第十九話〜対面、最初の四天王
背後から、聞き覚えのある声がした。振り向くとそこには、先程大通りでギルドの場所を案内してくれた冒険者だった。
「帰らせねぇよ。ってか生かしちゃおけねぇな。なんたってあんた、魔王なんだからよぉ」
声のする方へ体を振向くと、俺の周りは、ギルドにいたすべての冒険者達によって作られた、色とりどりの魔方陣によって囲まれていた。
「・・・・・・いつから、バレてたんだよ」
俺の質問に、冒険者のおっさんはニヤリと笑って答えた。
「腕の良い探知の魔法を使う奴がいてな。あんたの相方が消し去った黒い魔法陣の跡を見つけ出してくれたんだよ。黒い魔法陣ってのは、魔王のみが使うことのできる魔法陣だからな」
確かに、街を破壊したときも、光の矢を破壊したときも、皆魔法陣は色とりどりだったが、黒の魔法陣を使っているのは俺だけだった。
「後は地道な作業だが、偶然あんたの近くにいた知り合いの冒険者からあんたの見た目を聞いて、街中探し回ったってわけよ」
「じゃあ、あの時あの大通りで、俺にこの場所を教えたのは・・・・・・」
「あんたをここにおびき寄せるために決まってんだろう。魔王を討伐したとありゃ、俺達冒険者は英雄になるんだからな」
冒険者のおっさんは赤い魔法陣を展開して、構えた槍に通していく。
「俺の赤の魔法陣による強化はちと強力でなぁ。この槍と俺の魔法で、幾千もの戦場をくぐり抜けてきた」
得意げに槍を構えるが、何故だろう。一突きで人間なら簡単に絶命するほどの物ってことは分かる。
だが、俺には危険に思えなかった。
この槍だけじゃない。俺の周りに展開された魔法陣から放たれようとしている様々な魔法。炎、雷、岩、氷、巨大な剣、いくつも浮かび上がる弓矢。それら全て。
「魔王だか何だか知らんが、ここで死んで貰うぜ。なんたって魔王とか言う魔物は、世界を滅ぼすらしいかならなぁ。ま、最近のユーシア帝国の情報なんてあてになんねぇが」
哀れに見えた。むしろ、可愛く見える。必死になって全力で魔力を練り上げ、俺を殺そうとしているこいつらが。
「お前ら、そんなんで俺が倒せるわけないだろ。俺は殺すのは好きじゃない。死にたくない奴は逃げろ。残った奴は知らねーから」
俺は足下に黒い魔法陣を展開させる。
すると冒険者達は大きく動揺する。
「打て、打て!!」
おっさんの叫びを合図に、全ての魔法が俺に向けて放たれた。
炎がギルドの床から建物へと燃え移り、豪速で俺の体に当たって砕け散った岩や氷の粒がどんどん積もっていき、巨大な剣も弓も俺の肌を傷つけることなく地面に突き刺さっていく。
嵐の様に放たれる魔法。時々チクりとする物もあるが、大抵は対して痛くない。
が、そろそろ俺もずっとこうしてるわけにも行かない。
――どうせ死ぬわけじゃないし、こいつら全員一旦氷漬けにしてやろうか。
魔法陣の足下に冷気が漂い、余りの冷たさに冒険者達が恐怖に顔を歪め始めたその時。
・・・・・・違和感を感じる。光の矢の時と同じか、それ以上の何か。
俺に近しい、禍々しい気配が――後ろ!
俺は背後から迫る鋭利な感覚を回避すべく、ギルドの天井に頭をぶつけない程度に小ジャンプ。
「ぐぁっ・・・・・・かはっ」
一人の男が、絶命していく声が聞こえた。
「殺・・・・・・す。魔・・・・・・王」
目に入ったのは、冒険者のおっさんが、漆黒の翼の生えた白髪の男によって、殺されている光景だった。
翼の男は、右手に巨大な鎌を持ち、その鎌は冒険者のおっさんの胸に突き刺さっている。
「ビスケル・・・・・・の、為に」
その場にいた者達全ての視線が、その翼の男に向けられた。
「死神が・・・・・・殺した」
一人の冒険者が呟くと同時に、彼らはその死神を畏怖の目で見つめた。
まるで死そのものと対面したかのように、恐怖の表情を浮かべる。
リーズに死神のことを調べてもらいに行ったが、もう実物に会えたのか。黒い翼に巨大な鎌。日本に生きてた俺の抱く死神のイメージともぴったりだ。
「お前が死神か、俺一応この世界で魔王らしいんだけど、何かあんた、俺の仲間になるって聞いてんだけどさ」
死神に話しかけた俺を見て、冒険者達は『正気か?』という目で俺を見た。
「ぐ・・・・・・やめ・・・・・・ろ、俺が・・・・・・」
彼らの畏怖の目線を一身に浴びた死神は、頭を抱えながらもがき始めた。
「お、おい。あんた大丈夫かよ!」
「見る・・・・・・な!逃げ・・・・・・ああ!」
俺の声は死神には届かず、頭を振り、地団駄を踏み、苦しみの叫びを上げた死神は突如、そのもがきを止めた。
「・・・・・・ど、どうした」
一瞬の静寂。鳴り響くのは、ギルドで燃えさかる炎だけ。
「死は・・・・・・我なり」
死神がそう呟いた瞬間だった。気づくと死神の青い瞳が、俺の目の前にあった。
胸の辺りには何かが詰まったような感触。
「なっ・・・・・・!」
見ると俺の胸には、巨大な鎌が突き刺さっていた。
一度体験したから分かるこの感覚。俺は、俺は、俺はまた、命を失った。




