第八話〜誕生の日
「俺が、やったのか?」
いや、ここまでするつもりで魔法を撃ったんじゃない。只ちょっと、リーズを追っていたフードの奴らを追い払おうとしただけで……。
そうだ、あのフードの奴らはどうなった?
後ろを振り向いたその瞬間、俺の思考はそこに広がっていた景色同様に、無になった。
跡形もなく消え去っているフードの男達。そして、その奥にあった城壁も、その奥にあった民家もない。あれだけどっしりとそびえ立っていた巨大な城もない。
「町が……」
消えている。
俺のせい……なのか?
俺が放った、魔法のせいなのか?
俺が放った魔法のせいで、町が……消えちまった。
「アルマ王国の首都を、たった1発の魔法で消し飛ばすほどの力……やっぱり」
突然、背後から聞き覚えのある声がした。茫然自失状態の中、ゆっくりと声のする方に振り向いた。
そこには、俺を羨望の眼差しで見つめるリーズさんの姿があった。さっきまで、血まみれの状態で気絶していたはずなのに、彼女は魂が抜けたように無表情で、俺の事を見つめていた。
「あなたが、魔王様なのですね」
彼女は俺に頭を垂れてひざまずき、そして言った。
「私の名前はラス・リーズと申します。どうか、あなた様の配下に、私を置いてください」
城を吹き飛ばし、沢山の人を殺した。それを自覚する前にリーズさんが声をかけてくれたおかげで、俺の心は壊れずにすんだ。
だけど、壊れる寸前の俺の心に、余裕なんて一ミリもなかった。魔王。俺には何てことの無いありふれた侮辱の言葉は、俺の怒りをとうとう沸点まで登らせた。
「……お前、ふざけてんのか?何が配下だよ」
俺はリーズの胸ぐらを掴み、大声で怒鳴った。
「言えよ!! 何で俺を殺して!! こんな異世界に連れてきた!! 俺をどうするつもりなんだよお前!!」
焦りと、罪悪感と、虚無感と、責任をリーズにぶつける。
だけど、リーズさんは意にも介さなかった。まるで抜け殻みたいに、俺の感情をリーズさんはスルーして言った。
「何を嘆いているのですか? 魔王様。魔物が人を殺すなど、よくある話です。何もおかしな事はありません」
こんな時に魔王呼び……もう呆れてくる。
「桜助って呼べよ……こんな時にまで魔王扱いすんな」
リーズは、不思議そうに頭をかしげて言った。
「桜助……が、誰のことかは存じ上げませんが、その牙も、紫色の肌も、頭に生えた2本の角。町1つを軽く滅ぼす強大な魔力。貴方が魔王であるとしか思えないのですが」
「存じ上げませんってお前、ふざけるのもいい加減に!……」
牙……紫の肌?
口元に手を当てると、今までそこになかった、堅い感触があった。鋭かった俺の八重歯が2本、更に鋭く巨大な牙に変貌している。
頭に手を当てると、口元と同じような堅い感触が2つ。
慌てて腕についていた籠手を外し、手の色を確認する。紫の手に、鋭利な長い爪。
「嘘だ……じゃあ俺は、本当の」
魔王に、なっちまったっていうのか?
うろたえてバランスを崩しそうになる俺を、リーズはさっと立ち上がって支え、そして言った。
「ですから魔王様、人を沢山殺したからと言って、うろたえる必要は無いのですよ」
「まぁ、そうだな……え?」
あれ……あれ?なんで俺、なんとも思ってないんだ。何千人も、何万人も殺したんだぞ。
「俺が、人を殺した……」
現実味を、感じていないのか。言葉に出して、自分に言い聞かせる。
だが、何も思わない。
嘘だろ……嘘だろ嘘だろ!?
俺、心まで魔物になっちまったのか?
罪を意識しようとすればするほど、罪悪感から遠のいていく。
あまりの平常心と、自分の犯した現実とのギャップ。
なんだこれ、気持ち悪い……気持ち悪い!
「うっ」
咄嗟に口を押さえると、リーズさんは俺を介抱するようにの背中をさすりながら言った。
「申し訳ありません、魔王様。先ほどの質問なのですが。前の2つの質問に関しては、私はその答えを存じ上げませんので、3つめの質問にはお答えします。」
「存じ上げないってお前、無かったことにする気かよ!」
リーズさんは、怒鳴りかけた俺の言葉を冷たく遮って言った。
「私は、魔王様に……」
リーズの真剣な眼差しに、俺は思わずドキッとした。それは、決して彼女が綺麗だったからではない。
彼女がこれから放つ言葉が、この世界での俺の一生を決める。そんな予感がした。
「人類を滅ぼし、世界を……支配して欲しいのです」
同刻、ユーシア帝国 召喚の間。
何百人もの魔術師達が、国の中心部にある城をも飲み込むほどの巨大な魔方陣に魔力を注いでいる。
召喚の間の入り口からその様子をのぞいてたユーシア帝国国王、デイズ・トレス・ユーシアは、首元まで伸びる白く長い髭をいじくり回しながら、神妙な顔つきでその様子を眺めていた。
直後、若い一人の兵士が国王の下へとやってくる。
「デイズ王、報告があります」
国王は部下の方を見向きもせず、只々魔方陣の中心を見つめている。困った様子で王を見つめる部下。しばらくすると、王は口を開いた。
「良い、報告の内容は分かっている。下がれ」
兵士は王の言葉に内心首をかしげながら、敬礼をしてそのまま帰って行った。しばらくすると、魔方陣がまばゆい光を放ち始めた。そして次の瞬間、稲妻が落ちたようなけたたましい轟音と共に、魔方陣の中心から一本の光の柱が天高く立ち上る。
付近にいる魔術師達は、その美しい光景に喜びの歓声を上げた。
「ラプラスの書の通りだ。我々の長年の努力が、ついに実ったのだ!!」
王もまた、静かに喜びの声を上げた。
「ついに現れる。我々を魔の手から救う、異世界より来たりし勇者が」
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