第十五話~光の矢
俺とリーズはその後、宿屋を探しに町を練り歩いた。
観光客で溢れるこの町の人々は様々。地元の住民は勿論、彼らの営業している商店街は、そうでない場所と比べればより一層に、文字通り華やか。その通りを歩く冒険者風の人々は、大剣を持った青年、大きな黒いとんがり帽子を被り、杖をもった女性。ゴツい鎧と装備で固めた戦士永遠部にふさわしい男等、ファンタジーのゲームや漫画を一通り読んでいれば胸躍る面々が星の数ほどいた。
一体何人の冒険者とすれ違ってきたか分からない。
基本的に観光客の半分以上は冒険者風の人々だったが、もう半分は一般人らしき普通の観光客だ。ガラの悪い冒険者に絡まれそうになった観光客を、別の冒険者が間に入る光景を何度か見た。
そんな中の宿屋探し。
俺は誰に話しかけようとしても、容姿が原因でこの世界でも避けられるから、基本はリーズが宿屋を探した。泣ける、まじで。
その間俺は何していたかと言えば、リーズの後ろについて行きながら、赤い夕焼けをぼんやりと眺めるだけ。
俺が召喚された場所の空の色は黄色だったが、町に近づくにつれて徐々に青色、見慣れた空に変わっていった。
リーズによれば、マイナスの魔力地帯とプラスの魔力地帯では、様々な物の色が変わるらしい。確かに、青かった草や葉も、フローラルの町に近づくにつれて緑色に変わって行っていた。その変化を見るのは、意外と面白かった覚えがある。
「二名で、取りあえず明日まで」
俺とリーズは道行く冒険者の情報から何とか空いている宿屋を探し当て、部屋を二つ借りた。一人一部屋。ちなみに俺もリーズも無一文だったので、リーズの幻覚の魔法で受付を騙くらかし、無料泊まりだ。
少し罪悪感はあったが、この状況じゃ仕方がないと自分に言い聞かせる。
「ったはー、最高だわ!」
三ヶ月ぶりのふかふかの布団にダイブ。一人一部屋の個室。部屋の壁にまで花が咲き乱れている。
良い匂いが枕にまで染みこんでいて、つい俺は顔を埋めてぐりぐりする。
少し高級な宿屋なのだろう。一つ一つの小道具の装飾が上品な金色で、デザインもぐねぐねして、何となく凝っていることは分かる。
鏡もかなり大きく、一つの壁面を埋め尽くす程。その鏡が部屋全体の花を写し出す。
おまけに近くにある、美しい女性の顔を縦に真ん中から割ったような石像があり、鏡の側に置くとその顔が反射して一人の女性の顔になるとかいう、これまた凝った小道具付き。
この世界は意外と、こういう所が面白い。
見ていて飽きない。
「さて、寝るか-」
基本寝付きの悪い俺だが、長旅の疲れと久々の布団で、すぐに入眠することができた……できたのだが。
「魔王様、起きてください」
リーズが俺の体を揺すって起こすと、相変わらずの呆れたような表情で俺を見ている。
「何だよ折角寝てたのに、起こすなよ」
「魔王様、さっきのアナウンスが聞こえていなかったのですか?」
「アナウンス?」
リーズは小さくため息を吐いて言った。
「メモントリの花園に、観光客は今すぐ集まるようにと」
「はぁ?何だよそれ。無視出来ねぇの?」
俺の言葉を聞くと、リーズは窓の外にあるメモントリの花園を見つめて言った。
「この町にいる冒険者全員で、死神の討伐隊を組む。この隊に参加しない者はこの町から出ることを許さない、とのことです。」
「強制参加かよ」
流石異世界、中々の強硬手段を平然と使うな。……でも、俺達を招集する奴は、死神の居場所知ってるかもしれないのか。それなら、行く理由は大いにある。
もしも討伐隊に討伐されそうになったら、俺が死神を守れば良いし、居場所が分かるなら言って損はない。全く、三ヶ月ぶりの快眠が台無しになったのは本当にいただけないが。
「ああ、分かった。取りあえず行く」
※
これだけ人が集まった中にいるのはいつぶりだろう。高校での全校集会以来か。全校生徒500人が一カ所に集まって校長先生の話を聞く。異世界に来てから三ヶ月、当たり前だがそんな機会はめっきりなかった。最も、メモントリの花園付近に集まったのは、500人とは桁が違うほどの数だった。そんな数の人々が皆、この集会に疑問の声を上げている。
「何で急に、こんなことを」
「昼間でも良かっただろ」
「明日の為に寝ておきたいのに」
「ねぇちょっと、この町から出られないってどういう事なの?」
ドクン、ドクン
何となく反応を見る限り、前もって知らされていた集まりではないらしい。
だが、妙に胸騒ぎがする。死神を倒すという明確な目標はある。だが、町に寝泊まりしている冒険者を夜中に呼び出して死神を討伐するなんて、そんなのいつでも出来たことだ。死神の居場所を昨日突き止めたとかなら別だが……。
ドクン、ドクン、ドクン
何だ、胸騒ぎが、どんどん大きくなってくる。久々の人混みに疲れたのか?
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン
いや違う、これは只の胸騒ぎじゃない。
何かが来る。大きな、破壊の力が。
ドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクンドクン
「……ぁ」
ふと、頭上を見上げる。
「--」
その時、とてつもなく強い光が視界の先に現れた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
次に、突如現れたけたたましい轟音が鳴り響くと共に、その場にいた者達は皆、戦慄する。
「……光の矢だ」
誰かが、呟いた。それと同時に、魔王も光の正体を目にする。
たった一つ。たった一つ。頭上にある空を埋め尽くすほどの、巨大な矢が、俺達の頭上に降り注いでいた。
まるで、星の欠片のように。
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