第三十話 行き先
「本当に良いのか?こいつら氷漬けにしたままで」
俺が問うと、ルーメはコクリと頷く。その返答を受け、思わずリーズの顔を見る。だが、リーズは初めからそのつもりだったので、ほら言ったでしょ?と言った顔でぷいっとそっぽを向いた。
「そんな、駄目だよルーメ。この町の人達は皆、必死に生きてる。その人生を台無しにしちゃ駄目だ。僕の鎌の中にいたのなら、この町で生きる人の人生を見てきた君なら、分かるはずだ」
「でも、生きてこそ、でしょ?」
病に伏せ、生きる事のできなかった少女のその言葉には、何よりも代えがたい説得力があった。
その言葉に、メトスもハッとして、彼女の言葉を受け入れる。
「そうだね、ルーメ」
メトスとルーメは、100年ぶりに心を通わせ、お互いニコリと笑い合った。
何というか、リーズは魔族を嫌ってるし、人間は魔王の俺を殺そうとしたりしていたけど、人間と魔族の心は、繋がれる。
人と魔族が争うこの世界にとって、尊い光景を見ているような気がした。
「お二人が話しているところ申し訳ないのですが」
リーズは、そんな二人の空気に難なく割って入った。
本当、もう少し空気読んでやれよ……でもそういえば、学校にいたころのリーズも、あんまり空気読めない奴だったな。
「ルーメさん貴方、未来を知っているような口ぶりでしたね。これから世界は戦乱の渦に飲み込まれると。その未来、一体どこで知ったのですか?」
そういえば確かに、そう言っていた。この町を凍りづけにしたままにする理由も、ルーメの言っていた戦乱の渦に巻き込まれていく未来を見越したものだ。
「もしもラプラスの書で知ったのでしたら、貴方はそれを、どこで読んだのですか?」
「ラプラスの書……」
リーズの言葉に、思わず俺も呟く。未来を知る、そんな方法確かに、俺はラプラスの書意外に知らない。
「ラプラスの書?……あー、あれ。違うよ、私が未来を知ったのはラプラスの書じゃない。未来を知っている人の走馬灯を見たんだよ。いや、人じゃなくて魔族か」
「走馬灯を見たって、一体どうやって……走馬灯は、死神の鎌で突刺した者じゃないと見れない筈」
「100年も鎌の中にいたんだから、私という魂が、鎌という人間の体のように魂を内包できる器に、時間をかけて少しずつ一体化しても、何ら不思議はないでしょ?」
「鎌と一体化って」
流石にあの死神であるメトスも目を丸くしている。無理もない。自分が殺した少女の魂が、武器と一体化してましたなんて意味不明な話急に言われてもな。
しかも、話の流れからして察すると、鎌には走馬灯を見る力が合って、ルーメはその力を自在に使えると。
「鎌と一体化した魂が、魔王様のおかげで姿を得た。今の私は、触れるだけで走馬灯が自由に見れるんだよ。何ならやろうと思えば、命だってメトスみたいに刈り取れるよ。やらないけど」
「はは……それはすごいな」
メトスも驚きすぎて、乾いた笑いしか出ていない。
無理はない。だってもうそれ、ほとんど死神だろ。四天王一気に二人加入か?これ。
「理由は分かりました。ですが重要なのは、一体誰の走馬灯を見たかです」
「確かに、ラプラスの書じゃないっていうなら、自前で未来見える奴がいるってことか?占い師とか」
もしも本当にそうだとしたら、ラプラスの書になんか固執せず、占い師に元の世界の帰り方とか聞けば万事解決なのでは?
「いえ、ラプラスの書以外で未来を知ることができる存在は、独りしかいません。ラプラスの書を作り出した、魔王様にも匹敵する力を持つ、ラプラスの悪魔しか」
ラプラスの悪魔……っていうのがいるのか。俺に匹敵する力を持つって言うなら、もしかしてそいつもいずれ、四天王の一人になるのか。
そいつが仲間になれば、わざわざラプラスの書を探す必要もない訳か。
「ルーメ、まさかラプラスの悪魔が、この町にいたのかい?」
メトスも驚きながら、ルーメに問う。
「ごめんね、それは今、貴方達が知るべきじゃない。私は彼女を通して、全て知ってしまった。ここで彼女の居場所を教えて、未来の歴史が変わってしまうことは避けたいの。下手をすれば、酷い未来へ変わってしまうかも知れないし」
「……そう、ですか」
リーズが少し肩を落すと、ルーメは続けた。
「でも、貴方達が次に行くべき場所を示すことはできる」
「俺達が、行くべき場所」
「どこですか!」
リーズがキラリと目を光らせ、ルーメに歩み寄る。
「ここから北西に進んだ位置にあるバベルの山。そこへ行けば、もう一人の四天王に会える。その後、そこから更に北に進むと、魔人族の村がある。そこで、最後の四天王に会える」
この情報は、かなりありがたい。
「ありがとな、ルーメ。色々全部終わったら、この町の氷を溶かしに来るついでに、お前に会いに来るわ」
俺が言うと、ルーメは首を横に振って言った。
「大丈夫。私はもう……満足したから。メトスが仲間と出会えたところも見届けられて、最後にメトスと話もできた。もう、思い残すことはなにもないよ」
誠に勝手ながら、エタらせない為に一つの作品に集中すべきと判断し、このフローラル編を区切りに、一度この作品の連載をストップします。
後日譚である《勇者と魔王の後始末~女王エレナは元村娘》の作品を主に上げ、完結しだいこの作品を再開いたします。
フローラル編は次回が最終回です。誠に申し訳ありませんが、何卒よろしくお願いいたします。




