第三十一話~別れ
「大丈夫。私はもう……満足したから。メトスが仲間と出会えたところも見届けられて、最後にメトスと話もできた。もう、思い残すことはなにもないよ」
ルーメの放ったその言葉が、何を意味するのか、俺達三人が気付いた時。
彼女の体が、淡い光を放ちながら、薄くなり始めた。
「ルーメ……」
メトスは、薄れ行くルーメの姿を見て、拳を握りしめる。
彼はルーメに成仏して、生まれ変わって欲しいと言っていた。
そんなメトスの望みの通り、ルーメは自身の意思で生まれ変わる事を望み、成仏しようとしている。
だが、100年ぶりに再会したにも関わらず、訪れたのは永遠の別れ。
彼女が成仏する事を望んでいながらも、彼女との別れを惜しむメトスの心の内は、計り知れない。
「一つだけ、良いかいルーメ」
「何?」
「もう一度、二人で見に行かないか。君の好きだった、メモントリの花園を」
「……うん!」
そこには、年相応な無邪気な笑顔を浮かべた、少女の姿があった。だが、その目にはうっすらと、涙が浮かんでいた。
「魔王様、後で必ず参ります。どうか少しだけ、時間をください」
断る理由はどこにもないが……一応リーズの顔をチラリと確認する。
流石にリーズも、こんな場面で出発が遅れるからどーのこーのとぶち壊しになるようなことも言わないみたいだ。
俺は何も言わず、ただ頷いた。
それを見たメトスは、ルーメと顔を合わせて頷き合い、二人で空へ向かって飛び立った。
「魔王様、リーズさん。ありがとう。この町と、メトスを救ってくれて」
空に浮かんだルーメが途中で止まり、俺の方を振り返って言った。
きっと、この少女と交わす最後の言葉になる。
これから消えるこいつに、何て言ったら良いのか、正直俺には分からなかった。
でも、こんな小さい体で生きて、死んだ後も友人のことを見守り続けたこの子に対して、ふさわしいのかは分からないが、心からポンっと思い浮かんだ言葉があった。
「良く、頑張ったなルーメ……お疲れさま」
ルーメは驚いた様にメトスの顔を見ると、メトスも全く同じような顔をしていた。
ルーメは少しだけ嬉しそうに俺の方を振向くと、小さく頷き、メトスと共に向かって言った。二人の、思い出の地。メモントリの花園へ。
※
あの後、ルーメとの別れを終えたメトスと合流し、俺達は氷付けになった花の町を後にした。
久々の草原。町よりも強く、心地良い風が吹き荒れ、足音は風にそよぐ草木の音で消されていく。
「メトスお前、本当に引き留めなくて良かったの?説得したら、わんちゃんこの世に残ってくれたんじゃねぇか?ルーメ」
フローラルの町を出立してから二日。メトスは未だに、成仏して二度と会えなくなったルーメの事を気にしているのか、浮かない顔をしている。
「いえ、ルーメが選んだことです。僕が口を出してはいけない」
「まぁ、お前がそう言うならそれで良いんだけどさ」
俺がそう言うと、メトスはニコリと俺に微笑んで言った。
「気にかけてくださり、ありがとうございます。やはり魔王様は、顔に似合わずお優しいですね」
「ブフッ」
黙り込んでいたリーズが、思わずそっぽを向いて吹き出した。
俺も驚いて唾を飲み込み、それが変なところに入って盛大にむせる。
「ゲホッゲホッ、は?お前喧嘩売ってる?」
「喧嘩……売ってました?僕」
あぁ、どうやら自覚がないらしい。もしや顔に似合わずお優しいって、フォローのつもりなのか?俺が顔を恐いってことの。
つーかこの顔、魔族の間でも恐い顔なのかよ。魔物なんてすげー顔の奴ばっかりなイメージだから、まだマシな方だと思ってた。
「チッ、リーズ。バベルの山まであとどんくらいかかんの?」
これ以上会話を広げたくないので話を変え、俺は向こうにそびえ立つ塔のように螺旋状に捻れた異質な山を見て、リーズに問う。
「あと一ヶ月程で到着します」
一ヶ月か。前回のリーズとの二人旅よりは大分マシだな。メトスもいるし、余計なこと喋らなきゃ良いけど。
「ま、何とかなるか。とりあえず、寄り道せず真っ直ぐ向かうか。次の四天王がいるっていうバベルの山に」
俺がそう言うと、リーズとメトスの二人は、声を揃えて言った。
「はっ!」
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