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第三話〜桜助と勇人

「何その手、剣二に喧嘩売ってんの?」

 いつも剣二の前では猫なで声で話す優華が突然、ドスのきいた低い声でしゃべり出し、俺を睨み付けた。

「先に喧嘩を売ったのはあなた達のように見えたけど、もしかしてそんなことも分からないんですか?」

 やばい雰囲気だって、分からないんだろうか。リーズさんは一ミリも優華の圧に動じず、むしろ煽った。

「ふーん、じゃああたしらが売った喧嘩を買うってことね。マジで、今度から普通に学校来れると思うなよ?」

「え・・・・・・優華?」

 基本的に優華達にたてつく者はいないため、見たことない優華の姿に、剣二が若干引いている。

「いや・・・・・・冗談だってば剣二―!!早く昼ご飯買いに行こーよ♡」

「お、おう・・・・・・じゃあ行くか」

 そう言って、二人はせっせと購買の方へと向かったきり、学校に戻ってこなかった。

 その後俺たちは、剣二達が学校から帰ったことで、無事平穏な一日を送ることが出来た。昼休みに少し顔を出しただけでもあの迷惑ぶり。一日中いられたらたまったもんじゃ無い。只でさえクラスの連中も、俺に対しては当たりが冷たいっていうのに。冷たいって言うか、怖がられてるだけかもしれないけど。

 それにしても、あんなことがあったせいで、ますます俺はリーズさんのことが気になってしょうがない。本当に俺は単純な男だ。あんな風に俺のことを言ってくれてるんだ、俺のこと好きなんじゃないかと妄想してしまう。そもそも既に下の名前で呼ばれてるし、なんてったって俺の心がきれいだとか(言ってはいない)高貴な方だとか(これは言った)、まだあって少ししか立ってないのに、俺にぞっこんなのでは?中学の時、顔が怖いという理由で女子に振られて以来、一生彼女が出来ることは無いと思っていた。だけど、もしかしたらまだ、希望があるのかもしれない。

「おい、お前リーズさんに惚れただろ」

「うわっ」

 勇人が夢の世界の住人となっている俺に耳打ちをし、俺は寒気がして現実に引き戻された。

 見ると、勇人が下心丸出しのおじさんみたいににやついた顔をして俺の顔をのぞき込んでいる。

「べ、別にそんなんじゃねぇし!?全然、リーズさんの事将来の妻だとか思ってねぇし?」

「そこまで行ったのかよ、早く夢から覚めろ。もう学校終わったぞ?」

 いつの間に、とクラスを見回すと、教室には俺と勇人しか残っていなかった。

「・・・・・・リーズさんは?」

「帰ったんじゃね?」

  全く、自分が情けない。こんな妄想ばっかりしている間にリーズさんが帰ってしまうなんて。くよくよしてないでガツンと自分の気持ちを伝えれば良いのに、中学の時のことを思い出すと何も出来ない。

「そんな露骨にがっかりすんなって、脈があるのは確かだろ?お前にとって人生唯一のチャンスじゃんか、諦めんなって」

「お前馬鹿にしてんだろマジで」

「馬鹿にはしてる。でもさ、お前口悪いから勘違いされがちだけど、あんな良い子がお前の本質分かってくれてるんだぞ?何が何でも付き合えよ。僕も全力でサポートすっから」

 本当、こいつは良い奴だ。こいつのことを、俺は生涯の友にしようと今決めた。

「ちなみにもし、俺が付き合えなかったら?」

「僕がもらっちゃう」

 生涯の敵になる可能性が出てきた。

「何の話をしてるんですか?」

 突然、帰ったと思っていたリーズさんが背後から声をかけてきた。俺と勇人は驚きつつ、リーズさんが今の会話を聞いていないと言うことを知ってホッとした。

「あ、えーと今ね、リーズじゃ無くてリスの話をしてたんだよ!!リスの話を!!な?桜助」

 勇人、フォロー下手くそすぎだろ。

「お、おう・・・・リスじゃ無くてリーズの話してたんだ。お前には関係ない話だからどっか行ってろ・・・・・・あ」

 バッカお前!!と言う目で勇人が俺のことを見ている。流石に俺も失言だと思った。なんで自分から帰らせるようなことを言ってしまうのか。俺の馬鹿!!

「分かりました・・・・・・」

 言わんこっちゃ無い。と、勇人の顔がそう言っている。

「いや・・・・・・悪い、間違えたんだ。別に帰んなくても良いから!!」

「いえ、何かしらご迷惑があるのは確かです。その代わり、後で学校の屋上に来てもらえませんか? 桜助さんだけ」

「……え?」

 勇人は持っていたリンゴジュースを落とし、唖然としながら俺の方を振り向いたが、俺はリーズさんから目が離せなくなった。まるで体の運動エネルギーを全て心臓に使っているのでは無いかと思うほど、俺の思考と体はピタリと動きを止め、心臓のみがいつもの5倍くらいのは早さで脈を打ち始めた。

「おい、何か言えよ桜助」

 勇人の言葉にハッと我を取り戻し、俺はなんとか固まった唇を開く。

「な・・・・・・ななんか、用でもあんのかぁよっ?」

「ブフォ」

 緊張しすぎて声が裏返った。それを見た勇人は、口の中に残って無事だった残りのリンゴジュースを盛大に吹き出した。……こいつには、後で話を付けておこう。

「大事な話があるんです」

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