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第十七話〜死神の姿

 ガチャッと扉が開く音がしたと同時に、リーズは俺の部屋に入ってきた。

 宿屋に用意されていた真っ白なパジャマを身に纏っている。


「うわっちょ、お前急に!」


 魔王の体になったとはいえ、異性と真夜中に同室というのは流石に、少し意識する。


「魔王様……」


 リーズは俺の許可も取らずにズケズケと部屋に侵入し、俺が寝転がっているベッドの傍らに腰を下ろした……腰を下ろしたって、え?


「リ、リーズ!ルーメは?」

「……また、訳の分からない事を」

「いや、マジでいたんだって!!」


 いや、さっきまでここにいたはず。辺りをキョロキョロと見回すが、彼女の姿は見えない。ベッドの下にでも隠れたのだろうか。一体何故そこまでしてリーズを避けるんだ。メモントリの花園の時もそうだったが……ま、リーズが嫌な奴って純粋無垢な少女にはバレてんのかな。


 もし隠れているなら、バラしてしまったらまずい。


「すまん、今のは……無視で頼むわ」


 上手い言い逃れも思いつけない俺。


「……では、話させていただきます」

「お、おう」

「魔王様は、あの光の矢という物をご存じですか?」

「光の矢……って」


 さっきの、ものすごい光を放って俺らの頭上に降ってきたでかい矢のことか。

 俺が光の矢を知らない事を、リーズは素振りで分かったのか、リーズは光の矢について説明を始めた。


「光の矢、世界に30個しかない、強力な魔道具から放たれる魔法です。町を半壊させる程の破壊力があります。あの人間は魔王様を葬る為に、自らが守るべき領地の民を巻き添えにしようとしたのです」

「あぁ、見てたよ。終わってんな」


 リーズは拳を握りしめると、珍しく大きな声を出して言った。


「人間は、そういう生物なのです!自らの利益の為に、命を平気で踏みにじる!同胞でさえも!この地に生ける生物として、あまりにも汚れています!魔王様貴方は、世界から汚れを全て、一掃すべきです……」


 憎しみが宿った、鋭い目をしていた。彼女の過去を、俺は知らない。人間に何をされてきたのか、人間を何故憎んでいるのか。

 でも、俺だって元人間だ。汚れた人間がいるのは知ってる。俺もそういう奴らに嫌な目に遭わされてきた。でも、それだけじゃない。良い奴だっている。


 でも今は、こいつの気持ちを聞いてやろう。


「言ったろ、世界を支配してやるって……確かに俺は人を殺すのに前向きじゃない。でもこの世界に来て三ヶ月しか経ってない俺は、この世界の人間のことなんも知らないし、何もされてない。せめて俺の目で、もう少し見極めさせてくれよ」


 それっぽいことを、上手く言えたと思う。

 世界を支配する何てこと上っ面で承諾したのも、それを利用してこいつを説得しようとしてるのも悪いとは思っているが、俺にはまだ、そこまで人を憎めない。


「分かり……ました」


 あの高飛車な空気を纏っていたリーズが、珍しく子供のようにシュンっとなった。


「そのためにも、死神を探さないとな。リーズ、死神について分かってること全部教えてくれよ。概念みたいな存在?だっけ。あれどういう意味なんだ?」


 ほんの少しだけ、リーズは背筋を正した。

 

「死神は、人や魔物が死へ抱く畏怖の感情が魔力となって形をなした存在です。人や魔物が死を恐れる限り、死神は存在し続けます。そして、死神が人の想像した通りの力を発揮すればまた、存在を強固にしていく」


 人や魔物が想像した通りの存在になるってことか。なら、この世界で死神がどんな存在なのか知れば、おのずとどんな奴か分かるってことか。


「死神の姿って、世界共通の通説みたいなのあんの?」

「基本的に言われているのは、巨大な鎌を持ち、その鎌で人の魂を刈り取ると言うのが通説です。ですが、姿に関しては、魔物の姿であったり人間の姿であったり、骸骨と言われていたり、その場所の伝承によって様々です」


 つまり、この町の死神の伝承を探す必要があるってことか。


「明日、リーズは死神について調べてくれ。俺はあのビスケルとか言う奴について調べてみる。あいつも死神について、何か知ってるみたいだし」


「承知しました。では明日、私は図書館へ向かいます。苦戦されると思いますが……」


 苦戦?光の矢ですら大して苦戦しなかったのに、一体何を苦戦するんだよ。



 俺は今、苦戦している。

 忘れてた、俺の顔が恐いって事。町の女の人は目をあわせてくれないし、子供に至っては俺を見て泣き始める始末。そして男の人に話しかけようとしたら、急がそうにスルーされる。

 俺の顔に物怖じしない冒険者達に話を聞いたって、この町の住民じゃないからビスケルが嫌われてることで有名って話しか出てこない……どうしよう。


「にーちゃん、大変そうだな……」


 冒険者のゴリマッチョのおっさんに、哀れみの目で見られた。そら見られる。皆から避けられるんだから。


「ギルドの受付のねーちゃんだったら、にーちゃんとまともに話せるかもしんないぜ」

「ギルド……ギルドって」


 冒険者が依頼もらったり、仲間集めたりするあの?

 うわ、めっちゃ異世界。


「取りあえず、行ってみるか」

「ギルドはこの大通りの三つめの曲がり角を右に曲がってすぐだ!頑張れよ!」


 俺は冒険者のおっさんに礼を言い、言われた通りの道を辿って冒険者ギルドへと向かった。

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