表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/14

3話「古代生物 × 遺跡で食糧調達」

戦闘回、となっております。

遺跡探査にも、腹は減る。

 二人は遺跡を歩きながら、遺跡内の生物や、植物、湖など記録をとりながら進んでいた。

 紙に走るペンの音と、草を踏みしめる足音だけが、静かな世界に残る。

 遺跡内での食料と、水分の確保は直接的に命に関わるからだ。


 空腹も、渇きも――ここでは“死因”になる。


 二人は最初に立っていた場所から、目についた森の中へ入っていた。


 光が木々に遮られ、徐々に空気が冷たくなる。

 少し進むと、様々な種類の草を発見する。

 踏み込むたびに、湿った土がわずかに沈む。


 何かあった時の為に、なるべくならアレを手に入れておきたい。

 レイは、遺跡内に入ったら、直ぐにでも手に入れておきたいと考えていた、ある物を探す。


「止まって」とレイはしゃがみ込んだ。


 動きが止まる。空気も一緒に止まったように静かになる。


「またか?」

「うるさい、集中させて」


 少し形の歪な、紫色の葉を指でなぞる。

 指先にざらつく感触。

 少し苦みのある、独特な匂いが鼻を突く。


 その隣には、似たような形をしている草。

 少し厚みがある。縁がギザギザ。

 葉を匂うと、微かにハーブの香りがツンとくる。


「良かった……薬草だね」

「お、マジか」とアルマが顔を近づけてくる。


 いつも近い。ほんとに近い。暑苦しい。

 呼吸がかかる距離。


「それ食えるのか?」

「食べるな」とレイは即答する。

「なんでだよ」

「隣見て」


 アルマが視線を落とす。

 ほぼ同じ見た目の草だが、色が若干違う。


「これが毒」

「見分けつかねぇ」

「だから言ってる」

「なるほどな」とアルマが頷いた。


 ……理解してない顔だ。


 そして――


「じゃあ、こっちの方か」


 摘んで、口に入れた。


 その瞬間。


 口の中に苦味、辛み、酸っぱさ…

 全てがアルマの口の中で暴れ出す。


「う……ぐぅ……!」


 顔が一瞬で歪む。


「なにしてるの」

「え?」

「え?じゃない」

「いや、こっちは薬草だろ?」

「毒」

「マジで?」

「マジで」


――数秒経過。


 アルマの顔色が、ほんのわずかに青くなる。


「……なんか舌ピリピリする」

「当たり前」とレイは薬草を差し出した。

「これ食べて」

「最初からそれくれよ!!」

「人の話聞かないから」


 アルマがむしゃむしゃ食べる。

 噛み潰す音がやけに大きく響く。


「お、おぉ……毒も腹も、回復した気がする」

「気のせいじゃない」と、ため息をつく。


(全く…ほんとに…。)


「……兄さん、バカでしょ」

「うるせぇ!それより…毒……や、薬草食ったし大丈夫かな?」

「そうだね、まあギリギリ大丈夫でしょ」

「いや!こえーよ!」



 その時。


 地面がわずかに震えた。

 足元に、鈍い振動が伝わる。


 ……ドン。


 ……ドン。


 振動が徐々に大きくなる。

 地面の奥から響いてくるような重さ。


「……なに?」

「……でか」


 アルマが顔を上げる。

 草の向こうに、巨大な影が横切った。


 太ったトカゲのような生物。全長六メートル。

 皮膚は硬そうで、ところどころ黒ずんでいる。

 三本の鉤爪のようなものは、赤黒く変色している。


 重い呼吸音が、空気を揺らす。


「古代生物の地毒竜ナーガスだね」と、レイは小さく話す。

「食えるのか!?」

 …即それ。そして、声大きい。


「食べられない」

「なんで!?」

「兄さん、少し声落として…見つかっちゃう、ナーガスは血液に猛毒」


 ナーガスの舌が、ぬらりと動く。


「うわ」

「しかも血抜きが難しい」

「じゃあ無理だな!」

 あっさり諦めた。…珍しい。


「あと普通に強い」

「じゃあ絶対無理だな」


 流石に猛毒は無理と分かってくれたか。助かる。



 ナーガスが去ると、静けさが戻る。

 風の音だけが残る。


 レイは再び草を見た。


 その時。

 ひらり、と何かが動く。


「……!」


 透明!?

 いや、擬態しながら草に溶け込むような蝶。

 羽が光を反射して、わずかに輪郭が見える。


「……すご」


 思わず声が漏れる。

 近づき、じっと観察する。

 呼吸すら浅くなる。


「……レイ?」とアルマが不思議そうに見る。

「これ、擬態種の古代生物だ」

「へぇ」

「こんな近くで見れるの珍しい」

「へぇ」

「しかもこの透明度……」


「お前さ」とアルマがため息をついた。

「草と蝶でテンション上げるとか女の子かよ」


――ブチッ


 空気が変わる。


「は?」


 瞬く間に、目に殺意が宿るレイ。

 思考より先に、身体が動く。


「待っ、ちょ、レイ!?」

「誰が女の子だ」


 ボコッ。

「痛っ!」


 バキッ。

「す、すまん!」


 ドゴッ。

「す、ずみまぜん……!」


 アルマが地面に沈む。

 乾いた土が舞い上がる。


「バカ兄貴……分かればいい」


 息を整える。

 振り返ると、蝶はもういなかった。


「……最悪」

「ごめんて……」



 気を取り直して僕は本を取り出す。

 真実の砂時計の手帳。

 紙の手触りが、少しだけ安心をくれる。


 その中には、生物の記録もある。

 読めば読むほど勉強になる。


「何見てんだ?」とアルマが覗き込む。

「食料候補」

「お、いいね!はーら減ったー!」


 アルマは腹をさすりながら叫んでる。


 空気読め。


 そろそろ、何か仕留めとかないと…

 暗くなってからだと危険だ。


 レイは、ページをめくる。


「……討伐難度」

「なにそれ」

「生物や兵器の強さの目安」

「へぇ」

「下はE」

「雑魚だな!」

「上はSSS」

「それは無理だな」

「同意」


 本の生物、生態系、討伐難度を指でなぞる。


「今の僕らなら……EかD」

「現実的だな」

「無謀はしない」

「はいはい優等生」

「バカ兄貴」

 

「……これ」とレイがページを止める。

「シシマル?」

「猪型で冒険者アークシーカーの基本の調達肉だってさ」

「食える?」

「食べられる」

「決まりだな!!」


 即決。

 兄さん…単純すぎる…。

 でも、それが兄さんの良い所か…。とレイは笑みをこぼす。


「……行こう」とレイは本を閉じる。

「よっしゃ、狩りだ!」


 声がでかい…ほんとに…。


「静かに」

「はいはい」


 全然分かってないだろ……。

 

 でも、僕は少しだけ笑っていた。

 

 ――そして。

 シシマルを探し始める。


⸻レイが周囲を観察する。

 足を止め、視線だけを動かす。風の流れ、草の揺れ、匂い。


 大きい足跡がある。土が深く抉れている。

 爪?いや、違う。地面を削りながら歩いてるな…。

 あっちは大きい木が折れている。無理やりなぎ倒された跡。

 ……なにかいるな…。

 耳を澄ます。遠くで草を踏む音が、わずかに響く。


「……こっち」とレイは歩き出す。

「分かるのか?」

「なんとなく」

「なんとなくで来てんのかよ」

「当たるから問題ない」


 草をかき分ける音。

 呼吸が少しずつ浅くなる。


 しばらく進むと――いた。


 シシマル。

 猪型の古代生物。冒険者アークシーカーの間では、肉付きがよく、煮ても焼いても食べられる事から、遺跡の中での食料として重宝されている。


 【討伐難度:E】


 身体は真っ黒な体毛。普通の猪より二回りは大きい。

 牙は五本。土を掘るたびに、ガリ…と嫌な音が鳴る。

 一度、突進し始めると、木や岩など構わず粉砕して進む。

 突進する前、もしくは突進後、横から仕留めろ――と記録されている。


 シシマルは地面を掘りながら、何かを食べている。

 まだこちらには気づいていない。


「……でかいな」とアルマが小声で言う。

「挟み撃ちでいく」


 レイは剣を抜く。

 鞘から抜ける金属音が、やけに大きく感じる。


 気配を殺す。

 呼吸を抑える。


「いい?僕が――」


「うおおおおお!!」


 アルマが突っ込んだ。


「なんで!?」


「先手必勝!!」


 な、なんて雑なんだ…。


――シシマルが振り向く。

 土を蹴る。目が合う。


 次の瞬間――


 こっちに来た。


「ちょっと!?」


 アルマじゃない。僕に来てる。


「バカ兄貴ぃ!!」

「任せろ!!」


 任せられない。


 シシマルが突進してくる。

 地面が抉れる。一直線にこちらへ。


 速い。

 剣を構える。

 逃げるより、受ける方が早い。


 シシマルの攻撃を受ける。


――ガキィンッ!!


 激しい金属音。

 衝撃が腕を通して骨に響く。


 牙と剣がぶつかる。鍔迫り合い。

 地面が沈む。足がズレる。

 伝わるシシマルの力。


 …重い。押し込まれる。


「っ……!」

 力が強い…押し負ける…!

 足が滑る。あと少しで、崩れる。


「レイ!!」

「に、兄さん…!」


 シシマルに弾かれ倒れるレイ。

 背中を打つ。呼吸が一瞬止まる。


「猪もどきが!俺の弟に何しやがってんだぁぁぁぁ!!」


 次の瞬間――

 アルマが横から殴った。


 踏み込み。

 捻り。

 叩き込まれる拳。


 肉にめり込む鈍い音。

 シシマルの巨体が浮く。

 そして――吹き飛ぶ。


 そのまま岩に叩きつけられた。


 ドゴォンッ!!


 岩は砕け散り、破片が周囲に飛び散る。

 土煙が上がる。

 シシマルが動かない。


 ……終わった。


「……え?」

 静かになった。

「倒したぞ!」とアルマがドヤ顔。

「……」


 僕は剣を見る。

 まだ震えている手。


「……兄さん、剣の意味ないじゃん」

「って、そこかよ!倒せたんだから良いだろ!?」

「僕は受けただけ」

「役に立ってたって!!そもそもあんな猪もどきレイが本気出せば一撃だろ!」

「最後は拳だったけど」

「うるせぇな!!」


 ため息――でも。助かったのは事実だ。


「……ありがと」と小さく言った。

「おう!」


 単純だ。



 夜。


 遺跡の中なのに、暗くなる。

 さっきまであった光が、嘘みたいに消えていく。


 透き通るように澄んだ風が身体を包む。

 心地いい。少し冷たい。


 星がよく見える。

 空があるからだろうか。


 目の前の焚き火では、肉汁が溢れ、シシマルが程よく焼けている。


 ジュウ……と脂が落ちる音。

 香ばしい匂いが広がる。


 夕方仕留めたシシマル。

 毛抜き、血抜きを行い、臭み防止に薬草に少しの間つけ込む。

 スパイスをまぶし、ステーキ、串肉として調理したシシマルの肉を二人で頬張る。


 カリッとした皮。

 噛んだ瞬間――中から、ジューシーな肉汁が溢れる。


 熱い。

 旨い。


 それでいて歯応えもあり、スパイスの香りが口の中に充満する。


 まさに絶品だ。

 焚き火を囲む。

 一時立って、シシマルはもう骨になっていた。


「食ったなぁ」

 アルマが膨れた腹をさすりながら、満足そうに言う。

「食べすぎ」

「成長期だからな」

「終わってるでしょ」

「まだだ」


 なんて適当なんだ。

 

 パキッ。弾ける。

 ――安らぐ。


 聞き心地の良い音だ…

 火が揺れる。影が揺れる。


 時間がゆるやかに流れる。静かな時間。


「明日も楽しみだな」

 あくびをしながらアルマが横になる。

 すぐに寝息。


 …早すぎる。

「……はや」

 僕は少しだけ笑う。

 やれやれ。…ほんとに。

 でも。


 その顔を見ていると。少しだけ安心する。


「……バカだな」と小さく呟く。


――それでも、嫌いじゃない。


 レイは焚き火を見つめる。揺れる炎。


 パチパチと弾ける音。

 その先にあるのは、まだ見ぬ世界。


 目を閉じる。

――明日も、きっと。


 面倒で――。

 危険で――。


――少しだけ、楽しい。

 そんな一日になる……レイも眠りにつく。


 焚き火の火が、ゆらりと揺れる。


 その煙は、まっすぐ空へと伸びていく。


 同時刻――


 焚き火で上がる煙を、遠くで見つめる集団がいた。

 闇の中、複数の影が静かに蠢く。


 音はない。

 ただ――視線だけが、こちらを捉えている。


 安堵する二人は、まだ気づいていない。

 二人の存在を警戒する。人間達がいる事を。

次回は、「遺跡賊」遺跡を荒らす、世紀末な人類が現れます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ