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第二十二話〜洗脳、全貌

「はい、ルーメという名前です」


 間違いない。メモントリの花園で出会い、俺の部屋にやってきたあいつは、死神の伝承にかかれていた少女だ。


 気づいた途端、俺の背筋がゾワリとした。昔から妖怪とか、幽霊とか、俺は結構苦手なんだ。


「それともう一つ、これはこの町の市民に聞いたことです。とある噂なのですが、ビスケルが死神を従えて邪魔な貴族を殺し、現在の地位に就いた・・・・・・と。魔王様のお話によれば、ビスケルが死神を洗脳していたと言います。この噂の信憑性は高いかと」


「そんな簡単に操られるような奴には見えなかったぞ?鎌で俺の胸に一撃食らわせたし」


 俺がそう言うと、リーズは俺の言葉を鼻で笑って言った。


「冗談はよしてください。・・・・・・魔王様といえど死神から一撃を食らったのなら、生きているはずがありません。そういうものなのですから」


「いや、嘘じゃねぇって。俺も死んだ感覚したけど、何か生きてたんだよ」


 すると、呆れた笑顔を浮かべていたリーズの表情が、すっと真顔に戻る。


「魔王様・・・・・・いつ衣装を替えられたのですか?」


 リーズが俺の胸を凝視していった。


「は?俺別に着替えてな――」


 俺の来ていた鎧の胸部には、4つの赤い球体があった。触ると何故か触感がして不思議に感じていた。

 その赤い球体が一つ、なくなっていた。

 あまりにも、信じがたい、突拍子もない予想が、俺の頭に浮かび上がる。


「なぁリーズ、魔王ってもしかして命が4つあって・・・・・・そんでその一つが死神に持ってかれたとかいう可能性、あんのかな」


 リーズは冷や汗をかきながら驚いたように言った。


「魔王という存在は、この世界の生物の常識では考えられない体を持っています。貴方の力は、本来であれば生物の形を保てない程膨大。人智を超えたその体に、命が複数宿ってても、なんら不思議はありません・・・・・・ですが、まさかここまで」


 だが、同時に慎重にならなければいけない。俺の命はあと3つ。死神に負ける気はしない。だが、それでもあいつは強かった。


それでも、舐めてかかれば一瞬の隙で命が持っていかれる可能性は充分にある。


「とにかく、俺達は死神の洗脳を解けば良いってことだな・・・・・・でも洗脳解くって、どううれば良いんだ?」


「ビスケルを早急に、暗殺してしまえば良いかと」


 間髪入れずに、リーズは答えた。


「・・・・・・やっぱり、そうなるよな」


 自分の為に町民の命を平気で囮にし、邪魔な奴は死神を使って殺してきたような奴だ。

 俺もそうするのは反対じゃない・・・・・・。


「リーズ、ビスケル殺る前に一カ所だけ、寄ってきても良いか。安心しろよ、あの野郎に情けかけてるとかじゃねぇから」


 情などかけていない。それは事実だ。だが、やはり殺すという手段は、どんな相手であろうと最後にしたい。


「私は一時間で準備を整え、ビスケルの家に火を放つつもりです。それまででしたらどうぞお好きに」


 綺麗な顔で物騒なことを言う。


「分かったよ」


 俺はそのままホテルの自室を出て、メモントリの花園へ向かった。

 ルーメに、話しを聞くために。



 ルーメは、まるで初めから待っていたかのように、メモントリの花園の側にあるベンチにちょこんと座っていた。


「ルーメ、会ったぞ。死神のメトスに」


 俺がそう言うと、まるで幼い子供とは思えないほど、聡明な目つきで、ルーメは俺を見つめた。


「知ってるよ。会うと思っていたもの。聞きに来たんでしょう?何故メトスが操られているのか」


 どうしてこいつ、その事を。


「その言い方、メトスが何で操られてるのか、知ってんのか?」


「ええ、勿論。貴方も知っている通り、死神と私は、100年前から友人だから」


 初めて会ったときとは随分違う、大人びた口調。自分の正体が幽霊であると、俺にバレていることすら理解しているような口ぶり。


「お前、一体・・・・・・」


 何者なのか、そう問い詰めようとした俺の言葉を遮り、ルーメは人差し指を自分の唇に押し当て、しーっ と言うジェスチャーをして言った。


「女性の正体を暴くのは、野暮だよ」


 その色っぽい仕草は、完全に子供のそれとは違った。

 

 見た目は子供でも、彼女は100年以上、この世で彷徨っている。心はとっくの昔に、大人なのだ。


 今俺は、本当のルーメと話をしている。


 俺が正体に勘付いているにもかかわらず、自分の口から、自分が幽霊である。人に恐れられる、存在である。そう言わせるのは、女の人に年齢を聞くこと以上に、ルーメにとっては野暮か。


「俺とメトスが会うと思ってたなら、どうして最初から教えてくれなかったんだよ。教えてくれてれば、俺も無駄死にしなかったのにさ」


 ルーメは俺の質問を聞くと、綺麗な黒髪をたなびかせ、俺の目を真っ直ぐ、厳しさのこもった視線で見つめて言った。


「知って欲しかったんだよ。メトスがこの町でどういう存在なのか。そして、自分で気づいて欲しかった。魔を統べる者として。その思いは、今も変わらない」


 その視線と、言葉に乗った思いの強さを感じ、自分の器を試されたような気がして、俺は少しだけ気圧される。


「ど、どういうことだよ」


 思わずそう、言い返した。恐らく0点の返しだ。だがルーメは呆れた様子を見せることも無く、慈愛に満ちた表情をした。


 そして、ゆっくりと人々の暮らす町の方へと人差し指を向ける。


「最後のヒント。死神は、人のイメージによって形作られていく。メトスは伝承以前から、この町の人々に崇められてたし、メトス自身もそういう存在だった。それがどうして、あんな風になってしまったんだと思う?」


 メトス自身も、そういう存在だった・・・・・・・。


 ルーメの言葉の中で、この言葉は、ルーメにしか分からない情報だ。その最後のピースがそろい、俺はようやく、何故死神がビスケルに洗脳されたのかを理解した。


 死神は、人のイメージによって形作られる。元々この町の伝承通りの存在だったメトスが、今や全く違う殺戮兵器。


 そうなった理由・・・・・・それは。


「・・・・・・町の人がメトスのことを、恐れだしたから。死神が、ビスケルにとって邪魔な者を殺す存在だって」


 人のイメージによって形作られることを利用して、町の人が抱く死神のイメージを、奴は変えた。


「そう、この町の人は皆、ビスケルに怯えて生きているの。あの人に逆らえば、死神に殺されるって」


 死神が、自分に味方をすると言うイメージを町民に抱かせ、死神の力を掌握する。

 そして、死神の恐怖で完全な自分の独裁国家を作り上げる。

 本当、どこまで言ってもどクズだな。

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