第七話〜破壊
さっきの勘の正体がこいつだったことは、一目で分かった。彼らが俺に向ける目は、背筋が凍り付きそうになる程に、冷たい。それに、見た目で判断するのは良くないが、いかにも悪そうな風貌ですかした笑みを浮かべている。
「その悪魔をこちらに渡してもらおう」
男はニヤリと頬を上げると、左の手のひらから鮮やかな魔方陣が浮かび上がった。そして、魔方陣の中に手を入れると、中から拳銃のようなものを取り出した。
ここで、俺は初めてこの異世界が魔法を使うことが出来る世界だと知った。
「その悪魔をこちらへ渡してもらおう」
男は銃口をこちらに向け、警告してきた。人のことを悪魔と呼ぶこの男の態度が、俺の癪に障る。
「悪魔?人のことをそんな風に言うもんじゃねぇだろ」
男は不敵な笑みを浮かべて答えた。
「ふん、魔物のお前が、人を語るか」
「魔物?お前・・・・・・俺の顔見て言ってんのか?」
「その醜い顔以外に、何があるのかな?」
なんて奴だ。お互い初対面なのに、面と向かって人の容姿を、あんなに蔑んだ目で馬鹿にしやがって。
親の顔が見てみたいぜ。
「・・・・・・馬鹿だなお前、そんな頼み方で自分の言うこと聞いてもらえると思ってんのかよ」
俺は男の冷たい目つきに負けじと、俺の鋭く鋭利な目つきでにらみ返した。すると、男がフッと笑ってこちらに近づいてきた。
「抵抗するというのなら良いだろう。武力行使でいかせてもらう」
次の瞬間、男の背後から何百人もフードを被った集団が、どこからともなく現れた。そいつらは俺の周りを一瞬で取り囲み、退路を断った。
どうやら、戦いは避けられないらしい。喧嘩は正直嫌いだ。殴られたら痛いし、殴っても痛い。
「フッ、構えろ」
男の一人がそう言うと、フードを被った奴ら全員が、先ほどと同じ魔方陣を左手に浮かび上げ、そこから拳銃のようなものを取り出して俺に向ける。
「ちっ、ずるすぎだろ」
フードを被った男達が持つ拳銃の銃口から、一斉に魔方陣の光が浮かび上がる。
「やばい」
逃げ場は無い、また死ぬのか。訳も分からず、何も出来ないまま。
今までは、馬鹿にされるがまま惨めにその場をやり過ごしてきた。そのせいで、俺は惨めな思いをし続けてきた。
不穏な気配を察知したのか、リーズは再び目を覚まして、俺に逃亡を促した。
「に・・・・・・げて」
そういえばこいつも、前の学校で嫌な目に遭ってきたんだよな。きっと俺みたいに、人から腫れ物を見るような目で見られて・・・・・・陰で馬鹿にされて。
なんだよ、俺と同じじゃねぇかよ。
もし、これが二度目の最後だと言うのなら。最後くらいはプライドを傷つけられた、俺たちの怒りを晴らしてやりたい。今の俺なら、それが出来る。そんな気がする。
「お前ら、たまにはな・・・・・・」
悔いは怒りに、虚しさは俺を冷徹にする。
「馬鹿にされる奴の惨めな気持ちも考えやがれ!!」
気づくと、俺の体の目の前に、天にも届くほどの巨大な魔方陣が現れた。
「・・・・・・なんだこれ」
察するに、フードの男達が使っていた魔法と同じ物。でも、俺は魔法の使い方なんてしらないし、教わったことも無い。しかし、何をどうすれば魔法を発動させることが出来るのか、直感で分かる。
フードの男達は巨大な魔方陣を目の当たりにし、静かに後ずさる。
「なんだ、あの巨大な魔方陣は・・・・・・まさか、ラプラスの書に書いてあった魔王というのは・・・・奴のことなのか!?」
俺は、フードの男が言い放った禁句ワードを聞き逃さなかった。
「お前今、魔王って言いやがったな!? どうなってもしらねぇぞ!!」
フードの男が血相を変え、仲間達に向かって叫んだ。
「全員俺の所にあつまって魔力をひねり出し、防御壁を作れ!!何としても奴の魔法を食い止めろ!!」
フードの男達は、俺の行く手を塞ぐように一カ所に集まると、魔方陣で光の防御壁を作り出した。俺は、心の内にこれまでたまっていた怒りの炎ぶつけるように、叫ぶ。
「うぜぇんだよボケがぁぁぁぁ!!」
魔方陣から、巨大な火の玉が浮かび上がり、俺の叫びと共に、火の玉はとんでもない速度で発射された。
大地をえぐりながら進んでいく火の玉は、フードの男達が張った魔方陣をいとも簡単に破壊した。
「な・・・・・・」
次の瞬間、フードの男達は火の玉の中に飲み込まれていき、嘘のように消え失せてしまった。
「はぁ、はぁ」
まだ興奮が収まらない。人の悪意に、明確な敵意を持って反撃したのはこれが初めてだった。自分にも力があるんだという喜びと、戦う事への怖さ。そして、敵を倒した高揚感。早くなった鼓動は全く収まらない。
「・・・・・・俺、やったのか」
フードの男達は見る影もない。今までのことを思い出すと、なんとも言えない喜びと興奮があふれ出しす。
「よ・・・・・・よっ!!!!」
次の瞬間、辺り一面が真っ白になるほどのまばゆい光と同時に、俺の鼓膜をぶち破るほどの大きな爆発音が辺りに響き渡った。
やばい……。
直感でそう感じた俺は、とっさにリーズを地面に下ろし、爆風を受けない用に覆い被さった。
爆風は森の木々を容赦なくなぎ倒していく。
「くっ」
しばらくすると爆風は収まり、さっきの爆発音は嘘のように消え失せた。一体何だったのだろうか、この爆発音は。もしかしたら、さっきのフードの奴らがまた何かしたのでは?。いや、あいつらはちゃんと倒したはず。そんな事より、早くリーズさんを町につれていかない・・・・・・と。
俺は町に向かうべく、立ち上がって前をむき直した。そして、絶句した。
「え……は?」
どこまでも広がっていた巨大な城壁は見る影も無く、たくさんの人が住んでいたはずの城下町は跡形も無く消え去っていた。
あるのは、開けた景色と、どこまでも立ち上るキノコ雲だけだった。




