プロローグ〜約束されたその日
赤く揺らめく炎によって、焼かれていく魔人の村。 炎は徐々に燃え広がり、やがて村の周りにある自然までをも侵し始めた。
鮮やかな青色で染められた草花は、痛みに泣き叫ぶ。
青い葉を付けた美しい木々が立ち並ぶ森は、自らの死を運ぶこの世の残酷さを嘆き、祈る。空は人間達の非情な行いに激怒して真っ赤に染まり、風は無力感にさいなまれ、吹くことを辞めた。
魔人達は、自らの住処を守るため、人間に刃向かう。だが、この地の主たる彼らでさえも、人間の放った炎に焼かれ、無残に命を散らしていく。生の最後に皆、この世の不条理に絶望しながら。
「お前ら・・・・・・何したのか分かってんのか!?」
魔王は、魔人達をここまで陥れ、非道な行いをした三人の勇者を睨み付けた。必死に自分の怒りを抑えこむ。同じ世界からやってきた、勇者である彼ら三人に、まだ人間の心が残っているはずだと心の中で願いながら。
だが、魔王の思いは届かない。
巨大な大剣を持つ勇者の一人が、焼かれていく魔人達を見て邪悪な笑みを浮かべ、口を開いた。
「別に魔物、モンスターを殺しただけだろ。魔王のくせに偉そうに。なんか文句でもあんなら言ってみろよ」
彼はいつだってそうだった。弱い者が苦しんでいるのを見て、自分が強者だと錯覚し、快感に浸る。
彼の隣で、魔王の額に矢を定める二人目の女の勇者もそう。自分の私利私欲のために、平気で他社に不条理を押しつける。
「あんたも魔王とか言ってかっこつけんの辞めなって。普通にキモいから」
そしてもう一人。魔王が元いた世界にいた頃の、只一人の友人である三人目の勇者。彼が魔王に向けた槍先は、友に向けたもの故の迷いからか、自身の手の震えで狙いが定まらない。
「なぁ、お前だって本当は魔王になんかなりたくなかったんだろ?辛かったんだろ。お前のことは、僕が絶対なんとかする。だからもう抵抗するのを辞めてくれよ・・・・・・桜助」
人間の中で言えば、珍しく良心的な人物だった。その彼すらも、今の魔王の心の内を知るには、この世界を知らなすぎる。そして、その無知を逆手に取り、勇者達を先導し、非道な行いをさせるこの世界の人間達。
魔王は静かに、人間への決別の涙を流す。
「その名前で呼ぶな……槍の勇者。俺はもう、お前が知っている佐久間桜助じゃない」
今、大自然の奏でる音無き悲しみの悲鳴と、魔物達に振りかざされた不条理への怒りの叫びが、魔王の悲しみの涙と共鳴する。
「俺は、魔王だ」
その日、魔王は覚醒した。
読んでいただきありがとうございます。




