4話「遺跡賊現る×レイの逆鱗」
レイの強さの秘密が、一瞬だけ垣間見える秘密の会となっています。
アルマとレイが遺跡に来て、数日が経った。
二人は、食料調達や、薬草収集、水の確保、現地の材料を使った簡易的な拠点設営など、遺跡の中での生活にも、少しづつ慣れていった。
焚き火の起こし方も、水の流れの読み方も、夜の冷え込みへの備え方も、最初よりは身体が覚えている。
それでも、ここが“安全な場所”ではないことは、一度も忘れたことがなかった。
「兄さん!今日は少し深くまで進もう!」
「んだよ…急に…」
心なしか、横になっているアルマはまだ眠そうだ。
目を半分閉じたまま、寝返りだけ打っている。
「兄さんちゃんと聞いてよ」
「お、おぉ?」と目を擦りながらアルマは言う。
「この遺跡を出た後は次の遺跡探索に向けて、ここである程度価値ある物や資源を集めとかないと」
「ふぁ〜… んなこと言われたってよぉ、どこか目星とかあるのかよ」
レイは村で貰った地図を広げる。
端の擦り切れた紙を押さえながら、指先で位置を辿る。
「今、僕達が居るのは遺跡の外側.森林地帯なんだ、この森林を抜けた場所に印がしてある」
「じぁあ、ここにお宝があるって感じか?」
「まぁ…売られてる地図って事は何処かの冒険者達が攻略し終えてるって事だから望み薄だけどね」
「良いじゃねぇか!行こうぜ!やっと遺跡探索っぽくなってきたぜぇ!」
アルマは目を輝かせながら起き上がる。
眠気なんて最初からなかったみたいな顔だ。
「この遺跡である程度の値打ちの代物、資源、古代生物の素材とかを集めないとね」
「ふぅん」
「ふぅんじゃない、ここである程度お金稼いどかないと…次の遺跡探索できなくなっちゃうよ」
「へいへい…でも目指すは宝具だろ!」
「そんなに上手くいくわけない…宝具は冒険者が一生かけたって手に入らない事だってあるんだ」
「でもよー!地図に印なんてよ!宝以外の何があるってんだよ!うおー!燃えるぜー!」
やれやれ。兄さんは僕の話は聞いてないな。
聞いてるようで、都合のいいところしか拾っていない。
――準備が終わる。
荷を背負い、剣を確かめ、拠点を見返す。
二人は、森林をしばらく歩く。
木々の隙間から差し込む光が揺れ、地面にはまだ朝の湿り気が残っている。
「レィ〜待ってくれよぉ」とアルマがダルそうに遅れて歩いてくる。
「…。」
「なぁなぁなぁってぇ」
「なに?」
「腹減った」
「うるさい、食事はさっき食べたじゃんか」
「まだ残ってるだろぉ」
「それは今日の夜の分だ」
(食料は何かあった時に、なるべく取っておきたいし…兄さんを甘やかしてはダメだ)
この人は与えたら与えただけ食べる。
だから余計に、管理しないといけない。
――森を抜ける。
急に視界が開け、空気が軽くなる。
「……見えてきた、どうやら地図の印はここを指してるみたい」
僕は立ち止まる。視線の先。
草原の奥に、それは――あった。
――巨大な古城。
崩れかけてはいるが、圧倒的な存在感。
巨大な門は遠くからでも視認できる。
石壁はひび割れ、蔦に侵食されているのに、それでもなお“城”として立ち続けている。
まるで、近づく者を見下ろしているみたいだった。
「おぉ……おぉ!!でけぇな!!」
アルマが目を輝かせる。
「……でも、先客がいるようだよ」
二人は森林を抜けた、崖の上から見下ろす。
草に身を沈めるようにして、城の周囲を観察する。
城の周囲に、武装した集団がいる。
軽装の鎧を装備している者、何かの毛皮や皮を使った防具を装備している者、短剣や大剣。
陽の光を受けて、刃が鈍く光る。
柄は見るからに悪い…あれが本に書いてあった遺跡賊か。
「二十人…くらい、多分レイダースだね」
「面倒くせぇなぁ」とアルマが肩を回す。
関節が鳴る。
「避ける?」
「いや、無理だろ」
既に、見つかっているようだ。
何人かがこちらを指差している。
「おいガキ共!」
「ここは封鎖中だ!帰りな!」
声が飛んでくる。
怒鳴り声が、草原を渡って届く。
「どうする?」
僕は小さく聞く。
アルマは――笑った。
口元が吊り上がる。
「一点突破!ぶち抜くに決まってんだろ!」
「……だと思った」
⸻
「俺が先行する!レイは後ろから取り逃したのをやってくれ!」
「分かったよ兄さん」
作戦も、くそもないアルマの戦い。
でも、この程度の敵なら問題ない。
目にも止まらぬ速さでアルマは、遺跡賊の前に移動し、男の前に立つ。
踏み込んだ瞬間、土が爆ぜる。
「わりいな!通らせてもらうぜ!」と男の顔を手で鷲掴みにし、放り投げる。
身体が宙を舞う。
「このガキィ!」
一斉に男達が、アルマの方へ突っ込んでくる。
足音が重なる。
「死ねえぇ!」
アルマは、背中から斬り込んできた男をかわす。
「死なねぇよ!」
かわし様に思いきり――ボディブローを打ち込む。
めり込む拳。男はくの字に曲がる。
吐き出された息が濁る。
「ぐ…ぐがぁ」
「たくっ多いなぁ」
アルマは、また一人また一人と敵を拳で殴り沈めていく。
拳がめり込んでは、鈍い音と共に男達の体が、くの字に折れていく。
骨が軋む音まで聞こえた気がした。
「兄さん…一人で終わらせちゃうよ」と軽くため息をついた。
「こっちのを、先にやれぇ!」
「やれやれ…」とレイが剣を抜く。
鞘走る音が、やけに冷たく響く。
「ぐ、はっ」
瞬く間に敵を斬り倒していく。
二十人近くいた男達は残り八人になっていた。
血飛沫が舞う前に、身体が崩れる。
「こ、こいつら…なんなんだ…!」
「お、俺たちじゃ勝てねぇ!お頭を呼びに行け!」
蹄の音がする。男のうちの一人が、馬に跨り走り去っていく。
乾いた地面を蹴り、砂煙が上がる。
「おー?なんだぁ?逃げるのかぁ?」
アルマは逃げる男を見ながら笑っていた。
「く、くそ!せめて、この小娘の方だけでも…!」
剣、棍棒、短剣、様々な刃が光る。残った七人は一斉にレイに飛び掛かった。
囲むように距離を詰めてくる。
――ブチッ
「あーぁ…アイツらアホだなぁ」とアルマは同情するように合掌した。
「…殺す…」
一瞬で空気が変わった。
風が止まったみたいだった。
レイが、剣を振る。
飛び掛かってきた前方三人が崩れ落ちた。
「……え?」
残った四人の男達は、何が起きたかすら理解ができなかった。音すらなかった。しかし、倒れた三人とも確かに斬られている。
バリィンッ!
手に持ってた銅剣が、力に耐えきれずに砕け散る。
刃片が光りながら飛ぶ。
「チャンスだ!やれえぇ!」
残り四人がレイに襲い掛かる。
「レイ!これ使え!」
アルマは自分の銅剣をレイに投げる。
レイは、受け取った剣を鞘から抜く。
鞘を握る手に力がこもる。
体勢を低くすると、猫科のような華やかな動きで、飛び掛かってくる四人を、全て斬り倒した。
踏み込みが、しなやかで鋭い。
「が…」
「………」
――静寂。
さっきまでの怒号が嘘みたいに消える。
「僕は男だ」
振り返り、冷たい眼差しで男達を見下ろすレイ。
剣を鞘に戻しながら、冷たく言葉を呟く。
声音に熱がない。
「レイはいつもは優しいとこあるからなぁ…にしてもコイツら弱っ!」
「兄さん、それ言わない」
逃げた一人を除き、気づけば全員倒れている。
「よし、行くか」
「うん」
「その剣やるよ!」
「兄さんどうせ使わないもんね」
⸻
古城入り口とは、別の場所。
【遺跡賊休憩地】
男は、息切れしながら声を発した。
「はぁ…はぁ…お、お頭!」
喉が潰れたような声だった。
太く、低い声で大柄の男は呟いた。
「何があったぁ?」
「変なガキ共が現れて…多分、この前の煙の奴らです!あの古城に入ろうとしてます!」
大柄な男の眉が少し動く。
「なにぃ…?」
声に力がこもる。
男が立ち上がると地面が少し沈んだ。
その瞬間、周囲の空気が重くなる。
焚き火の火すら、揺れ方を変えた。
――身体を抉るような圧。
胸の奥を掴まれるみたいな重さ。
ただ、立っているだけでそれが伝わる。
生き物としての“格“が違う。
「そのガキ共のもとに案内しろぉ」
命令というより、宣告だった。
危険な存在が、二人を追う。
次回は、いよいよ古城を攻略。
二人にとって、最大の試練の始まりです。




