第二十五話〜魔王vs死神
ガキーン!!という、鉄と鉄がぶつかる鈍い音が辺りに響き渡った。
前進に衝撃が走り渡り、跪くまいと大地を踏ん張ると、大地の方が音を立てて円状にひび割れ、深さ5m程の小さなクレーターを作り出す。
突如クレーターとなったことで足場を失った兵士達は、隊列を大きく崩して浅いクレーターの底へ真っ逆さまに落ちていった。
「ちぃっ!」
だが、宙に放り出された兵士達は、体勢を崩すことなくクレーターの斜面に着地。メトスの攻撃に耐えている魔王に向け、全ての兵士がたった一カ所に、魔力を込め、巨大な炎を練り上げ始めた。それも、すさまじいスピードで。
その炎に、光の矢の時に感じた俺の第六感のような感覚が、ビリビリと神経を伝って教えてくる。
この魔法に当たらない方が良いと。
俺は、とてつもない力で未だに俺を地に伏せようとするメトスの鎌をどけるため、踏ん張る足に更に力を込めた。
大地はまるで積もった雪の様にずぼりと俺の両足を飲み込んだがむしろそれによって俺の足場は安定する。
「おらっ!」
俺は両手に全身全霊の力を込めて、メトスごと鎌を振り払った。
すると、俺の力によって振り払われたメトスは、その衝撃で空へと大きく吹き飛ばされる。
俺は兵士達の練り上げた炎を避けるのも兼ねて、宙を舞うメトスに向かって飛び上がった。
その瞬間、兵士達によって魔法が放たれ、飛び上がる俺を追従する。
「ちっくそ」
俺は宙で体勢を変え、放たれた炎魔法を下にいる兵士共に向けて、右足で蹴り返した。
「お返しだっ!」
本来なら炎を蹴り返すなんて事できないはずだが、無意識に足に黒の魔法陣が展開されていた。恐らく何らかの魔法なのだろう。
だが、蹴り返した時、ほんの少しだけ熱く、痛かった。
この世界に来て冒険者達の雨のような魔法を受けたが、痛いと感じたのは初めてだった。
「あっつ」
思わず右足に残った炎に接触した感覚を払拭しようと、足を払う。
右足に向けた視線の先、クレーターの底にいる兵士達は、俺が蹴り返した炎魔法に対して即座に力を合わせ、巨大な水の玉を作り出して打ち消した。
「マジかよ、やるなめっちゃ」
ビスケルの指揮する兵士達とは思えないほどの連携と、適格な対処だ。
思わず感心しつつも、俺は空で鎌を構え、俺を待ち受けるメトスへと意識を戻す。
メトスは再び俺に向かって、俺に突撃してきた。
「同じ手食らうかよ!」
メトスが俺に対して鎌を振り回すタイミングを見計らって、その鎌に両刃剣を思いっきり振り回す。
ガキーン!再び巨大な金属音。俺は全力で両刃剣を鎌に絡ませ、その鎌を握っているメトスごと、メモントリの花園の方へと放り投げた。
そのまま追撃で、両刃剣の峰を思いっきり叩き込みたい所だったが、生憎俺は死神であるメトスのように自由に飛び回れる訳でもなく、重力に引っ張られて落ちていく。
「・・・・・・あ、そうだ」
先ほど、炎を蹴ったみたいに、足下に魔法陣展開すれば空気を蹴ることもできるんじゃないか。
生前よりもよく回る頭に閃いたアイディア。俺はそのまま実践して両足に魔法陣を展開し、空を蹴る。
「うおぉ!」
風船を蹴ったような弾力はあれど、その弾みによって俺の体は、望む軌道を、メモントリの花園の方へと向かう。
吹き飛ばされている死神の何倍ものスピードで。
「見つけたぜ」
メモントリの花園上空で体勢を立て直したメトスは、豪速で差し迫る俺の姿を見て守りの体勢を取る。
「遅いって」
再びぶつかり合う鎌と両刃剣。その衝撃で引き起こされた風が、街中の花々を揺らす。
「頑張れ」
ふと、そんな声が聞こえて振向くと、そこには俺とメトスの戦いを見届ける、ルーメの姿があった。
メモントリの花園付近のベンチの側で、俺達を心配そうに拳を握り、眺めている。
「おー!任せろ!」
とはいえ、メトスの戦いの技術は、俺よりも遙かに上だった。俺の一撃を上手く殺した死神は、すかさず俺の腸目がけて斬りかかる。
「うぉあっぶね」
対して俺の武器は、圧倒的なフィジカル。死神よりも早く動けて、死神よりも早く反応できて、死神よりも力が強い。
続けざまに振るわれる刃を、俺は紙一重で躱し、両刃剣でいなす。
死神の攻撃を、一度でも胸に食らえば、即座に命を落す。
命のストックが残っているとは言え、この戦いで俺がぽかをやらかして、全ての命を落す可能性だって充分にある。それに、あの死ぬ感覚はもうごめんだ。
一撃でも躱しそこねれば 、一撃でもいなしそこねれば、そう思うと、心臓の鼓動が自分に聞こえるほどまでに高鳴り、体中から汗が噴き出してくる。
「くそっ」
慎重になり、中々反撃の隙を付けない俺は、足下に展開した黒の魔法陣で本の少しだけ地面を切り、数m程メトスから距離を取る。
「・・・・・・!!」
が、俺の行動を読んでいたメトスは、俺が右足で地面を蹴るタイミングに合わせて俺と同じ速度で前進、俺の胸目がけて鎌を突き出す。
思わず俺は胸を守る為に、何の考えもなしに両刃剣を前に掲げると、それすらも読んでいた死神は即座に両刃剣を鎌に絡めて、俺の両手から両刃剣を取り上げ、地面へとなぎ払った。
「くそっ!」
両刃剣の落ちていく先には――。
「ルーメ!!」




