第二十話〜走馬灯
終わったのか・・・・・・また。
まあ、この世界では正直何にも未練ないし、俺はとっくに人殺し。特に死んだ事に対して不満はない。
だがよくよく考えたら、魔王なんてとてつもない力手に入れたっていうのに、何も出来ずにまた終わってしまった。
前の人生では、こんな顔じゃなければ。もっと頭が良ければ、運動神経良ければ・・・・・・なんて思ってたが、結局力を手に入れても、使い主がこんなんじゃ意味ないんだ。
暗闇の中で、そんなことが頭によぎる。
すると暗闇の中から、目が眩むほどの光がまぶたの裏に満ち始める。
「(何、何これ)」
その光に包まれた感覚に陥ると、突如頭の中に映像が流れ始めた。
その映像に移っていたのは、俺だ。幼い頃の俺。顔が恐いからって、友達が出来ず独りぼっちだった俺が、そこにいる。
そんな俺を慰めてくれてる、父さんと母さんがいる。
そして父さんと母さんにされたように、妹を慰めている俺がいる。
懐かしい。保育園の頃から高校生の頃まで、これまで歩んできた人生が全て、頭の中で流れていく。走馬灯か?
一瞬のようにも感じたし、とてつもなく長くも感じる。
ただ一つ言えることは、俺はそれなりに生前の人生が好きだったって事だ。
周りから怖がられても、俺の事を知ってくれる親友がいる。
俺の事を支えてくれた親がいた。俺を頼ってくれていた妹がいた。
そして、俺の事を認めてくれた女がいた。
全部、夢だったんじゃないか。俺が魔王になったことも全部。そんな気がしてならない。かつての世界に思いを馳せながら、俺はポロッと本音をこぼした。
「あぁ、帰りたいな」
え・・・・・・今俺、喋った?
「あ」
目を開くと、そこには、俺の胸を刺した死神の姿。そして、その死神を恐怖に染まった表情で見つめている冒険者達の姿。
そう、そういえば、俺はギルドで冒険者達に囲まれて、死神に胸を刺されたんだ。
「バカな・・・・・・確かに命は取ったはず。複数あるとでも、こんなこと、まさか」
目の前の死神が、愕然とした表情でこちらを見つめる。
「貴方が、魔王様」
「一応、そうだな。俺は魔王らしい」
俺がそう答えると、死神はゆっくりと俺の胸から鎌を引き抜いた。胸に突き刺さった鎌を抜くはずなのに、不思議とこれっぽっちも痛みを感じなかった。
鎌を抜き終わった死神は俺の前に跪くと、言った。
「魔王様。僕は死神のメトス。貴方の命を奪い、またその人生を無断でのぞき見てしまったこと、深くお詫び申し上げます」
あれ?さっきまで殺戮マシーンみたいな感じだったのに、急に好青年。
白髪に白い肌、優しそうな目元に高い鼻。表情や放つ雰囲気がさっきとまるで違う。
冒険者達は跪いた死神の姿を目にし、ざわつく。
「あの死神が、魔王に跪くなんて」
「ユーシア帝国の言う魔王とは、一体どれほどの・・・・・・」
中には後ろの扉から逃げていく冒険者もちらほら。
「貴方も人の子なのですね・・・・・・魔王様がお優しい方で、良かったです」
死神は満足そうにこちらに笑みを浮かべ、そう言った。
正直何が何だか良く分からん。初対面で大して話もしてないのに何で俺の事分かるんだ。それに俺別に自分のこと優しいと思ってねぇし。
「魔王様、貴方にお願いがあります。僕をどうか、殺してください」
どこか悟ったような、諦めた笑顔で、死神は言った。
突然のお願いに戸惑い、返答の言葉を頭の中で探していると。
「何をしているメトス。早く魔王をやってしまえ」
直後、聞き覚えのある声がした。ビスケルだ。ビスケル・ア・フルール。あのカス貴族、後ろの扉から悠々自適に入ってきやがった。
でもどうして、こんな奴が死神に命令なんか出来るんだ。
そんな疑問を抱いたが、答えはすぐに分かった。
「辞めろ!!・・・・・・ぐぅ、ぅぅ、魔王は・・・・・・殺す」
死神メトスは、再び殺戮マシーンへと変貌していく。
「おい、大丈夫!こんな奴の言うこと何て聞く必要ないだろ!」
「何だと貴様。このビスケル様に向かってその口の利き方!例えユーシア帝国に警戒されている魔王と言えど許さんぞ!!冒険者共、お前達もかかれ!褒美は弾むぞ!私が魔王を倒し、ユーシア帝国貴族となったらな!!」
・・・・・・こいつ、一体どこまで傲慢なんだ。いや、傲慢と言うより、勘違いしてるのか。
自分が今、この場で、一番強い存在だと。
「くっははははははははははははは」
「な、何がおかしい!」
顔を真っ赤にし、額に血管を浮かび上がらせながら、ビスケルは声を裏返らせて叫ぶ。
「いや、あんた勘違いしてるようだから教えてやるよ」
初めてだ、ここまで滑稽に見えた奴だ。言ってやろう。少しは痛い目を見た方が良い。
「この場で一番弱いのは、お前だぜ。人の命奪う前に、自分の命心配しとけよ」
俺の言葉を聞いたビスケルの額の血管は、次々とぶち切れていく。
「貴様ァ・・・・・・皆の者、奴を殺せ!!」
ビスケルの号令と共に、死神と冒険者が一斉に襲いかかった。
「ビスケル、モブ死にしても知らねぇぞ!」




