3話「古代生物 × 遺跡で食糧調達」
戦闘回、となっております。
遺跡探査にも、腹は減る。
二人は遺跡を歩きながら、遺跡内の生物や、植物、湖など記録をとりながら進んでいた。
紙に走るペンの音と、草を踏みしめる足音だけが、静かな世界に残る。
遺跡内での食料と、水分の確保は直接的に命に関わるからだ。
空腹も、渇きも――ここでは“死因”になる。
二人は最初に立っていた場所から、目についた森の中へ入っていた。
光が木々に遮られ、徐々に空気が冷たくなる。
少し進むと、様々な種類の草を発見する。
踏み込むたびに、湿った土がわずかに沈む。
何かあった時の為に、なるべくならアレを手に入れておきたい。
レイは、遺跡内に入ったら、直ぐにでも手に入れておきたいと考えていた、ある物を探す。
「止まって」とレイはしゃがみ込んだ。
動きが止まる。空気も一緒に止まったように静かになる。
「またか?」
「うるさい、集中させて」
少し形の歪な、紫色の葉を指でなぞる。
指先にざらつく感触。
少し苦みのある、独特な匂いが鼻を突く。
その隣には、似たような形をしている草。
少し厚みがある。縁がギザギザ。
葉を匂うと、微かにハーブの香りがツンとくる。
「良かった……薬草だね」
「お、マジか」とアルマが顔を近づけてくる。
いつも近い。ほんとに近い。暑苦しい。
呼吸がかかる距離。
「それ食えるのか?」
「食べるな」とレイは即答する。
「なんでだよ」
「隣見て」
アルマが視線を落とす。
ほぼ同じ見た目の草だが、色が若干違う。
「これが毒」
「見分けつかねぇ」
「だから言ってる」
「なるほどな」とアルマが頷いた。
……理解してない顔だ。
そして――
「じゃあ、こっちの方か」
摘んで、口に入れた。
その瞬間。
口の中に苦味、辛み、酸っぱさ…
全てがアルマの口の中で暴れ出す。
「う……ぐぅ……!」
顔が一瞬で歪む。
「なにしてるの」
「え?」
「え?じゃない」
「いや、こっちは薬草だろ?」
「毒」
「マジで?」
「マジで」
――数秒経過。
アルマの顔色が、ほんのわずかに青くなる。
「……なんか舌ピリピリする」
「当たり前」とレイは薬草を差し出した。
「これ食べて」
「最初からそれくれよ!!」
「人の話聞かないから」
アルマがむしゃむしゃ食べる。
噛み潰す音がやけに大きく響く。
「お、おぉ……毒も腹も、回復した気がする」
「気のせいじゃない」と、ため息をつく。
(全く…ほんとに…。)
「……兄さん、バカでしょ」
「うるせぇ!それより…毒……や、薬草食ったし大丈夫かな?」
「そうだね、まあギリギリ大丈夫でしょ」
「いや!こえーよ!」
⸻
その時。
地面がわずかに震えた。
足元に、鈍い振動が伝わる。
……ドン。
……ドン。
振動が徐々に大きくなる。
地面の奥から響いてくるような重さ。
「……なに?」
「……でか」
アルマが顔を上げる。
草の向こうに、巨大な影が横切った。
太ったトカゲのような生物。全長六メートル。
皮膚は硬そうで、ところどころ黒ずんでいる。
三本の鉤爪のようなものは、赤黒く変色している。
重い呼吸音が、空気を揺らす。
「古代生物の地毒竜だね」と、レイは小さく話す。
「食えるのか!?」
…即それ。そして、声大きい。
「食べられない」
「なんで!?」
「兄さん、少し声落として…見つかっちゃう、ナーガスは血液に猛毒」
ナーガスの舌が、ぬらりと動く。
「うわ」
「しかも血抜きが難しい」
「じゃあ無理だな!」
あっさり諦めた。…珍しい。
「あと普通に強い」
「じゃあ絶対無理だな」
流石に猛毒は無理と分かってくれたか。助かる。
⸻
ナーガスが去ると、静けさが戻る。
風の音だけが残る。
レイは再び草を見た。
その時。
ひらり、と何かが動く。
「……!」
透明!?
いや、擬態しながら草に溶け込むような蝶。
羽が光を反射して、わずかに輪郭が見える。
「……すご」
思わず声が漏れる。
近づき、じっと観察する。
呼吸すら浅くなる。
「……レイ?」とアルマが不思議そうに見る。
「これ、擬態種の古代生物だ」
「へぇ」
「こんな近くで見れるの珍しい」
「へぇ」
「しかもこの透明度……」
「お前さ」とアルマがため息をついた。
「草と蝶でテンション上げるとか女の子かよ」
――ブチッ
空気が変わる。
「は?」
瞬く間に、目に殺意が宿るレイ。
思考より先に、身体が動く。
「待っ、ちょ、レイ!?」
「誰が女の子だ」
ボコッ。
「痛っ!」
バキッ。
「す、すまん!」
ドゴッ。
「す、ずみまぜん……!」
アルマが地面に沈む。
乾いた土が舞い上がる。
「バカ兄貴……分かればいい」
息を整える。
振り返ると、蝶はもういなかった。
「……最悪」
「ごめんて……」
⸻
気を取り直して僕は本を取り出す。
真実の砂時計の手帳。
紙の手触りが、少しだけ安心をくれる。
その中には、生物の記録もある。
読めば読むほど勉強になる。
「何見てんだ?」とアルマが覗き込む。
「食料候補」
「お、いいね!はーら減ったー!」
アルマは腹をさすりながら叫んでる。
空気読め。
そろそろ、何か仕留めとかないと…
暗くなってからだと危険だ。
レイは、ページをめくる。
「……討伐難度」
「なにそれ」
「生物や兵器の強さの目安」
「へぇ」
「下はE」
「雑魚だな!」
「上はSSS」
「それは無理だな」
「同意」
本の生物、生態系、討伐難度を指でなぞる。
「今の僕らなら……EかD」
「現実的だな」
「無謀はしない」
「はいはい優等生」
「バカ兄貴」
「……これ」とレイがページを止める。
「シシマル?」
「猪型で冒険者の基本の調達肉だってさ」
「食える?」
「食べられる」
「決まりだな!!」
即決。
兄さん…単純すぎる…。
でも、それが兄さんの良い所か…。とレイは笑みをこぼす。
「……行こう」とレイは本を閉じる。
「よっしゃ、狩りだ!」
声がでかい…ほんとに…。
「静かに」
「はいはい」
全然分かってないだろ……。
でも、僕は少しだけ笑っていた。
――そして。
シシマルを探し始める。
⸻レイが周囲を観察する。
足を止め、視線だけを動かす。風の流れ、草の揺れ、匂い。
大きい足跡がある。土が深く抉れている。
爪?いや、違う。地面を削りながら歩いてるな…。
あっちは大きい木が折れている。無理やりなぎ倒された跡。
……なにかいるな…。
耳を澄ます。遠くで草を踏む音が、わずかに響く。
「……こっち」とレイは歩き出す。
「分かるのか?」
「なんとなく」
「なんとなくで来てんのかよ」
「当たるから問題ない」
草をかき分ける音。
呼吸が少しずつ浅くなる。
しばらく進むと――いた。
シシマル。
猪型の古代生物。冒険者の間では、肉付きがよく、煮ても焼いても食べられる事から、遺跡の中での食料として重宝されている。
【討伐難度:E】
身体は真っ黒な体毛。普通の猪より二回りは大きい。
牙は五本。土を掘るたびに、ガリ…と嫌な音が鳴る。
一度、突進し始めると、木や岩など構わず粉砕して進む。
突進する前、もしくは突進後、横から仕留めろ――と記録されている。
シシマルは地面を掘りながら、何かを食べている。
まだこちらには気づいていない。
「……でかいな」とアルマが小声で言う。
「挟み撃ちでいく」
レイは剣を抜く。
鞘から抜ける金属音が、やけに大きく感じる。
気配を殺す。
呼吸を抑える。
「いい?僕が――」
「うおおおおお!!」
アルマが突っ込んだ。
「なんで!?」
「先手必勝!!」
な、なんて雑なんだ…。
――シシマルが振り向く。
土を蹴る。目が合う。
次の瞬間――
こっちに来た。
「ちょっと!?」
アルマじゃない。僕に来てる。
「バカ兄貴ぃ!!」
「任せろ!!」
任せられない。
シシマルが突進してくる。
地面が抉れる。一直線にこちらへ。
速い。
剣を構える。
逃げるより、受ける方が早い。
シシマルの攻撃を受ける。
――ガキィンッ!!
激しい金属音。
衝撃が腕を通して骨に響く。
牙と剣がぶつかる。鍔迫り合い。
地面が沈む。足がズレる。
伝わるシシマルの力。
…重い。押し込まれる。
「っ……!」
力が強い…押し負ける…!
足が滑る。あと少しで、崩れる。
「レイ!!」
「に、兄さん…!」
シシマルに弾かれ倒れるレイ。
背中を打つ。呼吸が一瞬止まる。
「猪もどきが!俺の弟に何しやがってんだぁぁぁぁ!!」
次の瞬間――
アルマが横から殴った。
踏み込み。
捻り。
叩き込まれる拳。
肉にめり込む鈍い音。
シシマルの巨体が浮く。
そして――吹き飛ぶ。
そのまま岩に叩きつけられた。
ドゴォンッ!!
岩は砕け散り、破片が周囲に飛び散る。
土煙が上がる。
シシマルが動かない。
……終わった。
「……え?」
静かになった。
「倒したぞ!」とアルマがドヤ顔。
「……」
僕は剣を見る。
まだ震えている手。
「……兄さん、剣の意味ないじゃん」
「って、そこかよ!倒せたんだから良いだろ!?」
「僕は受けただけ」
「役に立ってたって!!そもそもあんな猪もどきレイが本気出せば一撃だろ!」
「最後は拳だったけど」
「うるせぇな!!」
ため息――でも。助かったのは事実だ。
「……ありがと」と小さく言った。
「おう!」
単純だ。
⸻
夜。
遺跡の中なのに、暗くなる。
さっきまであった光が、嘘みたいに消えていく。
透き通るように澄んだ風が身体を包む。
心地いい。少し冷たい。
星がよく見える。
空があるからだろうか。
目の前の焚き火では、肉汁が溢れ、シシマルが程よく焼けている。
ジュウ……と脂が落ちる音。
香ばしい匂いが広がる。
夕方仕留めたシシマル。
毛抜き、血抜きを行い、臭み防止に薬草に少しの間つけ込む。
スパイスをまぶし、ステーキ、串肉として調理したシシマルの肉を二人で頬張る。
カリッとした皮。
噛んだ瞬間――中から、ジューシーな肉汁が溢れる。
熱い。
旨い。
それでいて歯応えもあり、スパイスの香りが口の中に充満する。
まさに絶品だ。
焚き火を囲む。
一時立って、シシマルはもう骨になっていた。
「食ったなぁ」
アルマが膨れた腹をさすりながら、満足そうに言う。
「食べすぎ」
「成長期だからな」
「終わってるでしょ」
「まだだ」
なんて適当なんだ。
パキッ。弾ける。
――安らぐ。
聞き心地の良い音だ…
火が揺れる。影が揺れる。
時間がゆるやかに流れる。静かな時間。
「明日も楽しみだな」
あくびをしながらアルマが横になる。
すぐに寝息。
…早すぎる。
「……はや」
僕は少しだけ笑う。
やれやれ。…ほんとに。
でも。
その顔を見ていると。少しだけ安心する。
「……バカだな」と小さく呟く。
――それでも、嫌いじゃない。
レイは焚き火を見つめる。揺れる炎。
パチパチと弾ける音。
その先にあるのは、まだ見ぬ世界。
目を閉じる。
――明日も、きっと。
面倒で――。
危険で――。
――少しだけ、楽しい。
そんな一日になる……レイも眠りにつく。
焚き火の火が、ゆらりと揺れる。
その煙は、まっすぐ空へと伸びていく。
同時刻――
焚き火で上がる煙を、遠くで見つめる集団がいた。
闇の中、複数の影が静かに蠢く。
音はない。
ただ――視線だけが、こちらを捉えている。
安堵する二人は、まだ気づいていない。
二人の存在を警戒する。人間達がいる事を。
次回は、「遺跡賊」遺跡を荒らす、世紀末な人類が現れます。




