第九話〜三人の勇者
「ついに現れる。我々を魔の手から救う、異世界より来たりし勇者が」
光の柱は徐々にその明るさを失い、そのまま空の彼方へと消えていった。そして、召喚の間の中心に、3人の人影が現れる。彼らの姿を見た国王は、そのあまりの神々しさに思わず涙した。
「皆の者、我々はついに勇者の召喚に成功した。今日我々は、世界中を脅かす魔の恐怖から解放されるのだ。祝え!!」
王の歓喜の叫びに皆が涙を流し、祝福の歓声と拍手を送った。そんな異世界の住人達に囲まれた3人の勇者達は、突然の出来事に困惑している。女の勇者が、がたいの良い男の勇者の腕を掴み、震えた声で言った。
「ねえ剣二、ここどこ?この人達何なの?あたし達、さっきまでカラオケにいたよね」
女の勇者に腕を掴まれた男の勇者もかなり動揺しており、焦っているのか、不安そうな顔で声を荒げて答えた。
「お・・・・・・俺が知る訳ねぇだろ!!こっちが聞きてぇくらいだ。なあ勇人お前なんか知らねぇのか?」
剣二と呼ばれる男の勇者は、もう一人の男の勇者の肩を揺さぶる。だが彼もまた、この現状を理解できていない者の一人である。
「ごめん、僕も分かんない・・・・・・屋上に行っても戻ってこないリーズさんと桜助を見に行って、気づいたらここに」
何の情報も得られず、剣二は不安を紛らすように何度も舌打ちをした。
「ちっ使えねぇなお前」
3人の勇者が不安そうにその場に突っ立っていると、開いていた扉の向こうから国王がやってくる。国王は勇者の前で片膝をつき、頭を垂れていった。
「勇者達よ。我々の世界に来てくれたこと、感謝する。どうかこの世界のために、君たちの力を貸して欲しい」
勇者達が人々の歓声と拍手を浴びていたその頃、ユーシア帝国の会議室では。世界各国の国王が、この部屋に一堂に会していた。その理由はもちろん、魔王誕生と勇者召喚に関する事である。
「君たちの国の王は、どこへ行ったのだ?我々はわざわざこうして敵地へ赴いている。姿を表すのが、道理ではないかね?」
一人の国の国王が、ユーシア帝国国王の席に座る青年に問いかけた。青年は各国の王を前にして尚、顔色一つ変えず平然とした只住まいで答える。
「王はこの城の召喚の間にて勇者を出迎えていますので、代わりに私が」
すると、1メートルの高さを誇る巨大な冠を被った他の国の女王が、声を上げる。
「そんなことはどうでも良いことです。それにしても、まさかここまで正確に未来を予言するだなんて。こうなると、あの悪魔の娘を逃がしたユーシア帝国の失態は大きいですよ?」
女王の追求をまるで意に返さず、青年は続けた。
「予言では無く予測です。我々は先日手に入れたこのラプラスの書によって、長年世界に願われた勇者を召喚することが出来ました。ですが、来る魔王覚醒の日。それ以降の予測は、我々の失態によりこの書物に記す事は出来ませんでした。魔王が覚醒して以降、人間が魔物に勝つためには、人間同士が国を超え、手を取り合う必要があります」
すると、ある国の国王が手を上げ、青年の机の前へとやってきて言った。
「・・・・・・協力させてもらう。いちいち人間同士で領土を取り合っている間に、魔王に我々の国を滅ぼされたら元もこもない」
その言葉を皮切りに、次々と他の国の王たちも手を上げ始める。その様子を見て、青年は不敵な笑みを浮かべて言った。
「では、この同盟の書にサインを」
※
その日の夜は、野宿をした。
硬い地面に寝そべりながら、リーズさんの魔法でできた火を見つめる。
「炎は、紫なのか」
この世界では、様々な色が現実世界と異なっている。
空の色は黄色だし、夕日の色は緑だった。
植物の葉も、緑じゃなくて青色。
あれ、でもおかしいな……俺が魔法で放った火の玉は、黒色だった気が……。
「魔王様、何故世界を支配してくださらないのですか?まさか、まだ人間を殺すのが嫌だとか言うわけじゃありませんよね」
あの後、俺はリーズさんの、世界を支配して欲しいというお願いを断った。
そりゃ断る。確かに人を殺したことで、感情は動かなかった。もちろん、罪悪感はある。だが不思議と、自分が殺した人達に感情移入ができない。
悪いことをしたら、自分に返ってくる。人は心のどこかで楽その言葉に怯えて生きているし、だから人を殺すことを怖いと感じたり、戦地に行った兵士がトラウマを抱えたりするんだ。
なのに、それらが一切ない。みんなで育てた花を枯らしてしまった。その程度の罪悪感。何万人も殺しておいて、あまりにも軽薄。
でもやっぱり、だからと言って人を殺すのは、気分が良くないのは確かだけども。
人を殺すことが怖いと、そう思えない。
「しつこいぞ、そもそもお前が巻き込んだんだろ。そんなに人殺して欲しかったら、俺じゃなくサイコパスの奴を屋上から突き落とすんだったな。探せば学校に一人はいただろ」
「また、訳の分からないことを」
リーズさんの……いや、リーズの奴の深いため息が聞こえた。
「まさか、魔王がこんな奴だったなんて……幻滅も良いところだわ」
「は?」
流石に、イラッときた。絶対聴こえるように独り言を言いやがった。
「わけ分かんねーのはこっちなんだよ。俺をすぐに元の世界に返せや」
「……」
無視!無視無視無視!こんなむかつく奴だったか?こいつ。
まるで別人だ。猫被ってたのか?もー本当にわけ分からん!
「チッ、あーもう知らねー」
爆発しそうな怒りをなんとか舌打ちだけで発散し、投げやりになって空を見上げる。
そこには満点の星空があった。星の光は赤色、真っ暗な闇の中には、天の川見たくぼんやりとした赤いモヤがかかっている。
「趣味悪ぃ、血みてぇ」
血の川……か。俺はこの世界で、沢山の人間を殺した。もうとっくに後戻りはできない。リーズもなんかわけ分かんねぇし。
殺した。もうとっくに後戻りはできない。リーズもなんかわけ分かんねぇし。
でも、こいついないと俺、どうやって生きていけば良いんだ。この異世界で。
「くそっ……悪かったよ。お前の言うこと聞くよ、世界を支配?やってやるよ」
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