第二十一話〜伝承
俺は死神の鎌の一撃を素手で捉えようとするが、俺の手を鎌はすり抜け、胸を目がけ振り下ろされていく。
反射的に後ろへと下がると、死神は直ぐさま追撃。
本当、目で追うのもやっとの段違いのスピードで、ほとんど反射神経で避けている。
冒険者達が一発魔法を放つ間に、死神は何十と俺に鎌を振り下ろしている。
冒険者達の魔法を雨粒に当たるがごとく受けながら、俺は死神の攻撃を躱していく。
そして、俺が死神の一振りを避ける度に、鎌が描いた弧の軌道上に運悪く胸を刺された冒険者達が、続々と倒れていった。
また、目にもとまらぬスピードの戦いの余波に巻き込まれた冒険者が、簡単に次々と命を落していった。
冒険者達の命が散っていく度に、殺戮マシーンとなった死神の表情に、僅かな苦しみが滲み出る。
それを見て、分かった。こいつは人を、殺したくないのだと。
助けてやりたい、こいつを。その為にも今は、この戦いから脱出しなければ。
「メトス、あんたのこと、助けてやるよ。俺には今、力があるからな」
聞こえているのかいないのか分からないが、言った。多分今一番苦しいのは、こいつだと思うから。
俺は死神の攻撃の隙を見て地面に両足で着地。足に少し力を込め、飛び上がる。
地下の建物の天井、土、その上に立つ建物を突き抜けて行くと、目の前には美しい星空が現われた。下を見ると、死神は翼を使って飛翔し、猛スピードでこちらへ向かってくる。
「だから今は、少しだけ」
感覚で、何故か分かる。この攻撃が通じると。
この一撃が、死神に届くと。
俺は手の平に黒い魔法陣を展開し、そこに手を入れる。
ある。ここに、俺の体の一部とも言える、力が。
何かをつかみ取り、俺はそれを勢いよく魔法陣から抜き出す。
出てきたのは、俺と同じくらいの長さを誇る巨大な両剣。
柄の両端の黒い刃からは、禍々しい瘴気を放つ。真っ黒なボディに血管のような赤いラインが入るこの武器は、まるで昔から使っていたと錯覚する程に、恐ろしく手に馴染んだ。
「眠ってもらうぜ」
俺がその気になると、両剣は真っ直ぐと天にも届く程の瘴気を放った。
力がみなぎる感覚と、それを解き放つ快感を思い出す。
「だから、死ぬなよ!!」
俺は心のままに、両剣を死神に向けて振り下ろした。
「ぐぁっ!」
一太刀を浴びた死神は、一瞬にして地面へとたたき落とされた。
俺は夜空をバックに、空から死神が見えなくなったのを確認すると、両剣を黒い魔法陣の中へしまう。
重力によって猛スピードで地面へと落下しなら、音が出ないようそっと着地。
力を開放した快感の余韻に浸りながらも、強烈な一撃で傷つけた死神に対して申し訳ないと思いながら、俺はその場を後にした。
※
憎たらしいリーズだが、こいつの魔法には本当に助けられている。
俺が魔王であることは、この町の冒険者の周知の事実となってしまった訳だが、俺とリーズが泊っている宿に幻惑の魔法をリーズがかけたおかげで、今日もこのふかふかのベッドで眠ることが出来ている。
死神との戦いを終え、この宿に戻ることができたのも、リーズが俺を見つけ、幻惑の魔法を使ってくれたおかげだ。
便利だ、便利すぎる。
「そうも言っていられません。この宿に幻惑の魔法がかけられていることは、明日にでも冒険者に気づかれるでしょう」
リーズが幻惑の魔法として展開している紫の魔法陣は、精神を操るものではない。その人間の認識を操る。
例えばこの宿屋に展開している紫の魔法陣は二つ。この宿に俺達が泊っていないと来た人間に人させるもの。もし冒険者がこの宿屋に入ったラ、その瞬間にこの宿屋にはいないと確認してもいないのに何故か納得し、宿屋を去ってしまう。
他にも、存在しない物を存在していると認識させる等、かなり用途が広い。
二つ目の紫の魔法陣は、この宿屋に幻惑の魔法をかけていると認識させない魔法。
これにより、魔力の流れに鋭敏な冒険者が宿屋に来た時に、魔法陣が敷かれていることが察知されにくくなる。
「ですが、魔法陣範囲。宿屋の外で橙色の魔法陣、探知の魔法を使われてしまえば、魔法陣を隠している二つ目の魔法陣が敷かれていることがバレてしまいます。だから時間の問題なのです」
魔法陣は色によってその用途が変わるらしい。青なら転移。赤なら強化といったように。
じゃあ俺が展開してる黒の魔法陣の用途ってなんなんだ。
武器取り出したり黒炎放ったり色々できたけど……次に旅に出た時に、何ができるか色々試してみるか。
話が逸れたがとにかく、冒険者達が宿屋とかを全員でしらみつぶしに探知し始めたら、流石にバレるって事だ。
この宿屋のベッドの寝心地はそこそこ気に入っている。できればまた泊りたい。あまりこの宿屋で戦うようなことはしたくないな。ギルドの建物みたいに壊れるだろうし。
一度住処が看破されたら、もう穏便にこの町に留まり続けることは出来なくなりそうだ。早く決着を付けたい。
なら今するべき事は・・・・・・情報共有して、次何するか考えるか。
「リーズ、俺昨日、死神に会った」
「死神!どんな姿だったのですか?」
「背中に黒い羽が生えてて、めっちゃでっかい鎌持ってたな。白髪の奴で、他の冒険者と比べて段違いに強い。何か洗脳?みたいなのされてて苦しそうだった」
「なるほど・・・・・・姿形は、この町の伝承と酷似しています。人のイメージが死神を形作りますから、魔王様が出会ったのは死神で間違いないでしょう」
「伝承?って、どんな?」
「簡潔に言うと、病に伏し、不幸な家庭環境に生まれた少女の元に、命を尊ぶ死神が現われます。残された命を、人の為にと動く少女に感銘を受けた死神は、少女と仲良くなります。ですが、少女の寿命は刻一刻と近づき、最後は少女が苦しまないように、死神が少女の命をそっと刈り取った・・・・・・というお話です」
この伝承から、この町では、死神は死の具現化である恐怖の主張ではなく、人々の死の苦しみを無くしてくれる優しい存在として崇められるようになったらしい。
それにしても、悲しい伝承だな。でも、少女が苦しまずに死ねたのなら、それも良かったんじゃないだろうか。俺は学校の屋上から突き落とされて、激痛に苛まれながら苦しんで死んだ身だと、心底そう思う。
「魔族である死神が人間を殺す、称えるべき物語であるはずなのに、不思議とそんな気にならないのです」
リーズは青の魔法陣を手元に展開して、その伝承から作られた絵本を取り出すと、まるで遠くを見つめるような目でその本を眺めた。
きっと、初めてだったのだろう。人間に同情をするのが。
リーズの絵本の感想の前半にはドン引き仕掛けたが、こいつにもちゃんと心があると確認できて良かった。
そう思いながら、俺もふとリーズが手に持つ絵本の表紙を見つめた。
「・・・・・・ん、・・・・・・ん?」
絵本に写っていた少女の姿は、やけに見覚えがあった。白いワンピースを着ていて、腰まで伸びた黒髪の少女。
まさか・・・・・・。
「リーズ、その伝承の少女の名前って、絵本に書いてあるか?」
「はい、ルーメという名前です」
読んでいただきありがとうございます。




