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第二十三話〜お願い

 この花の町は、もはや町じゃない。ビスケルの独裁国家と成り果ててしまっていたんだ。


「ビスケルの策略で、何人も死んだ。最初はビスケルにとって邪魔な貴族だけだった。でも次第にあの男の権力は、誰彼構わず振りかざされる様になっていったの。男も女も、おじいさんもおばあさんも、男の子も女の子も・・・・・・私の弟の子孫もね」


 華やかなのは外面だけだったってことか。話を聞いているだけで、人間じゃ無くなった俺でも胸くそ悪いと感じる。


「魔王の貴方の目には、どう映るの?命が軽く扱われる、人間世界の醜さは」


「・・・・・・それは」


 いくら自分が魔王だからと言って、偉そうに人間の事を批評する気にはなれなかった。

 俺が人間だった頃だって、遠い地では平気で人の命が軽く扱われていた。俺は平和な場所でぬくぬくとしていただけで、そういうことは起きていた。


 だから、俺が悲惨なニュースを見たときに思った事と、同じ事を言った。


「正直、許されることじゃない」


 俺の言葉を聞いたルーメは、意外そうに俺の事を見つめて言った。


「やっぱり貴方、魔王なのに優しいね。人間に対して」


「優しいとかは、少し違う。俺は、自分の為だけに他者を巻き込むような、ダサい生き方はしたくないだけ」


 何言ってんだ俺。恥ずかし、どうしてこんな臭い台詞言ってしまったんだ。いや、前から思ってたことだけども、こんな強面の奴がそんなこといってどうすんだよ。


「良かった、世界を滅ぼす魔王にちゃんと、心があるって分かって」


「お前・・・・・・」


 安心したように、ルーメの表情が柔らかくなった。少しむずがゆい気分になった。こんな表情を向けられたのは、いつぶりだっただろうか。


 警戒心を持たず、心から信頼して俺を見てくれるあの感じ・・・・・・リーズさん。


 あの人は一体、俺のどこを信頼してくれていたのか、未だに分からない。


 でも、あの人のおかげで、俺はあの時剣次に立ち向かえた。俺がそうできるって、リーズさんは気づいてたんだろうか。今となっては分からない。


 だが、ルーメは間違いなく、あの時のリーズと同じ目で、俺を見つめている。俺が、何かを成し遂げることが出来るという、期待ではなく確信を持った目を。


「そんな魔王様に言うけどね、この町の人達は皆、死にたがってる。ビスケルがこの町で独裁政治を初めて、税を何倍にもして、そのお金で武器や兵隊を買ったせいで、皆の生活が一気に苦しくなった。このままだと町の花は全て、いずれ全て枯れ果ててしまう。あの、メモントリの花達も。だからお願い、私の願いを、全部叶えて」


 ルーメは俺の手を握りしめた。触られた感触はない。だが、思いは何となく感じる。


「死神を、町の人を、花の町を、どうか助けて上げて」


 いつもなら、こんなお願い即断っていた。俺に出来る分けねーだろ。とかなんとかグチグチ言って。だが、考えるよりも先に、気づくと俺の口は言葉を発していた。


「任せろ」


 そう豪語した。こんな台詞、今まで一度もなかったきがする。言ってしまった物はしょうが無い。こんな小さな体で、俺に初めて抱いてくれた大きな期待だ。それに応えよう。


「それにしても、貴方の連れてる悪魔さん、随分気が早いみたいね」

「ん?」


 ルーメがおもむろに指さし、俺は瞳はその白く細く、小さな人差し指に簡単に視線を誘導され、町の北部にそびえ立つ一際でかい屋敷が目に映る。


「あ」


 屋敷は、燃えていた。原因は言うまでも無い。リーズだ。燃やしに行くと宣言していた。

 俺は町の東側にそびえ立つ時計塔を見て時刻を確認するが、あれからまだ30分も経っていない。


「あいつ1時間したら行くって言ってたのにっ!」


 どこまでもムカつく奴。あいつ一人で大丈夫なのかよ。自分のこと悪魔とか言ってたけど、あいつ死神に勝てる程強いのか?


「ほら、何も出来ない私の代わりに、頑張ってきて」


 何もしないくせに、全く図々しい奴だ、こいつも。だが、いいだろう。やってやろう。この腐りかけた花の町を、俺が助ける。今の俺には、その力がある。



 俺はメモントリの花園から、文字通り一飛びでビスケルの邸宅の前にやってきた。


 町の中心にある大通りに面しており、どの建物よりも高いあの屋敷の4階からは、この花の町が一望出来そうだ。さぞ絶景だろう。最も、華やかなのは見た目だけで、そこに生きる人々の生活には、華々しさの欠片もないのだろう。


 俺は目の前にある巨大な鉄門をゆっくりと開き、ビスケルの所有する領地へ入っていく。

 門から屋敷まで、一本の道で繋がれており、その長さは100m程。

 その区間に、道の両脇にはずらりと騎士の銅像が建ち並んでいる。

 そしてその銅像の裏側には、この町に咲き誇る様々な種類の花々がずらり。

 だが、その並びに一貫性がなく、色彩も考慮されていないため、美しいとはあまり思えない。


 奥にそびえ立つ邸宅からは煙と炎が立ち上り、火の粉が屋敷付近の花々を少しずつ燃やし始めていた。


「どうだ、魔王。この私の邸宅は」


 頭の中に、声が響いた。間違いなく、あのビスケルの声だった。震えた声で、怒りを必死にひた隠しながら、高貴さを保とうとしている様子だ。


「私が尊敬する御方、ユーシア帝国王子、グリド・エル・ユーシア様の別荘を真似て作ったのだ。美しかろう・・・・・・それを貴様は、あろうことか灰にしようとしている!!報いを受けるが良い、この場で殺してやる!」

読んでいただき、ありがとうございます!

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