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第十二話~花の里、フローラル

 フローラル。大陸に存在する、直径20kmの巨大な湖。その中心に、浮かんでいるかのようにぽつりと出来た小さな島。直径は約6km程。

 大陸とフローラルの町を繋ぐのは、湖に埋め立てられた幅10m程の一本道のみ。


 この道はおよそ7kmもあり、その間に休憩所等は存在しない。観光においては、この道を渡るのが一番の難関と言える。それでもこの町の観光客が耐えることがない理由は、この町が世界一美しい町と呼ばれていることと、一本道を渡る間もまた、絶景が常に続いてるからだ。


 と、道中話すこともあまりないので、リーズさんから三ヶ月間みっちり詳しく聞いた町の情報が本物だったことに感動し、思わず目を輝かせる。


「うわ、すっげ」


 一本道が土で埋め立てられている理由、それは道の両脇に花を咲かせるため。それも1mはある巨大な。

 最初は赤い花が両脇にずらりと並び、300m程進むと花の色が黄色に。また更に進むと緑色に。色の色相環に沿って徐々に色を変えていき、風景に飽きる事はない。

 少し遠くを見ると、住んだ美しい湖が、ひんやりとした空気と静かな水音、水面は美しい自然をほとんど鮮明に反射させる。

 こんな絶景、外国に行ったってそうそうない。というより、こんな場所現代の地球に存在するのか?


「綺麗」


 リーズがぽつりと呟く。その表情は、美しい宝石の輝きに目を奪われた乙女そのものだった。赤い髪と端麗な容姿が、この風景にマッチしている。

 今は人間の町に入るため、見た目を人間に変えているリーズ。こうして見るとやはり、転生前のリーズさんとは違う自分物だ思えない。

 その儚い表情も、仕草も、声も、俺の呼び方も、何もかも同じだというのに・・・・・・どうして学校での俺を知らないんだ。


「なぁ、リーズ」

「何ですか?」

「っ!」


 スンっと表情が元に戻る。あの憎たらしい、失望したような目で見つめてくるいつもの表情で。

 こうもずっとこんな態度じゃ、腹が立って会話を続けるのが馬鹿馬鹿しくなる。


「何でもねぇよ」

「そうですか、その何でもない時間を過ごしている間にも、幾千もの我々の同胞が命を散らしていること、お忘れないよう」

「・・・・・・あぁ」


 めんどくせぇ、いつもこれだ。俺が気を緩めたり、しょうもないことを聞くといつもこう言う。同胞とか言われても、会ったことないしちょっと前まで同胞じゃなかったんだから知らんわ。


 辛気くさい会話で、風景を楽しむ気分も失せ、俺はさっさと歩くスピードを上げた。

 リーズさんは平然と俺のスピードに合わせ、そのまま周りの景色には目もくれず黙々と町の門まで。


「・・・・・・着いた」


 ここが花の町、フローラル。別名、世界で最も美しい花の里。

 木造の建物が狭いスペースに敷き詰められ、建物の壁からは色とりどりの花が生えている。まるで、花で出来た建物なんじゃないかと錯覚する程。

通り道の地面は花ではなくアスファルトだったが、少し目線を上げれば花が目に入らないことがない。


「では魔王様、さっそく町の中心部へ参りましょう。そこに、目的の場所。死神の花園があります」


 死神・・・・・・ラプラスの書に記されていた、四天王の一人。

 俺がどんな立場に置かれているのか、未だに正直はっきりしていない。だが、勇者がいるとなると、こっちにも味方が欲しいところ。

 世界征服が眼中にあるわけでもないが、戦力は欲しい。


「あー、早く道案内してくれ」


 言い方が悪かったのか、リーズは少しムスッとした表情。俺的にはやる気を出してるってアピールのつもりで言ったんだが・・・・・・勇人、俺はお前に、想像以上に世話になっていたのかも知れない。



「な・・・・・・なんだこれっ」


 綺麗・・・・・・ではある。世界で一番美しい花の里。その一番の名所と呼ばれた場所なのだから。だがこれは、何というか・・・・・・どこか不気味で、禍々しい。

 異質っちゃ異質だし、思わず見入ってしまうのも、この景色が綺麗な花の町の良いスパイスになってるからとも思える。


「これが、世界でこの場所にしか咲かないと言われている、メモントリの花園」


 リーズも少し驚いたような表情をしているが、この見た目じゃ無理もない。

 見た目はチューリップに酷似している。だが花弁は黒く、土から伸びた茎は白い。そして、先端からは血のような真っ赤なエキスが、トロリと一筋流れ、地面に落ちている。

 そのせいか、大地は真っ赤。おまけに傾斜で、赤いエキスがこちらに不定形に垂れてきている。


 更に異様なのは、この花畑は遠くからしか見ることは出来ず、危険を伝える立て札の向こう側には、人一人いないということ。


「なあ、何でこっから入っちゃいけないんだ?何か毒でもあんの?」


 リーズはメモントリの花園を見つめながら言った。


「いえ、この花に毒はありません。あの花は魔界にしか咲かず、人間達の持つプラスの魔力ではなく、マイナスの魔力で咲きます」


 この世界には主に、二種類の魔力がある。プラスとマイナス。人間、そして彼らをとりまく生物や植物。それらは主に、プラスの魔力を帯びる魔力地帯で生きる事が出来る。

 反対にマイナスの魔力は、魔族や魔獣、魔植といった魔族を取り巻く生物や植物が、マイナスの魔力を帯びる魔力地帯で生活する。

 もしも自分の流れる魔力とは違う魔力地帯に足を踏み入れると、たちまち体調を崩し、長くいれば死に至る。


「確かに、それは誰も入らねーわ。この花園には」

「数百年前、メモントリの花がこの町に突如咲いてから、度々この場所で死神が目撃されているそうです」

「・・・・・・死神って、この花が咲いてる所でしか生きれねーの?」


 俺の質問に、リーズは何故か一瞬戸惑って俺を見つめ、ほんの少し口角を上げて言った。


「生きる、というのは語弊があります。概念が具現化したような存在ですから、実態もなく、交流もできない。ただ、意思はある。そんな存在だから、誰にも分からないんです。死神がいるところに花が咲くのか、花が咲いたところに死神がいるのか。どちらにせよ、死神は魔族です。この小さな町の中であれば活動できますが、外に出ればプラスの魔力地帯の影響は、多少なりとも受けるかと」


 つまり、この町の中が活動範囲ってわけか。

 旅の途中にリーズから聞いた話によると、この町の人達は死神のことを、人生の締めくくりを安らかにしてくれる存在として祭っているらしい。

 祭られるのは悪い気しないかもしれないが、この町に数百年も捕らわれてるっていうのは、少し可哀想な気もする。

 実態がなく、誰とも話せない、同じ場所で数百年も一人きり。俺だったら気が狂ってしまう。


「おじさんは、メモントリの花、綺麗だと思う?」


 気づくと、白いワンピースを着た10才くらいの少女が、いつの間にか俺の隣に立っていた。


読んでいただきありがとうございます!

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