第二十七話~誰だ
くそ、こんな所でまた命一個無駄遣いかよ!
そう諦めたその時、メトスの鎌は俺ではなく、空を切り裂いた。
「え?」
直後、聞き覚えのある声。
「何をしているのですか魔王様!そんなもの早く人間達の元に落としてやれば良いのです!幻惑の魔法が切れる前に、早く死神を制圧してください!」
見ると、地面からこちらを見上げているリーズの姿があった。死神が空ぶったのは、リーズの幻惑の魔法のおかげらしい。
現に、空ぶってからの死神は、あらぬ方向に鎌を振り続けている。少し滑稽に見えるくらいに愚直に、全力で。メトスらしく。
「ふっ」
こんな状態のメトスなら、倒すのは簡単だ。リーズの奴、何で肝心なときにいないんだよ。
「リーズ、ナイス!!その調子で幻惑の魔法使って、こいつらの避難頼む!」
俺が叫ぶと、リーズはぎろりとさらいこちらを睨み付けた。
「人間の為に・・・・・・何故私が!」
くそ、こいつの変な人間嫌いに付き合ってる暇なんてない。
「命令だ!早くやれ!俺はお前がやるまで、時計放さないからな!!」」
「・・・・・・本当に何故、こんな奴が」
リーズは、憎しみを募らせたような目で俺を見ながら、先端のなくなった時計塔を軸に、ピンク色の魔法陣を展開する。
すると、人々は規則的に、効率よく、整列して駆け足で時計塔の広場から離れていった。
「ありがとな!」
俺は誰もいなくなった広場に時計塔を落っことす。すると、落ちた時計塔は大きな音を立てて、粉々に崩れ去った。
「危ねぇ」
おでこに出た冷や汗を腕で拭き取り、俺は地面に落とした両刃剣を取りに行こうとする。その視界の端に、妙な光が映った。
「?」
見ると、俺の目に入ってきたのは、ビスケルの家から町の家々へと燃え移った、巨大な炎。
「嘘だろ・・・・・・まじかよ」
もう、山火事レベルで手に負えない程に広がっている炎。花を咲かすためにと、この町の家々は木材で出来てるもんだから、ひとたび大きな火事が起きたら手に負えない。
「が・・・・・・あ・・・・・・ア」
直後、死神のうめき声が耳に入った。見ると、死神の頭にはピンクの魔法陣が展開されている。
「魔王様!上!」
先ほどまでぶち切れていたリーズが、緊急を要するのか、敬語もなしに俺にそう叫んだ。直後に俺は、リーズが何故叫んだのかを理解する。
この町で、俺を襲った光の矢。あの光よりも何倍も、何十倍も大きな光が、俺の頭上を照らし出していた。
この町はおろか、辺りの自然まで根こそぎ消滅するであろう、強大な光の矢。
「ビスケルが、打ったのか?」
いや、あんなヘタレが自分事魔王を道連れにするなんて所業、できる訳がない。
俺は光の矢が作り出したキノコ雲に気付き、それを辿っていく。すると、この光の矢は地平線の彼方から放たれていた。
何者かが、俺を殺そうとしている。この町の人々の命など、気にもとめずに。
「ふざけんなよ・・・・・・皆殺しにする気か?」
力ある何者かが、虐げられるものの事を1ミリも考えず、自分達が安心する為だけに、町の住民を道連れにする。
誰だ、誰だ!
一つだけ分かることは、これを打ってきた奴は、魔物じゃない。俺を殺そうとしている点と、どこまでも自分達の為に合理的になれる生物の事を、俺は知っている。
そう、人間だ。こんなことをするのは、人間しかいない。
誰だ、気に食わない、許せねぇ、許さねぇ!
「誰だ、誰だーーーーーーー!!」
俺は、体の中の魔力を全て出し切って、光の矢をも覆う程の巨大な魔法陣を作り出した。
きっと、岩だとか氷だとか、物理的な攻撃を光の矢にしかけても、あんな豪速できてたらどれだけ固く作っても、爆発の余波できっと大惨事になる。
初めて光の矢を消滅させたように、光の矢の本体を燃やし尽くすしかない!
そうして、黒炎が魔法陣から姿を現した途端、その強烈な熱風が、辺りを吹き荒らした。
まだ魔法陣から出ている黒炎は、その実態の10分の1も、姿を現していない。
俺は平気だろうが、この規模の黒炎を放てば、光の矢を消滅させることができても黒炎の熱で、この町はきっと蒸発する。
「ぐ・・・・・・ま、おう」
メトスの頭の魔法陣も、少しずつ薄くなってきている。こいつがまた暴れ出したら、いよいよ俺でも収集がつかない。
ビスケルの屋敷の炎も、燃え広がる一方だ。俺がグズグズしてる間に、どんどん死んでいく。
方法は、もう一つしかない。
メトスが人々の認識によって人格が変わってしまうなら、人々全員がメトスを認識しなくなれば良い。
そんな暴論を元に、冗談でルーメが言い放ち、実行することはないと思っていた作戦の一つ。
「すまんルーメ、これしかない!」
俺が叫ぶと、鳴り響く轟音を遮り、ルーメの声が頭に響き渡った。
「いいよ、魔王が皆を、助ける為でしょう?」
「あぁ、当たり前だろ!」
俺は、足下にもう一つの巨大な魔法陣を生み出す。
「凍れ!!」
俺が念じると、黒の魔法陣は俺に呼応する様に時計回りに回り出す。
そして黒の魔法陣から、氷が形成されていく。
形成されていく氷に、町が飲み込まれていくほどの、巨大な、巨大な氷を。
あっという間に、花の町、フローラルは、俺の氷に飲み込まれていった。
その瞬間、メトスは気を失い、ふらーっと地面に落ちていった。
これで、黒の魔法陣の熱風を相殺できるし、メトスも洗脳から解き放たれた。俺は思う存分光の矢に魔法を放てる。
「さあ、これで終わりだ!」
俺は空に生み出した魔法陣に、残っている全ての魔力を注ぎ込む。
「――――!!!」
うめきながら、叫びながら、一滴の魔力も残さないつもりで。
そして、練り上げられた黒の魔法陣からは、大陽のように巨大な黒炎が姿を現す。
「誰だか知らねぇが、これを打った奴、ただじゃ済まさねぇぞ!!」
俺は黒炎を、光の矢に向かって、放つ。
「でやあああああああああ!!」
黒炎と光の矢が接触したその瞬間、とてつもない熱爆風が吹き荒れ、町の氷を溶かしていく。
そして、まばゆい光は巨大な虹色の光へと変わっていき、次第に黒炎に飲み込まれていった。
読んでいただきありがとうございます。
この作品の後日譚である、勇者と魔王の後始末~女王エレナは元村娘という作品も同時に投稿しております。この作品を気に入ってくださった方は是非、そちらも読んでみてください。
いや、何で後日譚先書いとんねん自分。




