五、振り向けど道は埋もれて
カナコは小高い丘を登っていた。丘の頂上には、崩れた城壁がある。新月だ。辺りは暗闇に包まれている。カナコの鈴がちりりんと鳴る。近くで啜り泣く声が聞こえた。
「お迎えにあがりました」
カナコは暗闇に声をかけた。
「あなたは?」
啜り泣きながらも、老人の声が返ってきた。
「因果を辿って参りました」
「因果を」
老いた男の声は、噛み締めるように言った。カナコは、その遠く問いかけるような声音に、深い悲しみを見出した。カナコの語り口には、厳かな憐れみが響いた。
「遠い時の塵となった王国の住人よ」
「塵か。確かにそうだな」
悲しみだけではない。果てしのない後悔も読み取れた。崩れた壁の間には、草木が生い茂っている。声の主は、この廃城に住んでいたのだろうか。
「姿すら失って、声だけになってもなお、残り続けることに、何の意味がある」
「意味か」
老いた男の声は、またカナコの言葉を一部切り取って答えた。こだまではないようだ。
「かつては意味があると思っていた」
老人は、寂しそうに言った。
「お前の国に住んだ人は皆、もう次の生へと旅立ったぞ」
「皆?みんな、旅立ってしまったのか」
声は愕然としている。
「そうだ。ひとりのこらず」
「もうここには、誰も居ないのか」
声は震えていた。泣き出す直前のように。
「声だけのお前に、今の情景が見えるのかどうかは知らないが」
カナコは諭すように告げた。
「城は崩れ、城下町は跡形もない。かつて栄えた街道も、いまは村ひとつなく草木に覆われている」
まっくら闇に沈んだ丘の麓に、今何があるのかは見えない。犬猫の声は聞こえず、赤子の夜泣きも響いて来なかった。人の営みを想い起こさせるような音は、何一つ存在しないのだ。狼の遠吠えが聞こえる。梟の鳴き声が風に乗って届く。遠くの沢音は絶えず、野鼠の這い回るカサカサと言う軽い音が起こった。
「そうか。あんなにも立派だった城は、今では人里離れた廃墟になってしまったのか」
戸惑いと悲嘆が入り混じった声が、漆黒の廃墟を渡ってゆく。声は崩れた壁から出て、辺りを巡っているようだ。カナコの絵傘で金魚が跳ねた。パシャンと涼しい水音が上がる。
「クノックスマルゲイドのロルカン」
闇の中で風が吹く。枝が撓み葉が鳴った。音は寂寥に追い討ちをかける。
「お迎えにあがりました」
カナコは事務的に告げた。
「ああ、もう人の温かみを感じることも出来ないのか」
老いた声には啜り泣きが混ざる。
「この城が攻め落とされてから三千年がだったのだ」
カナコが静かに告げた。
「ここを占領した王も、三千年前にここを去り次の生へと歩みを進めている」
「あの宵は、夏祭りで賑わっていた」
遠い思い出を懐かしみ、声は廃墟に華やぎを呼び返す。
ロルカンは誠実で潔い男だった。そして、狂おしい程に一途であった。ただ一度、命の瀬戸際で主君の子供を助け、妻子を後回しにしてしまったこと以外は。
夏祭りの夕べ、城下町は賑わっていた。親子連れや恋人たち、友達同士や仕事仲間など、思い思いに集まって、祭り屋台を覗いて歩く。広場では旅芸人一座が明るい音楽を演奏していた。見慣れない形に削り出された木の棒を幾つも空中に放り上げたり、身軽に宙返りする人々もいた。
ロルカンは愛妻と一緒に幼い息子の手を引いて、干し果物を選んでいた。細かく刻んだ果物を乾燥させて、数種類混ぜたものが人気の屋台だった。
「お父さん、まるで騎士様のベルトみたいにキラキラしてるよ」
屋台の柱に取り付けられたエキゾチックなカンテラが、色とりどりの干し果物を照らし出す。子供の目には、騎士たちのベルトに並ぶ宝石のように映ったのだ。丘の上に建つ城から、騎士や貴婦人たちが時折城下町を訪れる。彼らの靴や髪には、数々の宝石が輝いているのである。
「これを器ひとつ分貰うよ」
「はいよ。ぼうや、器はどれがいい?」
「この四角いやつ!」
「飾りはなくていいのかい?」
円筒、椀型、四角の他に、花や動物が彫りつけられた器もある。こちらは少しだけ高い。
「ないやつがいい!表面がすべすべで素敵だよ!」
「そうか、そうか」
ロルカンから小銭を受け取って、干し果物売りの老人は、木をくり抜いた四角い器を渡した。
「ぼうや可愛いからおまけしとこう」
「可愛くない!かっこいい!」
「ははは、ごめんよ。かっこいいぼうやに、もう一掴み入れてやろう」
老人は、器に山盛りの干し果物を入れてくれた。
「おじいちゃん、ありがとう」
「はは、いい子だねぇ」
「バイバイ」
幼い男の子が、ぷっくりとした手を元気に振った。売り手の老人は、にこにこと手を振り返した。
ロルカン一家は広場で立ち止まって、息子が干し果物を食べるのを待つ。
「お母さんどうぞ」
「ありがとう、ニール。黄色いの貰うね」
母が細かいキューブ状の干し果物から、黄色いものをひとつ、摘み出した。
「黄色いの、なんだった?」
母が口にした様子を見上げて、ニールは真剣に訊いた。
「松笠モドキだと思う」
「そっか!お父さんも食べて!」
「ありがとう」
ロルカンは黄緑色の欠片を口に運んだ。ニールがキラキラと目を輝かせて見つめてくる。
「どう?なんだった?」
「うーん、黄緑色のは、幸福草の葉っぱじゃないかなあ」
「葉っぱ?」
ニールはキョトンとして、四角い木の器を覗き込んだ。
「幸福草の葉っぱは、とっても分厚いんだ。表面の硬いところを剥いて、筋を取ると、甘い果肉が食べられるんだよ」
「へえー、生で食べてみたい!どこに生えてるの?」
「どこに生えてるかは、お父さんも知らないなあ。お父さんがうんと小さかった頃、一度だけ食べたことがあるんだ」
「おや、そうなの?」
妻も興味を示した。
「うん。ほら、昔は春祭りもあっただろ?」
「そうだったねえ。すっかり忘れてたよ」
「えー、いいなあ!春にもお祭りがあったほうがいいよね!」
「ははは、そうだねえ」
話は流れてしまった。幸福草の葉を生で食べられるのは、春だと言いたかったようだ。ロルカンは幼い頃に、春祭りで買ってもらったのだろう。
広場に仮設された舞台では、口上が終わり幕が上がった。歌ったり踊ったりしながら、登場人物達が賑やかに舞台を行き交う。ロルカン一家は、他の観客達と一緒に歓声を上げ、笑い、拍手した。
「お、ニール」
「ショーン!」
近所の友達と会った。親同士も挨拶をする。ショーンは木のコップを大事そうに持っている。中には甘い香りのする紫色の液体が入っていた。
「花蜜買ったの?」
「うん」
子供達に人気のある、夏祭り限定の商品だ。蜜漬けの花に水を注いだ、甘酸っぱい飲み物だった。
「お父さん、お芝居が終わったら、ぼくも飲みたい」
「いいよ、あとで買いに行こう」
楽団が太鼓や銅鑼を鳴らす。弦楽器や笛も加わって、月の明るい空へと昇ってゆく。屋台の間をそぞろ歩く人々は、みな笑顔だ。
「火事だーっ!」
突然、物見櫓で鐘が鳴らされた。微かに聞こえる叫び声の方角では、黒い煙がもくもくと立ち昇っていた。夜空が見る見る赤く染まる。祭り会場を外れたところで火の手が上がったようだ。巡回騎士が走ってきて、村人に避難を促した。
「火の勢いが強い!風上に逃げろ!」
ロルカン一家は、急いで自宅に走った。運良く家は風上にあったのだ。火の元からも遠いようだ。
「逃げろ!」
「うわあああ」
逃げているうちに、状況が激変した。見慣れない鎧兜で身を固めた兵士達が、松明や火矢を手に現れたのだ。祭り屋台は打ち壊され、広場の舞台は燃え上がった。
ロルカンは、一家三人でひとまずは自宅に隠れようと走った。逃げ惑う人々から守るため、ロルカンはしっかりと息子を胸に抱きかかえていた。妻も離れず隣を駆けている。突然、庶民にしては筋骨逞しい男が、何かを押し付けてきた。見ると、身なりは粗末だが顔立ちが上品な少年だ。
「えっ?」
ロルカンは曲がるつもりのない角で、細道へと押し込まれた。
「キャアア!ロルカン!ニール!」
妻の叫びは尋常ではない。振り向けば、敵兵の刀が無慈悲に振り下ろされていた。
「オーラ!」
石畳に倒れ込む妻の元へ向かおうと、ロルカンは足を踏み出した。
「王太子殿下を頼むっ!」
子供を押し付けた男が、ロルカンの行手を阻んだ。
「ええっ?」
男の力は強かった。男は子供の着けていた指輪を抜き取り、ロルカンの息子ニールに嵌めた。ロルカンは、何が起こっているのか分からず、思わず足を止めた。
「この道の突き当たりの扉に入れ!早くっ!城へ!」
男はニールを引き剥がすように力づくで奪い取り、王太子らしき子供をロルカンの懐へと放り込む。
「ぐずぐずするな!」
ロルカンは平凡な荷運び人夫だ。王太子付きの騎士に怒鳴られれば、逆らうことなど無理な話だ。ロルカンは真っ青になりながら、細道の突き当たりを目指す。悲鳴と金属音が渦巻いて、その耳には意味のある音が届かなかった。微かにニールの悲鳴が聞こえた気がした。だがロルカンは、恐怖に囚われて自動操縦のように足を運ぶ。言われた通りに小さなドアを潜り、無我夢中で走った。
その時の功績を認められて、ロルカンは城に召し上げられた。王太子とは二度と会うことがなく、練兵場の荷運びなどをして過ごした。真面目な働きぶりにより、やがて気さくな騎士に目をかけられるようになった。ロルカンの動きに素質を見出し、気さくな騎士は武術を仕込んだ。
外敵が攻め込んで来る度に、気さくな騎士の弟子として、ロルカンは駆り出された。ついには騎士にまで出世した。亡き妻子を立派な墓に祀ることも出来た。ただ、墓にはなにも入っていない。混乱の中で亡くなった人々は、丘の麓に纏めて埋められたのだ。掘り返して探すわけにもいかない。
ロルカンは生涯再婚せず、愛情深い人物として尊敬もされた。だが、ロルカンの笑顔には、いつも悲しみの陰が付き纏っていた。心からの笑顔が戻る時は来なかった。
声は、忘れられた丘の城で起きた物語を語り終えた。ロルカンがこの世を去ってしばらく後、城は敵国に占領された。やがてその敵国も滅びた。守りの硬い乱世の城が、不便な田舎だと見做される時代がやってきた。かつてロルカンが住んでいた城は、いまや丘の上に僅かな痕跡を遺すのみ。見晴らせど草むらと森ばかりの寂しい丘になっていた。
「栄耀栄華を手に入れても、一体何になるというのだ」
声は後悔に苦しんでいる。
「愛する者たちが隣に居ないのなら、この世はただ虚しいだけだ」
声はひとしきり嗚咽を漏らした後、付け加えた。
「あの時、勇気があったなら、オーラとニールから引き離されることは無かった」
「そうだろうか?」
カナコは純粋な疑念を漏らした。
「オーラとの間に割り込んだのは、エリート騎士だろう」
「王太子の専属護衛だったそうだ」
「そんな騎士に行手を阻まれたら、普通の人間が自由に通り抜けられるとは思えない」
「それはそうなのだけども、せめて抵抗ぐらいは出来たんじゃないか」
声は思い詰めている。カナコは遺憾を打ち消すように、淡白な口調で反論した。
「無理だろう。その状況では、王太子の専属護衛に斬り殺されたかも知れない」
「あっ、確かにそうだ。王族の保護を拒否なんかしたら」
声に緊張が走った。
「それに、ニールを身替りにしたあの騎士には、生涯実力が届くことはなかった」
声は無力感に苛まれていた。
「どのみち今は、仇を討つ望みなぞすっかり絶たれているよ。ここが廃墟となったのは、千年以上も前の話だ」
カナコの言葉は容赦ない。
「仇の騎士も、ニールを犠牲にして生き延びた王太子も、名前すら忘れ去られた、遠い昔の者達だ」
「名前すら」
「そうだ」
カナコは水色の絵傘をくるくると回した。廃墟が一瞬だけ、薄ぼんやりとした明かりに照らされた。
「声だけのロルカンさんに、周りが見えたかどうかは知らないが、ここには史跡の案内板すら無い」
「そうなのか」
「歴史書にも記されず、古地図も残っていない。伝説もなく叙事詩や民謡にも謳われたことがない」
ここにあった城も、乱世に興っては消えた小城のひとつに過ぎない。そこで生きた人々の影は、千年の月光に浚われてしまった。
「はは、そうか」
カナコのおかっぱを風が吹き抜けて、サラサラと音を立てた。
「肉体の影すら無くして、お前は何を待っているのだ?」
「いや、なにも待ってない」
「ではなぜだ?」
カナコは問いただす。探るようにではなく、自覚を促す響きであった。
「家族の仇も討てず、かと言って自ら命を断つことも出来ず、仇から仕事を請け負い、仇の為に戦火を潜り、あの世でオーラとニールに、父母や他の親戚縁者、祖先たちに、顔向け出来ない」
「だからと言って、いつまでもここに居座るのはよく無いぞ」
カナコの口調が厳しくなった。
「いいじゃないか。どうせ辺りには誰もいないんだし」
「お前の恨みと自責が渦巻いているのに気が付かないのか?千年もの時を過ごしたのだ。怒りや悲しみに感応した人間たちも少なくはないだろう」
「感応?」
声は思いがけない単語を聞いて、戸惑った。
「ありていに言えば、霊障ってやつだな。この丘を中心として、街道沿いに栄えた町や村で、負の感情が増幅されたのさ」
くるくる回る絵傘の中で、金魚が赤く泳いでいる。金魚の赤と水草の緑が溶け合って、丘を見上げる街道の情景へと変化していった。窓辺で繕い物をしていたおかみさんが、啜り泣きを聞いたと怯えている。村を訪れた行商人が王族への怨みを聞いて、自分の不満を募らせた。子供達は純粋な怒りを、老人達は無力感を聞き取って、姿なき声の影響を受けていった。
絵日傘の中に見える人々は、憎しみと絶望を募らせて命を奪い合っていた。罵り合い、殴り合い、盗み合い、殺し合い、戦争も頻繁に起きた。弱いものは、自ら命を絶った。
「そんなつもりは、なかったんだ」
声が震えていた。
「悪かった。どう償っていいかわからない」
「それは私にも解らない」
カナコは静かに告げた。
「私は案内人に過ぎないから」
「あ?ああ」
声は自分が引き起こした事態を、消化しきれていないようだ。
「ひとつだけ確実に言えるのは」
カナコが声のする方へと指輪を向けた。ちりりんと透明な音がする。
「とっくに旅立ちの時が来ていると言うことだ」
「ああ、そうか」
「このままでは、この世界に息づく生きとし生けるものたちを、お前の声が呑み尽くしてしまうぞ」
「それは本意では無いな」
老いたロルカンの声は、困ったように廃墟の壁を伝う。
「退路を絶たれたからと言って、進路が開かれるとは限らない」
あの細道で送り出された先は、ロルカンにとって却って閉ざされた暗がりの小道だった。押し付けられ、引っ張られ、小突き回された人生だった。
「だが、立ち止まってもいられないだろう?」
「人生とはそういうものだからな」
「人生を終えて久しい今、まだここに留まって、底無しの自責でこの世を呑み込んでしまいたいのか?」
「そんな大それたことは望んでないよ」
「そうだろう?」
ロルカンはとうとう説得された。
「うん。望んでないんだ。だから、お願いします。次の人生まで案内してください」
「ああいや、それは管轄が違う」
「え?」
「まあ気にするな。とにかく、こちらへ」
カナコは指輪に付いている銀色の小鈴を鳴らした。絵傘の風景は金魚と水草に戻る。仄かに発光していた水色の傘地は、光を収めて暗闇に沈む。チリチリと鳴る鈴と、ザワザワと草むらを漕ぐ音だけが、新月の丘に響いた。
仕事を終えたカナコが、岩棚で涼んでいた。染め帯の中で風鈴が揺れている。滝の中から出てきたハヤセは、赤い網に入った大きなスイカを一玉提げていた。
「食べるか?」
「ありがとう。いただくよ」
ハヤセは、白い糸の通った針と黒い糸を通した針を器用に操る。スイカは扇形に割れ、鋭い切り口は赤く瑞々しい。糸はスイカを切り分けるだけではなかった。宙を舞う果物を優雅に受け止めて、カナコの側へと導いたのだ。滝の飛沫で冷やされた岩棚に、ストストとスイカが落ちてゆく。みな皮を下にして、お行儀よく並んでいた。
「そんな事に陰陽針を使っていいのか」
「ただの道具だからね」
「そんなもんか」
「自分で作ったもんだし、使い方に決まりはないよ」
「ハヤセは自由で羨ましいよ」
カナコは慈しむように目尻を下げた。
「カナコ、まだ若いのに、そんな優しいおばあちゃんみたいな目付きするなよ」
ハヤセはスイカを一切れ取って、カナコに差し出した。
「優しい、ってとこだけ貰っとく」
カナコはスイカを受け取った。
「ここに並んだスイカの種は、全部滝壺に落ちる」
綺麗に並んだスイカから種が飛び出して、雨垂れのように滝壺へと落ちていった。
「カナコ」
ハヤセが呆れ声を出した。
「なんだ?」
カナコは悪びれもせず、ハヤセを見た。
「神託をそんなことに使っていいのか」
カナコの言霊は、神族が下す神託である。烏鴉嘴が昇格して、不吉な予言以外でも、語る言葉が現実となる。糸が通った針とは訳が違う。
「ハヤセの為になったんだから、いいんだよ」
「どういう理屈だ」
「世のため人のために使えば、功徳を積んだことになる」
「スイカの種を取り除くだけで?」
「神託は人を幸せへと導くものだ。それは即ち私に取って、功徳を積む好機となるのだ」
ハヤセは首を傾げた。
「なるのか?」
「なる」
カナコが断言し、ハヤセは眉間に縦皺を寄せた。痩せ猫師匠が旅立ってしまったのが悔やまれる。この場にいたのなら、訊いてみることもできただろう。
「まあ、食え」
「準備したの俺」
「種取ったの私」
「まあ、食うか」
「うん」
落ちてゆく滝の水に、真夏の太陽が虹を作り出す。二人は黙ってスイカにかぶりついた。
「ハヤセは声だけの妖怪を相手にしたことはあるか?」
カナコの白い歯が、シャクシャクと赤い果肉を削る。
「あるよ。声や音を出す本体があるやつもいたし、本当に音だけの奴もいた」
「どうやって捕まえた?苦労したんだろうね?」
「いや、別に。糸と針で陣を組めば終わりだよ」
「ふうん。珍しくもないんだな」
カナコは少しガッカリした様子を見せた。遥か下に見える滝壺では、突然降ってきたスイカの種に驚いて、魚達が跳ね出していた。




