5話「古城攻略戦×鬼の巣窟」
“巨大な“古城。
一体、何が潜んでいるのか……。
二人を、超絶難度の試練が襲う。
――古城の中。
入ってまず目についたのは、途方もない広さだ。そして。床や壁、天井の無骨な石造りだ。
石の冷たさが、空気越しにも伝わってくる。 足音が響き、遅れて返ってくる。
シンプルな作りだが、質量がある室内の雰囲気からか、微かに空気が重い。
息を吸うたび、胸の奥に鈍い圧がかかるような感覚。
「ひっろぉー!!!レイ見ろよ!天井もたっけぇ!」
アルマが驚くのも無理はない。
僕達は古城に入ったが、外からの存在感通り。
何もかもが巨大すぎて、圧倒されてしまう。
人が暮らすための城、というより。
何か“別の存在”のために造られた空間みたいだった。
「兄さん、はしゃがない」
「はしゃいでねえ」
「はしゃいでる」
「うおー!あれはなんだ!?でっけぇ鎧が沢山並んでる!!」
「バカ兄貴」
正面の門を入り、どれくらい歩いただろうか。
ようやく、一階の広いフロアに僕達は辿り着いた。
歩いても歩いても、端に着かない。
この城の中だけで、村一つ入るんじゃないかと思うほどだ。
「なんかよ、本で読んだ玉座の間みてえだな!」
古い外観とは似つかない、高そうなシャンデリア、蝋燭立て、鎧、階段の手すりなどに装飾が目立つ。輝きは濁っているが、高そうな物ばかりだ。
かつては確かに、ここに“栄えていた何か”があったのだろう。
遺跡の中に、なぜこんな巨大な城が現存しているんだ……?
そんな疑問を抱きつつ、レイは奥へと進む。 石床を踏むたびに、コツ、コツ、と乾いた音が響いた。
「なあなあ!奥にでっけぇ階段があるぜ!行ってみようぜ!」
「慎重に進まないと」
「レイはビビリすぎなんだよ!こういうのは思い立ったら前進あるのみ!」
「はぁ…」とレイはため息をつく。
嫌な予感しかしない。
フロア内には扉はなく、密室だが、上に向かって伸びる、巨大な螺旋状の階段がある。
アルマは自信満々に階段を登る。
右周りに昇る階段と、左周りに昇る階段があったがアルマとレイは右の階段を選んだ。
まぁ、僕達というか兄さんが選んだんだけど。
二人は階段を登る。いや階段を飛び越えていくの方が正しい。壁を一段一段、登るような。見た事もない、巨大さだった。
普通の人間の歩幅で登るには、一段が高すぎる。
石の縁に手をかけ、跳び、着地し、また登る。 それを延々と繰り返す。
階段を飛び越え続けると、階段が途絶え一本の通路に差し掛かる。向こう側にも階段があり、向こうにも一本の通路があるようだ。
「この城、外から見るより中はシンプルだね」
「でっけぇ部屋と、なっげえ階段ばっかだったな!」
向こう側の通路と、こっちの通路は繋がってるのだろうか? 疑問の残しながら、二つに分かれた通路の片方を進んでいく。
風もないのに、どこかひんやりしている。
「ずっと真っ直ぐだなぁ、どこまで続いてんだよこれぇ」
「兄さんが選んだ道だろ」
通路とはいえ、天井は十メートルはあるだろうか。さらに通路の幅も八メートル。いや、それ以上か。
声が響きすぎる。 少し大きく喋るだけで、自分の声が遠くから返ってくる。
ふと、レイが数歩先に目をやると、直線と左に曲がるT字の通路に差し掛かる。気になったのは、T字の合流付近の石畳、何ヶ所か床の色が違う部分に違和感を覚えるレイ。
そこだけ、わずかに擦れている。
踏まれた跡――いや、何かが“作動した”跡だ。
「兄さん」
「なんだよ」
「罠踏むなよ」
「任せんかい!」
一歩。
二歩。
――三歩。
「どうだ!お約束で俺が踏むと思っただろう?我が弟よ!」とアルマが、ドヤ顔で振り返る。
「子供じゃないんだから喜ばないよバカ兄貴」
「なぬー!可愛くないやつめ!兄ちゃんだって成長――」
カチン。
「……は?」
足元。 ほんの少しズレた場所。
「兄さんそれ――」
ズドンッ!!
ゴヒュッ!!
T字の曲がり角の通路奥から、真っ直ぐ進もうとしていたアルマめがけて、巨大な槍が豪速で飛んでくる。
「うおおおお!?」
「兄さん!走れ!!」
アルマ、ヘッドスライディング。ギリギリで回避。
アルマとレイの間をすり抜けた槍は、壁を突き破り外へ飛んでいく。
ドゴン。
外が見える、壁の巨大な大穴を見て、アルマが震える。
「……死ぬかと思った」
「だから言った」
「泣いてねぇぞ?」
「涙出てる」
「出てねぇ!!」
出てる。
⸻その後も、ことごとく罠のギミックを作動させるアルマ。
落とし穴。
ガラッ――砂が崩れ、底の見えない暗がりへ石が転がり落ちていく。コツ、コツ……やがて音が消える。
「うぉー!ギリギリセーフ!!」
縁に爪先を引っ掛け、体を引き戻す。
「兄さん……」
飛び矢。
ヒュンッ、ヒュヒュヒュンッ――風を裂く連射音が通路に反響する。
「なんのこれしきぃ!!」
肩をひねり、頬を掠める風。冷たい。
「……」
回転刃。
ギィィィィン――唸りを上げて円を描く刃。火花が散る。
「まだまだぁ!」
踏み台にして跳ねる。
「おい……」
――ブチッ
ドゴッ!
バギッ!
壁に叩きつけられ、粉塵が舞う。
「ワザとやってんじゃねぇだろうな?」
「す、ずみまぜん」
地面に沈むアルマ。
静寂。
目に見える、罠を避けつつ進む。足音がやけに大きく響く。
遺跡の起源、城の存在など、レイは考えていた。
一体、遺跡の中にある、この古城みたいな建造物は誰が造ったんだろう?そろそろ遺跡の世界ってなんなんだろう。
――そして、通路を直進し続けて、二人は辿り着いた。最上階と思われる、巨大な扉。
近づくほどに圧が増す。視界いっぱいに広がる扉。
四メートルといわれている、巨人族ですら、通り抜けられるであろう大きさに、アルマとレイは圧倒される。
「すっげえ!でけえな!全てがでげえな、この城!!巨人族でも出てきそうだな!」
アルマの興奮が伝わる。
胸が高鳴る。
「こんなでけえ扉って事は、いよいよお宝ありますって感じだな!レイ、心の準備はいいか?開けるぞ!」
「うん」
扉が軋む――ギィ……。重い音が奥へ奥へと吸い込まれていく。
⸻
暗い。光が。
足を踏み入れた二人は、中を捜索しながら進む。靴音が反響して、どこから鳴っているのか分からなくなる。
奥まで進み…ある程度の全体像を掴む。ここは円形極大の部屋だった。壁にはロウソクが灯されているが部屋が広すぎて、それでも、部屋の大半は薄暗い。
光が届かない。
――空気が重い。肺に入る空気が、わずかに粘つく。
「レイ用心しろよ…」
「うん」
「にしてもバカ広いフロアだなこりゃ」
――部屋の中を歩いて調べる。
視線が滑る。影が揺れる。
入ってきた扉と、部屋の隅に1ヶ所の空気口。微かに風が流れている。
大型槍の、罠トラップが床に1ヶ所。
それ以外に変わった所はない。
「この部屋、行き止まり…?みたいだね」
「なぁんだハズレかあ…じゃあ引き返そうぜ」
アルマは来た道を戻り始める。
レイは少し考えながら呟く。
「空気口があるって事は、どこかに通じてるのか?」
アルマが振り返りながら、レイを急かす。
「おーい!レイ!はや――」
――その瞬間。
ザッ……ザザ……
何かが、這う。
遠くから。複数。
空気高口から、蠢く何かが這い出てくる。影が溢れる。
獣の叫び声のような、甲高い声が何重にも叫んでいる。耳を刺す。
緑の小柄な汚れた身体、獲物を舐め回すように光る。黄色い目。
獲物を切り裂き食いちぎる為に特化した。鋭い爪と鋭い牙。
これは、古代生物、小鬼だ。
【小鬼:討伐難度E】
三十匹はいる。床を踏み鳴らし、影が増える。瞬く間にアルマとレイは囲まれる。
「兄さん、討伐難度E」
「余裕だな」
「うん、でも数が多い、油断しないで」
「ったりめぇだろ!行くぞレイ!」
アルマが地面を一蹴し、小鬼の群れに突っ込む。床が鳴る。
「きやがれぇぇぇ!」
アルマの振り上げる右腕に力がこもる。
鈍い打撃音が複数回、響き渡る。骨が軋む。
それと同時に肉が飛び散る音と共に、耳障りな甲高い断末魔が耳に入ってくる。
「オラオラオラァ!!」
アルマの豪拳の連打が、小鬼の身体に容赦なく、めり込んでいく。
数体の小鬼は、息つく間もなく、アルマの攻撃に悶絶し倒れていく。
「兄さん楽しそうだ…」
「まっだまだあー!!!」
獣と見間違えるほど、アルマの身体の動きが加速していく。
腕と足を地につけ、しゃがんだかと思えば腕力と脚力を同時に爆発させ、さらに加速。
空気が裂ける。
アルマの拳が、二体のゴブリンの顔面と腹部にめり込み、瞬時に屠る。
小鬼は、アルマを捉える事すらできない。
ゴブリン四体は、奇声を発しながらアルマを囲む。
「へへ!おら!こいよおぉぉ!」
しかし、ゴブリンは気後れしているのか動かない。距離を詰めきれない。
その時、レイが剣を抜き、レイも地面を一蹴する。
――ドサッ。
アルマを囲んでいた小鬼、四体が崩れ落ちる。
斬撃の音が、遅れて届く。
「兄さん一人で突っ込まないで」
「わりい!」
アルマが突っ込み、アルマの後ろに回った小鬼を、レイが崩す。
⸻
気がつけば、殆どの小鬼は倒れ、残り一体となっていた。
荒い息。血の匂い。
「お?なんだ?逃げるなら逃げろよ」
――瞬間。ゴブリンが叫ぶ。
甲高い、耳を突くような音がフロア中に鳴り響く。壁が震える。
「兄さん早くトドメ――」
――その瞬間。
壁が、歪んだ。
ミシ――
亀裂が走る。
広がる。止まらない。
嫌な音。
空気が、震える。
レイの視界が、わずかに揺れる。
(……来る)
壁が――崩れた。
⸻
ドンッ!!!!
崩壊。
壁が、弾けた。石片が、空を裂く。
砂塵が、爆ぜる。
視界が――白に染まる。
アルマの周辺には、瓦礫が吹き飛ぶ。
「ゲホッゲホッ、てぇ…なんだってんだ」
「兄さん!大丈夫!?」
現れたのは――。
赤黒く詰まった筋肉に巨大な身体。
巨大な二本の角に、巨大な牙。体格は六メートルほどだろうか。
ゆっくりと歩いているだけで、轟音が鳴り響く。地面が震える。床石が軋む。
ゴブリンが、鳴く。助けを求めるように。
媚びるように。
――見上げる。
次の瞬間――
グシャッ。
数秒まで生きていた小鬼は、巨大な棍棒の下敷きになり、肉片となっていた。
ヴゥオオォォォォォォッッッッッ!!!
空気が、裂ける。
壁が、震える。
耳が、壊れる。
鼓膜が、悲鳴を上げる。
これは鳴き声なのか?
あまりの衝撃に、部屋中の壁が震える。ロウソクの炎が横に倒れる。
押される。身体が、のけ反る。
呼吸が、乱れる。
………息が詰まる。
分析するまでもなく、現れた古代生物の正体にレイは気づいていた。
「……大鬼…」
レイの声が、落ちる。
乾く。喉が、重い。
討伐難度……C。
無理だ、まだ、僕には早い…。
いや。
隣に視線を向ける。
⸻
兄さんが笑っている。
⸻
「へへ……ちょうどいい」
歯を見せる。楽しそうに。
狂ったみたいに。
…兄さんと二人なら――。
「兄さん…ちょっと本気出さないと…だね…」
風圧の中心にいる、化け物を見ながらレイが笑う。
――
真実の砂時計の手記より。
徘徊する古代生物や古代兵器の、討伐難度はEからSSSだ。
段階は八段階…。
そんなに段階がないかわりに、一段階でも上がれば…その強さは天と地ほどの差がある。
レガリアを装備した兵団長がいる兵団クラスで、討伐難度Eなら二十人、討伐難度Dともなれば八十人。
討伐難度Cともなれば、騎士長級が必要だ、…BやAともなれば、旅団同士の連合での討伐が必要だ。
駆け出しのシーカーは、熟練のシーカーの同行なしに古代生物や古代兵器と戦ってはいけない。
もし…自分達のレベルに見合わない存在に遭遇したら…。
「戦うな――逃げろ」
静かに、着実に、二人に――死が近づく。
【 大鬼 討伐難度: C 討伐開始 】
次回、古城の主との激突回です。
二人にとって、初めての難敵…。
二人は無事に討伐できるのか。




