第一話〜魔王、佐久間桜助
バラのような人だった。
頭から腰まで伸びた赤毛に、緑色のブレザー。透き通るような白い肌に、ルビーのように赤く美しく輝いた瞳が、俺を見つめている。
花の女子高生とはよく言ったものだ。俺以外にも彼女を初めて見たときに、その美しさから、バラを連想した人は多かったにちがいない。
きっと、このクラスにいる生徒全員が、毎日受験勉強に明け暮れる高校3年生の日々のストレスを、彼女の美貌に一瞬で癒やしてもらったことだろう。男女問わず。
当然、俺も一瞬でひとめ惚れした。まるで異世界の美少女にでも会ったような気分だった。彼女は、その赤い髪を色っぽく耳にかけると、透き通った鈴のような声で俺にこういった。
「魔王様、また会えてうれしいです」
彼女の言っている言葉の意味が、俺には分からなかった。いや、言葉そのままの意味は分かる。だが、何故彼女、ラス・リーズは、俺がクラスで魔王というあだ名で呼ばれていることを知っているのか、俺には分からなかった。
何せ、彼女は今日、俺の通うこの高校に転入してきたのだ。そして、あろうことか席は俺の前。先ほど彼女に対して様々なことを思い浮かべたが、あれは彼女が俺の前の席に座ったことで舞い上がってしまい、この一瞬で俺が思い浮かべた男子高校生の気持ち悪い語りでしかない。折角前の席に美女が座ったのだ。少しでもお近づきになりたい、なんてことを思っていた。
だがそれ以上に俺は、魔王、そう呼ばれることが嫌いだった。
「その呼び方、辞めろよ」
俺は強面の顔をフルに活かした表情で、彼女に言った。
「何故ですか?今まではそんな些細なこと気にもとめていなかったのに」
「気にとめてないって言うか、気にしてるけど気にしてないふりしてんだよ」
俺は、この魔王というあだ名で周りから呼ばれるのが、昔から嫌いだった。
いつも眉間に寄ったしわに、刃物のように鋭い目つき。そして、悪魔のように鋭く目立った八重歯。俺の名前、佐久間桜助の名字の最後の一文字と、名前の最初の一文字を取って、魔王。
俺の方も、彼女と同じように魔王というあだ名にふさわしい風貌をしているわけだ。この風貌から、俺は今まで散々苦労をしてきた。怒ってもないのに、友達から怒っていると思われ、友人関係が崩壊したことは多々ある。部活に入れば、睨んでもいないのに先輩からガンを飛ばしてんじゃねぇぞと絡まれ、ボコボコにされて退部。
中学の時の、初恋だったあの子。心臓が飛び出るほど緊張しながら、勇気を出して告白したとき言われた言葉は、「顔が怖いから無理」だった。
そもそも、この顔立ちのせいで滅多に友達は出来ない。いるとすれば、このクラスの学級院長で、幼なじみである槍田勇人くらいだ。
「ごめんな、リーズさん。こいつ、そのあだ名で呼ばれるの嫌いなんだ。どうか桜助って呼んでやってよ」
俺がこいつに常日頃から抱いている感情を教えよう。羨ましい、だ。爽やかイケメンスポーツ万能成績優秀。しかも性格まで良いチャラ男。何故か俺と中学からずっとつるんでくれている。絵に描いたような金髪モテ男高校生。
「……何のつもりですか?」
突然、彼女は勇人のことを睨み付けた。それはもう、ものすごい形相で。例えるなら、自分の近親者を殺した仇に出会った時の様な表情だ。勇人はどうやら彼女に近づきすぎて、バラの棘を触ってしまったらしい。
「え、いやそんな怒らないでよ。僕、君に何かした?」
いつも基本的には冷静で落ち着きのあるタイプの勇人も、初対面でそこまで恨みのこもった目つきで睨まれると、流石に動揺を隠しきれない様だった。
「……そうですね、ここに来てからはまだ何もしてません。貴方はここでは勇者ではなく普通の人間。失礼なことをしました。謝罪します」
俺と勇人は顔を見合わせた。ああ、この人はちょっと残念なタイプの人かもしれない。例えば、高校生になってなお、精神は中学二年生のままで止まっているあの病にかかっているとか。
そうであるなら、俺のことを魔王と呼びたがるのもうなずける。魔王と言えば、ファンタジーの世界では定番の悪役。さぞ彼女も胸を躍らせたことだろう。そう考えると、こんな時期にこの学校に転校してきた理由も、少しずつ垣間見えてくる。
あの病が災いして、いつしか友達が離れていき、学校に居場所がなくなった彼女はやむなく転校。
彼女のバラにはやはり棘があったという事だ。
俺は、友達関係で苦労したであろう彼女の境遇に少し同情してしまった。
「はー。あんたさ、そういうの辞めといた方が良いよ。前の学校で学んだと思うけどさ、今時中二病なんて恥ずかしい事してるから、こんな時期に転校する羽目になるんだよ」
俺がそう言うと、彼女は下をうつむいて黙り込んでしまった。
俺は、彼女のために忠告しているつもりだったのだが、言い過ぎたらしい。いつもの悪い癖だ。俺は不器用で、こんな風な言い方でしか人と話せない。勇人は勢いよく俺の方をぶったたいて、目の前に座る彼女に聞こえないように耳打ちした。
「ばっかお前言い過ぎ!!」
「は?こいつの為にも言ってやった方が良いだろ?」
「ちがう、こういうのはハッキリ言われると立ち直れないくらい傷つくんだよ。明日からリーズさんが学校来なくなったらどうするんだよ!!」
「……確かにってか、何でお前が中二病の人の気持ちなんか知ってんの?」
「今はそこは良いんだよ!!はよ謝れ!!」
なんて会話をした後、俺はリーズさんに表面上の平謝りをし、情けなく許しを請うたのだが。
「いえ、私こそごめんなさい。こっちの風習に会わせるべきでしたね。これからもよろしくお願いします」
あれ?さっきまであんなに中二病っぽい感じだったのに、いつの間にか上品なお嬢様みたいな感じになってる。こんな風に出来るなら、最初からあんなキャラで話さなければ良かったのに。もう俺と勇人の中では、彼女は隠れ中二病という認識で固まってしまった。
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