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第六話〜異世界

 しばらく時間が経ち、涙も枯れてきたころ。

 俺は、新しい世界の自然を目一杯感じながら、気づけば当てもなく、青々とした草原をのんきに歩き出していた。やっぱり、この世界の自然の力はすごい。孤独だった俺の心をいやしてくれる。この世界に歓迎されているように感じて、生きる活力みたいなものが沸いてくる。

「すげぇ」

 感動のあまり思わず言葉が漏れた。特にこの大自然で美しいと思ったのは、向こうに見える青い木々で出来た森だ。黄色い空の色と相まって、神秘的に見える。

 近くまで来て分かったが、森の木々はほんのりと淡い緑の光を放っていた。森の中に入ると、日の光が当たりづらくなったが、その代わりに青い木々の光がより鮮明に見えた。

 更に森を進むと、他の木々とは一際違う異彩を放つ木を見つけ、俺はその木の根元へ吸い寄せられるように歩いて行った。

「でっけぇ」

 他の森の木々と比べると、大きさは倍以上。光り方も、他の木々とは段違いだ。スマホがあれば、この美しい大木を写真にでも収めたかった。

「……けて」

 あまりの生命力に、この木が俺に何か語りかけているのでは無いのかと錯覚し、幻聴さえ聞こえた。

「……誰か」

 幻聴? いや、違う。この木の反対側から、今ハッキリと聞こえた。女の声だ。

 しかも、聞き覚えがある。

 俺は、急いで木の裏側へと回った。

「お前……」

 見覚えのある少女だった。腰まで伸びた赤毛に白い肌。緑のマントのような服を羽織った、見れば誰もがバラの花を連想するあの美しい少女が、大木の幹に寄りかかっている。

「リーズ、なんでここに!!」

 俺を散々たぶらかし、挙げ句の果てには学校の屋上から突き落として殺しやがった張本人。

 どうして現代にいたこいつが、この異世界にいるんだ。

 いや、そんなこと今考えたところで分かるわけがない。一つ分かることがあるとすれば、俺はこいつによって異世界に転生させられたと言うこと。

「おい、何とか言えよ!ここはどこだ!お前なんか知ってるんじゃねぇのかよ!」

 だが、リーズからは返事が無い。俺は側まで駆け寄って、木に寄りかかっているリーズの体を揺すった。

「お前どういうつもりなんだよ!!」

 手に、生暖かい感触がした。見ると、俺の手はリーズの血で真っ赤に染まっていた。

「……は?」

 頭が真っ白になった。こういうときは一体どうすれば良いんだ。まず、119番……は携帯が無いし、救急車を呼ぶにも、そもそもここは異世界で、救急車なんて便利な物があるはずが無い。なら……病院だ!この森の向こうにある、城壁に囲まれた町。あそこに行けば、とにかく病院かなんかはあるはずだ。

「ちっ待ってろよ、とにかくあの町の病院つれてってやっから!」

 俺はリーズさんを背中に背負って、何も考えず一心不乱に町の方へと走りだした。

 不思議と、人一人おぶってるはずなのに、重たいという感覚はない。

 直後、かすかに意識を取り戻したリーズが、弱々しい声でしゃべり出した。

「あ……りが……とう」

 ことごとく俺はしょうも無い男で、俺を殺した悪魔みたいな女だって言うのに、たった一言お礼を言われただけで、すぐに格好つけてしまう。

「あんま無理すんな。医者の所まで我慢しろ」

 よく考えたらこの状況、結構ドラマチックなのでは?瀕死の女の子を助けるなんてかなりの王道展開。あれ、でもおかしいな。瀕死の女の子って言うか、瀕死にさせられたのは俺の方だった気がするんだけど。

 なんてことを考えていると、リーズは残った力を振り絞り、俺の頬をつねった。

「痛って、お前何すんだよ!」

「そっちは……駄目」

「は?何言ってんだよ、お前重傷なんだぞ?病院行かないと死ぬだろ!!」

「ちが……う、これを持って……逃げて……」

 リーズが震える手で俺の目の前に差し出したのは、本か何かのページを破った1枚の紙だった。

「そんなもん、後で助かってからで良いだろ。ついでに、助かったら俺を屋上から突き落とした理由聞かせてもらうからな!!」

「何を……言って」

 リーズのしがみつく腕の力が抜けた。どうやらまた気絶したらしい。これは一刻を争う事態になりそうだ。そろそろ森を抜ける。とにかく今は、町に向かって走るしか無い。

 進んでいく内に、徐々に木々が少なくなっていき、森の出口が近いのだと分かった。木々の間を走り抜け、この深い森から出かかった時。

「!?」

 突然、俺の頭の中に電撃が走った。電撃と言うよりは、勘と言った方が近いかもしれない。とにかく、自分に敵意のある者が近くにいる。何故かそれが分かった。

 全速力で走る。信じられないほどのスピードで、視界の木々が後ろへ流れていったが、今は必死すぎて違和感を感じなかった。長く続いた深い森をあっという間に抜ける。

「……お前らか」

 森の出口で待ち構えていたのは、灰色の怪しげなフードを被った一人の男だった。まるで俺が出てくるのを分かっていたかのように、森の出口の目の前でこちらを向いて立っている。

「……」

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