつく。
その光景に驚いているもう一体の子ゴブリンに、斧を振り下ろす。
ジルさんはこちらを見て言う。
「ショア!こんな感じだ。起き上がった子ゴブリンにやってみな」
同じように子ゴブリンに向かって剣を掲げる
「うおー!」
と、声を荒げ、剣に注目している子ゴブリンに前蹴りを喰らわせ、剣を振り下ろした。瞬間、手に嫌な感触が伝わった。
僕は初めての討伐に嬉しくなり、ジルさんを見る。
するとジルさんは頭を抱え、呆れたように首を左右に振っていた。
「なんで、剣使いのお前が斧使いみたいな戦い方してんだよ...」
「へぇ...?」
「まだ息があるからリア。子ゴブリンの胸を短剣で刺せ」
「分かったわ。とりゃ〜」
リアは、気の抜けた声でとどめを刺した。その光景を見たジルさんは、また頭を抱えて首を左右に振っていた。
その後、森で一泊してザックに帰ってきた。
冒険者ギルドで子ゴブリンの耳を渡し、報酬を受け取る。報酬は銅貨36枚だった。
とても嬉しかった。冒険者として認められた気がした。
「ジルさん」
そう言って自分の取り分をジルさんに全部渡す。ジルさんは困惑している。
「ジルさんが装備や飲食、冒険者の基本まで教えてくれて、この報酬も本来は無かったものなので、どうぞ受け取って下さい」
「何やってんだお前、ちゃんと3等分しろ」
そう言って、ジルさんはショアに12枚渡してきた。
「ショアお前は良いやつ過ぎる。」
ジルさんの表情が変わり笑顔になり話す。
「夕飯には少し早いが。よし!今日は俺がメシ奢ってやるよ!」
僕は内心ジルさんも人のこと言えないな、と微笑む。
僕達はギルドを出て店を探す。
何故か、今日は通行人が慌ただしかった。
「おー、ショーか久しぶりだな。」
「うぉー!待ち侘びたぜ!」
出店の店主が声を張り上げている。
「はーい!お客様!押さないで!今なら銅貨1枚で5個だよ〜」
店には拳ほどの大きさのゴツゴツした石が山積みにあり、飛ぶように売れていた。
僕は思う。なんで、あんな石が5個で銅貨1枚なんだ?と。
大勢の人間が歓声を上げ、買った石を手にしていた。
買っていない人は拍手をしていた。
「バチバチバチ!ヴォー!バチバチバチ!」
目に映った光景を疑った...
そこには、丸太に縛られた人間がいる。
人々は皆、笑顔で石を投げていた。。。




