2話「 遺跡探索 × まず生きる事 」
広大な遺跡の中、その世界の存在感を感じる回となってます。
村を出てから、まずは、目星をつけていた、遺跡攻略に挑む事にするアルマとレイ。
踏みしめる土は、まだ村の延長のようで――けれど、一歩一歩、確実に知らない場所へと近づいていた。
「なぁなぁ、地図の遺跡あとどのくらいだぁ?」
「うるさい、集中させて」
アルマとレイは、生まれ育った村を出発し、山間の道を半日ほど歩いていた。
足元の小石が転がり、風が頬を撫でる。遠くで鳥が鳴いている。
「そろそろ、見えてくると思うよ」
「なぁなぁ、腹減ったぁ」
アルマは、腹をさすりながらボヤいていた。わざとらしく大きな音を立てて。
(…このバカ兄貴は一人じゃ生きていけないから、僕を連れ出したんじゃ…?)
そんな疑念が、レイの中で過ぎりつつ。
手のかかるアルマを引き連れながら、二人はようやく、木製の古ぼけた小屋に辿り着く。
壁は歪み、屋根は一部が崩れかけている。風が吹くたびに、ギシ…と音が鳴った。
「お!ここがそうなのか??」
「地図では、この付近に印がついてる」
二人で小屋の窓から、中を覗き込む。
薄暗く、静まり返っている。
「な、何もねぇように見えるけど…」
「兄さん、入って調べよう」
二人は、小屋の正面扉から中に入る。
扉を開けると、ぎい、と軋んだ音が耳に残る。
足を踏み入れると、窓から微かに光が差し込むが、空気は淀んでいる。乾いた埃が舞い、喉に引っかかる。
(なんだこれ…。)
乾草が一面に敷かれている。踏むたびに、シャリ、と乾いた音がする。
…家畜小屋か?
レイは足元の、敷き詰められた乾草を見ながら首を傾げる。
「レイ、入り口はどこだ?」
「今考えてるから、あんまり動かないで」
考え込むレイを横目に、歩き出すアルマ。
乾草が大きく沈む。
「なーにが『動かないでぇ』だよ、動かないと調べ――」
「兄さん――へ?」
アルマが、突如消えてしまった。
音もなく、足音も残さず。
呆気に、取られているレイ。
「ちょっと!兄さん!?」
――アルマが消えた…。
消えたであろう付近を、眺めながらレイが戸惑う。
空気が止まったように静かになる。
シ――ン
兄さん…何処に消えてしまったんだ…。
「ーぃ!」
(……ん?)
「ぉーぃ!」
兄さんが、消えたあたりの草が――揺れている。
…いや、違う。声がする。
地面の下から、微かに響く声。
もしかして、兄さんはトラップか何かで家畜の乾草に変えられたとか…?
一瞬、本気でそう思う。
「レーーーーーイ!下だー!」
――(はっ!下!?)
アルマの声がする、床の方を見ながら覗き込むレイ。
小屋の地面をよく見ると、乾草の間に人一人が通れる程の穴が空いている。
暗い穴の奥から、冷たい空気が流れてくる。
(なるほど、ここが入り口なのか…?)
「レーーーーーイ! おーーーい!」
「下だぞーーー! おーーーーい!」
「レ――」
(一人でも、相変わらずうるさい…。)
「兄さーん!今行くから待っててー!」
ゴク…。
無意識に喉が鳴る。
床に空いた穴に、足を踏み入れた。
次の瞬間、足場が崩れる。
体が前のめりに滑り落ちた。
傾斜した土の通路を、制御もできずに一気に流される。
背中を削られる。腕で止めようとしても、砂が崩れて掴めない。
暗闇が迫る。
止まらない。
止まれない。
そのまま暗闇へ――。
地下へ滑り落ちた先は、ひらけた部屋だった。
衝撃と共に転がる。
砂が舞い上がり、視界が白く霞む。
――誰もいない。
そう思った瞬間。
「遅かったな!」
振り向くと、アルマがニヤニヤと笑っていた。
土まみれだが、無傷に見える。
「うるさい」
レイが部屋を見渡すと、窓のない木製の部屋。
壁は粗く組まれているが、明らかに“作られた空間”だ。
(遺跡の入口にしては…妙だな)
「兄さん、そこの扉は?」
土埃を払いながら、レイは扉の方を見た。
「だろ!?気になるよな!でも、開けずに待ってたから安心しな!」
アルマは、嬉しそうに笑った。
「この扉の先が、そうなのかな?」
「おう!そうかもしんねえ!」
扉の前に立った、二人の顔から笑みが溢れる。
手に汗が滲む。
――胸が高鳴る。
「夢の第一歩だな!」
「兄さん、嬉しそうだね」
「あったりめぇだろ!レイも嬉しそうじゃねえか!」
「う、嬉しくなんかない」
「兄ちゃんとの大冒険が楽しみなんだろ?隠すなよ」
「いや、嬉しくない」
「うそつけ!」
「うそじゃない」
「何かあったら、兄ちゃんが守ってやるからな!」
「…クソ兄貴…」
吐き捨てるように言って、レイはわずかに笑った。
――アルマが扉を開け、二人は足を踏み入れる。
瞬間。
光が、視界を埋める。
草原の真ん中にぽつんと佇む小屋を背に、アルマとレイは足を止めた。
見渡す限り、別の世界のような光景が広がっている。
――世界が変わった。
空がある。風が吹く。木々が揺れる。
草が波のように揺れ、遠くで何かが鳴いている。
外から見た入口は、ただの穴だったはずなのに。
中は――広すぎる。
「……は?」
アルマが間抜けな声を出す。
言葉が追いついていない。
「だから言ったでしょ」
僕は前を見たまま言う。
「遺跡は“別世界”だって」
「いや、聞いてたけどさ」
アルマが空を見上げる。
視線が、どこまでも上に引っ張られる。
「想像の十倍は広いんだけど」
「それは同意」
正直、僕も少し驚いている。
地面は草原。
遠くには森。
山頂が白くなっている巨大な山。
森の方には、巨大な鳥が羽ばたいているのが見える。
いや…あれは鳥か?
草原の真ん中に見える、湖の辺りでは。
古代生物だろうか。見た事もない、様々な生物達が水を飲んでいる。
さらに奥には――何かが見える。
「なぁ、あれ」
アルマが指を差す。
僕も視線を向ける。
……巨大な影。
巨人…?しかし、何処か人工的だ。
ゆっくりと歩いている…。
「……ゴーレムだね」
木の数十倍はあるように見える。
いや、それ以上かもしれない。
歩くたびに、足元に振動が伝わる。
ドン……ドン……と、地面が微かに揺れる。
頭は高すぎてよく見えない。
鳥が、その肩あたりを飛んでいる。
(なんだよあの高さ…スケールが狂ってる。)
「……ヤバくね?」
「今の僕らじゃ無理」
即答。
「だよな」
アルマも珍しく、あっさり引いた。
「まぁ、まずは慣れるところからだな!」
「それが普通」
軽く頷く。
腰の銅剣を強く握る――手に力がこもる。
まだ頼りない重さ。
でも、これが今の自分達だ。
――まずは生きる。
それが、最優先だ。
二人はまだ知らない。
この遺跡攻略の先で。
二人が――死の瀬戸際を彷徨うことを。
次回は、猪とイノシシ?の激突、な回です。




