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こゝろのこり  作者: 黒森 冬炎


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15/16

十五、積雪暗香

 雪が降っていた。なだらかな丘は、白一色に染められていた。カナコはサクサクと音を立てながら、新雪に下駄の跡を残す。冴え返る二月の空に、ちりりんと澄んだ鈴の音が響く。丘を一つ越えて、次の斜面には綿帽子を被った林があった。上品な香りがほんのりと漂っている。穏やかで控えめながらも、羨慕の情を掻き立てる芳香であった。


 ちらちらと落ちてくる雪片が、カナコの傘に描かれた季節外れな金魚の柄を白く塗り潰す。カナコは、いつもと違う白梅鼠(しらうめねず)の綾織マントを羽織っていた。白い絹糸と銀糸で枝垂れ梅が大胆に刺繍されている。贅沢に分厚い綿が入った長いマントで、白くしなやかなタフタのリボンを蝶結びにして襟元に垂らしていた。前をぴたりと閉じている。すっかり白くなった絵傘は、カナコの上に浮かんでいた。


「お持ちしますよ、吾(わ)が女神様」


 ハヤセの腕がぬっと突き出された。井桁絣の白い袂に、純白の天鵞絨(びろうど)鳶(とんび)が掛かっていた。節のはっきりした長い指が、竹製の柄を掴む。腕に続いて全身が現れ、白いモロッコ革の長靴(ちょうか)が音もなく雪の斜面に乗せられた。傘はカナコに差し掛けられて、やや畝りのあるハヤセの黒髪に雪斑が描かれてゆく。


「女の神族ではあるが、一介の罪神だよ。天界の高官でもあるまいし、女神様は身に余る」

「罪神も言い過ぎだろう。教育中の半人前神族が、罰則を受けてるだけじゃあないか」


 カナコはふっと微かに笑った。心が滲み出すような、情緒ある微笑であった。ハヤセも微笑み返した。二人は、眉やまつ毛が白くなるほどの寒さを一時忘れてしまった。雪で絵が塗り潰された傘を差し掛けて、ハヤセはカナコと共に林に足を踏み入れた。芳香の源は、林の奥にあった。硬く閉じた白い蕾が、鋭角に折れ曲がった枝の上で静かに開くのが見えた。花びらが綻びるにつれて、香りに深みが増してゆく。


 白梅だ。雪景色の林一面に、蕾をつけた白梅が生えていた。最初に開いた数輪の花は、降りかかる雪の欠片かと見紛う穢れのない白色だ。カナコとハヤセが近づくと、雪景色に一点、目の醒めるような赤色が現れた。紅梅だろうか。雪の中に埋もれて、紅色の蕾が隠れていたのだろうか。


「鉄の匂いがする」


 ハヤセが眉根に縦皺を寄せた。銀景を染める赤はみるみる広がり、香りも生臭く塗り替えられた。カナコとハヤセが斜面を下って、凍った渓流までやって来た。白梅の林には死屍累々の惨状が広がっていた。ある者はうつ伏せに、ある者は幹に抱きつくようにして、またある者は凄まじい形相を見せて仰向けに。皆一様にこと切れていた。枝に幹に足元に、丘の雪は鮮血の衣を纏っていた。


 渓流には、手摺の無い素朴な橋が架けられていた。ここにも雪が積もっていた。折れた弓が踏み板に刺さり、血糊がこびり付いた刀が落ちている。橋を渡った先には、草葺屋根の小屋が一軒建っていた。窓の中で、しっとりとした細身の人影が起き上がる。カナコとハヤセが橋のたもとに差し掛かると、惨劇は跡形もなく消え去った。倒れていた人々はいなくなり、血の跡も綺麗さっぱり無くなっていた。


 屋内の人影が、つと梅林に目をやった。音もなく降る雪を眺め、ふと、ひと枝に気を惹かれた。理智的な瞳が和らいで、落ち着いた声が溢れ出た。


「よい香り。ああ、咲いたのね」


 夜明けの風は、凍った渓流から氷片を削って小屋に届けた。そこへ、がっしりとした黒い軍馬が雪を蹴立てて駆けつけた。


「何事ですか?」


 窓の外へ声を掛けつつ、人影は身支度をして小屋の外に出た。細身の女性である。


「早く乗れ!」


 馬上の人は逞しい腕を差し伸べた。軍馬の背後には、騎馬と徒歩との軍勢が迫っていた。


「宰相様!我々が食い止めます!」


 軍勢と軍馬の間には、軽装の護衛隊しかいない。橋に近づけまいと弓、槍、剣、刀を振るっている。


「バカを言うな!共に逃げるぞ!」


 仲間に怒鳴りつける宰相が、女性の腕を掴んだ。


「宰相様、証拠を」


 女性は掴まれた腕を振り払い、小屋へと駆け戻ろうとした。だが、宰相は女性の腕を掴みなおして、馬の上へと引き上げた。


「待てぬ!生き延びればまだ勝ち目はある!」

「二十年来、コツコツと調べて、やっと手に入れた決定的な証拠ですよ!」


 女性が暴れて馬から降りようとしている。


「ここで命を失えば同じことだ」


 女性と馬上の人が押し問答を続けていると、唸りをあげて矢が飛んで来た。女性がひっ、とすくんだ隙に、宰相は出発した。言い争いがあってもなくても、死局は定まっていた。大量の犠牲者を出した末に、逃げる二人は馬から投げ出された。戦力差は圧倒的だ。追手が多く地に伏しても、全体から見ればほんの一握りに過ぎない。矢の雨が降る。刀や槍も飛んできた。川辺の小屋に火の手があがる。証拠の保持は絶望的だ。疎に香る白梅の林は、思わず鼻を覆いたくなる緋色の梅林に変わった。女性は梅林で倒れ、宰相は渓流に張った氷を割って、凍った川に沈んでしまった。



 カナコは、横たわる女性の側で足を止めた。赤く染まった雪に、うつ伏せで手足を投げ出していた。カナコはしなやかな手を差し延べる。ちりりんと涼しい鈴音がした。


「お迎えにあがりました」

「待ってください」


 うつ伏せのまま、女性がくぐもった声を上げた。


「二十年、二十年です。歴史を変えることが出来なかったなんて」


 女性はやはり起き上がらないまま、硬く拳を握った。


「私がここに来たことに、なんの意味があるんです?」

「意味ですか。原因と結果以外は解りかねます。管轄外ですので」


 事務的なカナコに、女性はがばと跳ね起きた。


「管轄?知ったこっちゃない!突然乱世に放り込まれて、結局は何の足しにもならなかったなんて、死んでも死に切れない!」

「死に切れてないね、それは確かだ」


 ハヤセが糸目を更に細めて言った。


「何ですって?」


 女性が声を荒げた。


「貴女は、命を落としたこの地この時に囚われているのです」


 カナコが淡々と説明した。


「時の幻郷を作り上げ、終わりの朝を繰り返しているのさ」


 ハヤセは諭すように言った。


「ここ秋(あき)国があった地域をも含む金林(きんりん)国の歴史科古代秋国史専攻学生、葉鈴(ようれい)さん、因果を辿って参りました」


 カナコが事務的に告げた。葉鈴は眉を吊り上げて抵抗した。


「待ってください!たとえ宰相様が命を落としたとしても、極悪奸臣の汚名は雪ぎたい!それが、私がこの時代に来た意義なのですから!」

「いや、悪いんだけど、ここは幻郷だから、終わりの日を繰り返しているだけで、その先は無いんだよ」


 ハヤセの口調は軽いが、内容は無慈悲だった。葉鈴の顔を絶望が支配した。ものも言えずにハヤセを凝視している。


「貴女はもう魂だけですし、旅立つ時が来ています。たとえ幻郷から抜け出してもあの日の続きには行かれません。貴女の生まれた時代に戻ることもありません」


 カナコも別の言い方で諭した。


「戻れない?せめて戻れたなら、小屋の跡地を発掘すれば、証拠が出てくるかもしれないのに!」

「妄念に囚われた哀れな魂よ、報われなかった努力を足枷にせず、次の人生へと旅立ちましょう」


 カナコは、倒れた葉鈴の鼻先にある雪の表面を撫でるような仕草をした。雪の斜面に、机で歴史資料を読む葉鈴が浮かび上がった。ラフな格好の現代人だ。


「うわぁ、衛宰相ってやつ、極悪非道だなぁ。最後は雪の梅林で討伐されたのか。当然の報いだね」


 その資料には、僅か十歳で共に暮らす一族を皆殺しにした男の一生が記されていた。名前を変えて逃げ延び、忠臣衛(えい)宰相と讃えられるまでに出世した。陰では卑劣な手段と冷酷な殺戮を行っていた。悪いことは出来ないもので、最後には露見して討たれた。


 資料には、最初の虐殺に使われたと言われる剣の写真が載っていた。葉鈴は、以前歴史博物館で観たことがあった。


「こんな人には会いたくないねぇ」


 資料を片付けて、葉鈴は立ち上がった。


「あれ?でも、あの剣、どう見ても大男サイズだよね?十歳が一族を皆殺しにするまで振り回し続ける重さでも長さでもないような?」


 疑問を抱いた途端に、葉鈴は広大な庭園で築山の陰に立っていた。


 時は永明(えいめい)五年二之月初七之日。所は秋国の田舎町、降りしきる雪の中。地方官僚が暮らす屋敷の大門を、荒々しく開いて押し入る男がいた。男は武装した兵士を引き連れている。暗紅色の鞘を払って、男が門内の一族を皆殺しにした。


「あの鞘!」


 歴史博物館に展示されている遺物だ。奸臣衛宰相が、十歳の時に家族を虐殺した凶器とされていた。


「やっぱり大男だ」


 築山は、凶行の現場から少し離れていた。逃げ惑う人々の叫び声は聞こえて来る。だが、突然古代に来てしまった事実に脳が思考を拒否していた。二月の冷気も漂う生臭さも肌で感じる。それでも、現実だとは認められなかったのだ。


 急に強く手を引かれ、庭園を走り抜けて犬くぐり穴に押し込まれた。暗い夜の裏通りに出ると、再び腕を掴まれて走らされた。町を抜けて岩壁を登る。前を行くのは子供であった。自分の目線が前の子供の頭くらいになっている。山の中に入り、清らかな泉で喉を潤す。水面には、子供の頃の自分が写っていた。服装は、部屋で着ていたものがそのまま縮んでいた。


 後の宰相は、葉鈴が寝ている隙に親切な農民に預けて立ち去った。それから十年。古代史専攻で多くの字体を読みこなせた葉鈴は、都に上って書店に職を得た。その頃件の奸臣は、文官の名門衛家の養子となり、名を上げていた。二人ともあの日の首領を探していた。手がかりは、特徴的な暗紅色の鞘だけ。なかなかその後の足取りが掴めない。



 ある日葉鈴は、仕入れ旅行に出かけた郊外の町で、汚職の摘発に出会した。指揮官に見覚えがあった。歳はとっていた。だが、篝火にあかあかと照らし出された恐ろしい顔立ちは、目に焼きついていた。そして何よりも。


「あの鞘!」


 たまたま現場近くに立っていたところ、葉鈴は今回も強く腕を掴まれた。


「お前、あの時の下働きだな?」


 現場から離れたところで、手を引いて走っていた青年が詰問した。


「そういう貴方は、子供の頃に助けて下さった若君さま、今は衛様ですね?」

「そうだ。お前もあの鞘を覚えていたんだな?」

「はい」

「だったら忘れろ。危険だから関わるな」

「あの格好、禁軍ですよね?」

「奴は、禁軍統領魏英峯(ぎえいほう)だ。とにかく逃げたほうがいい」


 葉鈴は歯痒くて仕方がなかった。


「武芸はからきしですが、資料を読み解くのは得意ですよ。きっとお役にたてます」


 衛青年は、葉鈴をまじまじと見た。


「得意とまで言い切るか」

「念を押されると自信がなくなりますけど、かなり得意なほうだと思いますよ」


 葉鈴は秋国史で卒業しようと考えていた。衛宰相の資料を読んでいたところで、タイムスリップしてしまった。それから十年経つとは言え、現地にいるのでおさらいは日々に出来た。大きな事件や有名な人物は、田舎にいても聞こえてきたのだ。そこで葉鈴は、公に告示された出来事の記録と、物語化された事件のまとめを作っていた。記憶に残る歴史資料は、怪しまれないように別途複製しておいた。今、ようやく資料が日の目を見る。葉鈴は、記録を取り出して見せた。年表と地図も作ってあった。そこは専門分野である。実に見事な出来映えであった。


「ほう。公の記録としても充分使える体裁だな」


 一応の信頼を得てから、葉鈴は本題に入った。虐殺された地方官の経歴や、当時のその地方で起きたことをまとめ、国や隣接国の状況も合わせる。そこから事件の真相を探ってゆく。


「しかし、鞘だけでは証拠として弱い」

「当時十歳の子供だった二人の証言ですしね」

「普通に考えれば、信憑性は低いな」


 中枢に食い込んでゆく衛青年と、雑多な書物や町の噂から必死に証拠を探す葉鈴は、この時初めて手を組むことにした。連携を続けるうちに、ゆっくりと別の感情が育っていった。衛青年には縁談もあったが、政敵や凶悪なストーカーなどにより妨害され続けていた。だが、葉鈴とは人目につく接触を調査のために避けていた。護衛も充分に配備されていた。


「当時、魏英峯の帳簿を写して逃げた男を見つけた」


 ある夜、郊外の竹藪で、葉鈴は衛宰相から冊子を受け取った。


「これの写しを作って欲しい」


 持ち主は帳簿係の下役だったが、妻と娘を魏英峯の気まぐれで惨殺されたのだという。恨みを抱き、こっそりと複写して逃げたのだ。衛宰相の父は、たまたま彼の逃亡を助けたのだ。それを突き止めた魏英峯は、証拠品を受け取ったのではないかと思い、後の衛宰相が暮らしていた家に乗り込んで来たのだ。


 衛宰相の父は、日暮れ時、何も知らずに、城門まで急ぐ男を馬車に乗せてやったのである。乗り合わせていた当時十歳の宰相は、男の顔を覚えていた。全くの偶然だと、男は言った。男はといえば、逃げおおせたものの、たった一人では隠れている外なかった。うまく帳簿を使う機会が訪れなかったのである。


「洪水の歳なのに、被害地域から大量の果物を、定期的に買い付けてますね」

「あり得ないだろう?」

「あからさま過ぎませんか?」

「葉鈴が作ってくれた資料を見ると、奴は炊き出しを行ってもいる。横流しや着服の隠れ蓑にしたんだろう」

「そうでしたね。でも、果物ですよ?痛みやすいです。米や小麦ならまだわかりますが、この量は」


 そもそも、仕入れ元と放出先が同一地域なのである。被災地から大量に傷みやすい物を買い付けて、同じ地域で炊き出しを行ったという記録なのだ。仕入れ台帳からだけでは分からないが、役所に提出する書類には、支出台帳や物流の記録もある。男が写して逃げたのは、おそらく裏帳簿だ。しかし、見つかったら即刻アウトな裏帳簿など、狡賢い魏英峯の作風ではない。


「裏帳簿にも暗号化した記載を行ったんじゃないか?」

「考えられますね。賄賂でも貰ってたんでしょうか」


 わざとあからさまな数値を残して、見習い小僧の練習帳とでも言い逃れるつもりだったのかも知れない。


「もう一度年表を見せてくれ」


 年表には、噂や物語も含まれている。


「この年、元気な若者たちが行方不明になる事件が地域全体で起きてます」

「かなりの人数だな」

「労働力でしょうか」

「あの山には鉄が出るからな」

「怪しいですね。鉄を掘り出して日用品を作るだけにしては、人数が多すぎます」

「行方不明者に鍛冶屋も多いな」

「ますます怪しいですね。密造武器でしょうか」

「当時はまだ百人長ですらなかったのに、事件の夜、随分と立派な装備で多数の手下を連れていたよな」

「彼等は正規軍ではなさそうでしたよ」

「暗殺部隊だろう」


 衛宰相は、複雑なレリーフで覆われた箱を取り出した。


「これも同じ男から預かった」


 裏帳簿と一緒に隠されていた木箱だ。記憶力が良く手先も器用だった男は、ほぼ同じ模様の箱を作ってすり替えたという。


「だが、開かないそうだ。壊すと中の証拠まで駄目になるかも知れない」

「任せてください」

「開け方が解るのか?」

「これね、西麦(せいばく)の機関ですよ」

「何だと?敵国のカラクリ箱なのか?」

「国境でみたことがあります」


 実際には、歴史博物館で再現模型を土産物として買ったのだ。開け方は知っている。


「そんな昔から敵国と手を組んで、謀叛の準備を始めていたのか」


 中身は、西麦皇太子との密約書だった。逃れようのない証拠である。


 それから間も無く、衛宰相が二十年前に一族を虐殺した犯人であると発表された。内通者から、お触れが出たとの急報を受け、衛宰相は渓流の小屋へと馬を走らせた。


 凄惨な風景の最後に、凍える川の中で目を閉じた宰相が映し出された。魂は川面の氷をすり抜けて、倒れた葉鈴の元へ飛んできた。


「葉鈴!すまない!証拠も葉鈴も、守ることが出来なかった。力のない私を許してくれ」


 幽霊は涙を流した。


「どこかで知られてしまう危険を避ける為、簪の一本も贈ってやれなかったなあ。もしも来世で会えるなら、十里に続く金銀財宝の結納品を用意して、誰にも命を脅かされることなく、一生守ると誓いに行こうぞ」


 幽霊は倒れた葉鈴の髪に手を伸ばした。透けてしまって触れられない。葉鈴は動かないが、魂はまだ離れていないようだ。宰相の幽霊は、悲しさと愛しさを込めた眼差しを向けた。


「さようなら。来世でまた会おう」


 宰相の幽霊は、迎えに来た案内人に連れられて、雪の梅林に紛れて消えた。葉鈴の幽霊は、雪の地面に映し出されたその様子を観て、驚きに目を見張った。怒りはすっかり引いていた。


「お分かりか?」


 カナコは冷静に尋ねた。


「はい」


 葉鈴は背筋を伸ばして雪の丘に立ち上がった。幻郷の梅林を眺めやり、静かに涙を落とした。それからカナコに向き直り、


「お願い致します」


と、丁寧にお辞儀をした。ハヤセは陰陽針で梅の花を模った陣を組んだ。はらはらと白い欠片が落ちてきた。梅林の折れ曲がった枝々に、幾片かとまる。


「雪?あら、良い香り。白梅ですね?」


 ハヤセはニコリと糸目で笑った。


「良い旅を」

「渡し場に行くだけだ。良いも悪いもなかろうに」


 カナコは鼻で嗤った。


「カナコ」


 ハヤセは眉尻を下げてカナコを見た。

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