12話「 武器屋×伝説級のレガリア」
レガリアとはなんなのか?
驚愕する、アルマのレガリアの秘密。
馬車のバンの中でレイは。大金が入っている袋を見つめながら、一人違和感を感じていた。
揺れるたびに、袋の中で硬い金属同士がぶつかる音が、鈍く、重く響く。現実感を伴って。
キュクロ討伐で二千万……こんな大金…
なぜ…?特別討伐対象だった……?
眉間に、力が入る。無意識に指先にまで力が伝わる。
だめだ…今考えても仕方ないか……
思考を切り離そうとしても、胸の奥に小さな棘のような違和感が残る。
「お〜い!レイ!武器屋にそろそろ着くぞー!」
揺れる馬車。
バンの方へ振り返りながらアルマは言った。
その声に、現実に引き戻される。
馬車の車輪が、黒い鉄の建物の前で止まる。
ギギッ、と重い音。振動が床から伝わる。
二人は視線を上げる。
巨大な看板が目に飛び込む。圧のある存在感。視界を覆う。
【亜巨人兵器庫】
武器販売、防具販売、レガリア販売、各種買取り。
オーダーメイド、レガリアのクラス判定、魂接続解除。ヘイスト公認店。
で、でかい。
これが、本当にお店の大きさなのか!?
分厚い鉄の装甲、これじゃ、まるで…要塞だ。
壁から伝わる重厚な冷気。
アルマは目を輝かせる。瞳に反射する鉄の光。
レイは息を呑む。喉がわずかに鳴る。
「早く行くぞ!レイ!」
「うん」
鼓動がうるさい。胸の奥で強く打ち付ける。
無骨な鉄製の門に付いている輪っか。
呼び鈴を掴み。門を叩く。
激しい金属音が、鳴り響く。耳の奥まで震える。
遠くから足音が近づく。
誰か、来る。
地面が微かに揺れる。重量が伝わる。
ゴゴゴゴッ
扉が開いた。重い空気が押し出される。
目の前――大男が立っている。影が覆いかぶさる。
扉を支える腕。筋肉が膨れ上がっている。皮膚が張り裂けそうなほど。
まるで、丸太のようだ。
大男は茶髪、長い髭を生やし、いかつい顔をしている。
その視線だけで、空気が締まる。
大男は、視線を落とす。ゆっくりと、値踏みするように。
「なぁんだあ?俺たち、アーセナルには似つかわしくなぇお客さんだなぁ…」
低く、太い声が響く。胸の奥に直接落ちてくるような声圧。
「なんだとー!」
「兄さん、すぐ反応しない」
大男は、二人を見下ろしながら話を続けた。
「うちの武器や防具は、そこら辺の武器や防具より遥かにたけぇぞ?金は持ってるのか?」
レイは馬車から、大金の入った袋を取る。
重さが腕に食い込む。現実の重さ。
目の前の大男の前に、置く。
ドンッ。
床がわずかに震える。
「お金ならある」
「ほぉ」
「俺たちは、バイルに言われてきたんだ!最高の武器屋だってな!」
「バイルゥ…?」
大男は、髭に手をやり撫でる。
目を瞑っている。思い出を辿るように。
「あ!バイルって、あの悪ガキ小僧のバイルか!」
バイルを小僧って、バイルもだいぶ老け顔だったけど…この人何歳なんだ…。
レイの視線が大男の顔に釘付けになる。肌の質感、年齢を読めない。
「ドヮハハハハハ!久しぶりに、懐かしい名前を聞いた!俺はハーフジャイアントのサイロだぁ!よろしくなぁ!」
笑うだけで、周囲の風が強くなる気がする。
空気が揺れる。
「お前らが良い奴だってのは分かったぁ、金もあるんだろう?中に入れ」
「おー!ありがとうー!」
馬車の車輪が動き出す。
――門を潜る。
鉄の門と、壁を越える。
空気が変わる。
熱気が一気に体を、吹き抜ける。皮膚に張り付くような熱。
熱い。
汗が頬を伝う。すぐに乾かない。
超特大のドーム型の建物内。中央には特大の溶鉱炉があり、ハーフジャイアント達が囲む。
熱のうねりが視界を歪ませる。
溶鉱炉の上には巨大な筒がある。
外で見た煙突に繋がっているのだろうか?熱気が吸い上げられていく。
激しい金属の衝突音が聞こえる。
鼓膜を叩くリズム。
カァン、カァン。
ハーフジャイアント達が、巨大なハンマーで人間サイズの武器を叩く。
よほど繊細な作業なのだろう。皆、メガネのような物を装着している。
火花が目に刺さるほど眩しい。
炉の中で、鉄が赤く染まる。
熱で空気が揺らぐ。
取り出される。
叩かれる。
火花が散る。
皮膚に刺さるような熱。
何度も。
何度も。
歪みを潰すように。
意思を叩き込むように。
形が生まれる。
そして――
焼き入れ。
ジュッ、と音がした。蒸気が弾ける。
蒸気が上がる。
鉄が、剣になる瞬間だった。
「おぅい!もっと火を入れてくれぇ!」
怒鳴り声が熱気を裂く。炉の炎が一段、唸るように膨らむ。
「できたぞぉ!注文のあった鉄の剣だぁ!」
打ち上がったばかりの刃が、熱を残したまま運ばれていく。赤みの消えきらない金属が、まだ生き物みたいに見えた。
完成した武器。
溶鉱炉のある部屋から、奥の部屋へと運ばれていく。
抱えられた剣も鎧も、人間用なのに十分すぎるほど大きく見える。
ここにいる鍛冶師達の体格のせいだろうか。
手際よく進む工程。
無駄がない。迷いもない。
アルマとレイは見惚れていた。
熱と音と火花の中で、武器が次々と生まれていく。まるで工房全体が一つの生き物みたいだった。
「す、すげぇ!」
「感動する」
思わず口から漏れる。
「で、おめぇらは何を買いにきたんだあ?見たところ、防具を買うのが先決だろうがなぁ」
サイロは、二人の服を見つめる。
ボロボロの布。ほつれた裾。破れた肩。戦ってきた跡が、隠しようもなく残っている。
「うん、僕たちは防具を買いに来たんだ」
「なるほどなぁ」
「かっこいい鎧で頼むぜ!」
「兄さん落ち着いて」
サイロの視線が、アルマの手首に止まる。
一瞬だけ、目の色が変わる。職人の目だ。
「おめぇ、それはレガリアだなぁ?」
「すげぇ!よく気づいたな!いっつも俺の事を見てる、レイくらいしか気づけねぇのに」
「うるさい」
サイロは建物の、奥にある巨大な扉を見つめる。
その視線の先には、他の場所とは明らかに質の違う“扉”があった。
「ついてこい」
巨大な扉。
黒い。なのに、光を奥に秘めている。
鉄…。いや、もっと質量がある。見ているだけで、圧がある。
近づくほど、ただの金属じゃないことが分かる。
「こいつはぁ、古代の神の炎で精錬されたといわれる金属、【神の《アダン》鉱石】で、できている」
「アダンヴェルム?」
「あぁ、鉄や金なんか及ばねぇ、かてぇ金属だ、鍛冶で打てるのはハーフジャイアントの、俺たちしかいねぇ」
門を開ける。
ゴゴゴゴッ
低い唸り。扉そのものが地鳴りを立てているようだ。
建物が揺れる。
足元に伝わる振動が、扉の重さを物語っていた。
中には――
広い。
思わず足を止めるほど。
四角形の広場がある。
天井は吹き抜けだ。
高い。視線を上げても、すぐには全体が掴めない。
広場の端っこ、壁際には…何かの装置…?
鍛冶に似合わない、機械仕掛けの設備がある。
鉄骨のような枠組み、何本もの管、水晶のようなもの、くぼみ、刻まれた紋様。
まるで鍛冶場ではなく、神殿と工房を混ぜたような奇妙な場所だった。
そして、眩しい。
太陽の光を取り込む為か、巨大な窓が屋根になっている。
光が真上から落ち、床に白い四角を作っている。熱と光で、この部屋だけ空気の質が違う。
「ここはなぁ、溶鉱炉の部屋とは別の……レガリアを測る為の部屋だぁ」
「レガリアを、測る?」
「レガリアってのは、その強力な能力のせいか、防具の形をこだわらねぇと、防具が吹き飛んじまう」
サイロはアルマの肩を指差す。
破れた布の端が、ひらひらと揺れている。
「その肩、レガリアの影響で破けたんじゃねぇのか?」
鋭い。
アルマのレガリアの形状を、ある程度予測しているようだ。
これが、ガエリア大陸随一、といわれる。
ヘイスト・アーセナルの鍛冶師…。
ただ鍛えるだけじゃない。見ただけで、武器の性質まで読む。
「どれぇ、レガリアを出してみな、見てやる」
「お、おう!」
――腕に力が入る。
腕が強張る。
拳が、脈打つ。
意識を向けるたびに、手首の奥で何かが熱を持つような感覚がある。
「いでよ!!」
拳が、大気を裂く。
気合いだけは十分だ。
――静寂。
ブレスレットが揺れる。
ただ、それだけ。
何も起きない。
出ない。
「い、いやぁ…実はどうやったら出せるのか分からねぇんだ」
「兄さんのアホ」
どおりで、兄さんは戦いの時にレガリアを出さないわけだ。いや、出せないのか。
レイの視線が冷たくなる。
「ドヮハハハハハ!なんだよそれ!」
「笑うなー!」
笑い涙を、拭いながらサイロは言った。
豪快に笑っているのに、目だけは真剣だった。
「おめぇが、ソイツを拾ったとき、何かの能力を顕現したはずだ、その眠る能力に呼びかけるんだよ、レガリア自体じゃなぇ」
「能力……」
あの時――キュクロ戦。
血と熱と怒り。レイの悲鳴。潰れそうな身体。
全部が、一瞬で脳裏に蘇る。
目を閉じる。
アルマはイメージする。
大気が灼ける。ゆらめく。
弾ける――豪炎。
あの時、自分の腕に宿った“何か”を。
「爆ぜろ」
目を開く。
ブレスレット。
燃え上がる。
赤い火が一瞬で噴き上がり、空気が乾く。
炎は形を成す。
ただ燃えているだけじゃない。
意思を持ったように、腕へとまとわりつく。
荒々しい、炎を模したような装甲。
両腕の肩から手首を、包み込む。
紅と黒が脈を打つように浮かび上がる。
熱い…。
燃えてるようだ。
皮膚の上に金属があるのに、その内側から火が立ち上るような感覚。
ゴゥッッッッッッ
黒い装甲に、脈打つ紅。
炎を纏う。
周囲の光が、その腕だけで赤く染まる。
「で、できた!!」
「すごい…これが兄さんのレガリア」
「ほう、良いなぁ、籠手型武器か、腕の保護にも役立つ」
ふむ、炎の系統かぁ。
攻撃力も兼ね備えてる。良いレガリアだな。
サイロの目が、子供のように輝く。
レガリアの神秘に心躍る。
鍛冶師である前に、一人の“レガリア好き”なのだと分かる顔だった。
「肩が破けちまうんじゃ、鎧はなしだな」
「えーーーーー!」
肩を落とす。
露骨にしょげる。分かりやすい。
「ところでぇ――」
サイロが、ふっと笑う。
その視線は、アルマの腕――爆炎装甲に落ちていた。
さっきまでの陽気さとは、少し違う。知っている者の目だ。
「おめぇら、“形状変化”も知らねぇって事はよ……レガリアの基礎、何も知らねぇんだろ」
「うっ!」
アルマが言葉に詰まる。
図星だった。
「僕はレガリア持ってないし」
レイがぼそっと呟く。
視線を逸らす。ほんの少しだけ、拗ねた声。
気づかれない程度に、でも確かに不満が滲んでいる。
サイロはそれを一瞥して、肩をすくめた。
「まぁいい。だったら叩き込んどけ」
――指が上がる。
爆炎装甲を、コン、と軽く叩いた。
金属音が、澄んで響く。
「レガリアってのはな――
拾っただけじゃ使えねぇ」
――
「“魂の契約”――
【コアエンゲージ】を経て、初めて“持ち主”になる」
空気が、わずかに張り詰める。
さっきまで熱だけだったこの部屋に、別の緊張が混ざる。
「……コアエンゲージ」
レイが小さく復唱する。
初めて聞く言葉を、噛み締めるように。
「だがな」
サイロの声が、少し低くなる。
教えるというより、“警告”の音になる。
「拾ったもん全部がエンゲージできるわけじゃねぇ」
「どういうこと?」
レイが顔を上げる。
瞳が鋭くなる。
サイロは、ゆっくりと指を自分の胸元に当てた。
「コアってのはな――簡単に言や、“魂の容量”だ」
「容量……?」
「生まれた時に上限が決まってる。増えねぇ」
その言葉に、レイの目がわずかに細まる。
“決まっている”という言葉に、引っかかるものがあった。
「そして、レガリア側にも“要求するコア量”がある」
サイロの視線が、再び爆炎装甲に落ちる。
炎が、その目に反射する。
「つまりだ、自分の器よりデカいレガリアは――」
――
「“拒絶される”」
空気が、重く沈む。
その一言だけで、部屋の温度が少し下がった気がした。
「な、ってことは……」
アルマが、自分の腕を見る。
さっきまで誇らしげだった装甲が、急に“危ないもの”に見えてくる。
「俺はあの時……たまたまコイツに認められたってことか」
「そういうこった」
サイロは短く頷く。
そして――少しだけ笑った。
「運が良かったな。普通はそこで死ぬ」
「は?」
「弾かれるだけじゃねぇ。“無理やり繋ごうとした奴は、コアごと壊れる”」
ゾワッ――
背筋に冷たいものが走る。
爆炎装甲から立つ熱とは真逆の冷たさが、レイの背中を這った。
レイが無意識に喉を鳴らした。
アルマも、笑いを引っ込める。
「……気をつける事はまだある」
サイロの声が、さらに落ちる。
「レガリアの力の燃料はコアだ。つまり――魂だ」
「……」
「一日に使える量は決まってる」
「もし、それを超えたら?」
レイの問い。
サイロは、一瞬だけ黙る。
少しの間が、逆に重い。
そして、淡々と答えた。
「死ぬな」
沈黙。
その言葉だけが、妙に長く残る。
爆炎装甲に、視線が集まる。
まるで――それ自体が、息をしているみたいに。
炎が、わずかに脈打ったように見えた。
「……あともう一つ」
サイロが、ふっと笑う。
「たまにある。“外れ”だ」
「外れ?」
「呪われたレガリア――通称【Unknown】」
その言葉の瞬間。
空気が、変わる。
熱気の中に、薄い寒気が混じる。
「使えば使うほど――」
サイロの目が、ほんの少しだけ細くなる。
「レガリアに、侵食される」
――静寂。
「そもそも、どうやってUnknownだの分かるんだよ」
サイロは少し微笑むと、指を後ろに向けた。
ゆっくりと。意味を持たせるように。
「だから、“アレ“があるんだよ」
指の先には――例の装置だ。
光を受けて、水晶が鈍く輝いている。
「あの装置は、国立遺跡研究機関ルインズ・リサーチと共同開発した――“レガリア“のコア出力を測る装置だ」
サイロは設備の方に首を振る。
装置に向かって歩き出す。
足音が、広い部屋に静かに響く。
「レガリアには“クラス“ってもんがある」
装置の前に辿り着く。
水晶、金属枠、くぼみ、管。全部が異様な存在感を放っていた。
「クラスは下からE.上はURまである、Unknownは特殊でエンゲージ方法は不明、クラス判定はできねぇ、だからUnknownなんだ」
機械仕掛けの装置に水晶が付いている。
その横には武器を接続する窪みが見える。
金属の縁には細かい文字が刻まれていた。
「そこで火力を上げてみろ、水晶の色でクラスが分かる」
アルマは爆炎装甲を装置した腕を窪みにはめる。
装甲と装置が接触した瞬間、微かに振動が走る。
「やってみろ」
「おう!燃えろおぉぉぉぉ!!!」
眩い光を放出する。
光は紅く染まり、豪炎が噴き出る。
装置が激しく揺れる。金属の悲鳴みたいな音が鳴る。
「うおぉぉぉぉぉぉ!!」
室内の温度が上昇していく。
皮膚が焼かれるように熱い。
息が、熱を含む。
汗が一気に吹き出す。
上がる。
上がる。
あ…暑い。
汗が吹き出す。
頬、首、背中。服が肌に張りつく。
水晶が光輝く。
内部から、順番に色を生み出していくみたいに。
白色。水色、黄色、緑色、紫色――
色が変わるたび、空気がざわつく。
「まだだ!まだあまだあぁぁぁ!」
赤色――
熱が一段跳ね上がる。
サイロの目が見開く。
体が震える。
ただの驚きじゃない。職人としての本能が、何かを察している。
「な、なんて…こった…」
銀色――
装置が激しく軋む。限界を訴えるように。
ゴワァッッッッッ
――金色。
爆風が、辺りを包む。
髪が逆立つ。服がはためく。
光が、広間全部を塗り潰した。
建物が、震える。
床が鳴る。窓が軋む。
サイロは、動かない。
目だけが、装置に釘付けになっていた。
こ、こいつは…金色…クラス…え……“SS“
そんなバカな――
数百年に一度の代物…だぞ…。
そもそも、SSなんて…見つけたって、エンゲージなんて普通の人間ができるわけねぇ。
や、やべぇ…SSっていえば…それだけで。
歴史的発見…伝説…。その力を引き出せば…。
森羅万象にまで、影響を与える可能性がある…。
世界で確認されているクラスSSのレガリアは一つ…世界連合騎士団リーダー、世界最強の男――【水神】の騎士王アベルが所持している…。
コ、コイツは秘密にしとかねぇと…
――世界大戦にすら起こりうる!!
暴れる爆炎を纏いし。
アルマのレガリア【爆炎装甲バースト・アームズ】
世界を、破壊できる程の力が眠る。
まだ眠っている。だが、それでも十分すぎるほど危険だ。
今はまだ知らない。
アルマは、このレガリアに。
導かれていたことを。
拾ったのではなく、拾わされたのかもしれないと――誰もまだ知らない。
――アーセナルの入り口前
ザッ。
靴が、地面を擦る。
不穏な気配が、忍び寄る。
熱気の外側から、じわじわと。
影が。
アーセナルの門の前に伸びる。
夕陽でもないのに、黒く濃い。
「小僧ども……殺してやるぅ……」
低い怨嗟が、門前の空気を汚した。
とうとう、次回。防具を買います。
しかし、二人に忍び寄る不穏な影とは、一体。




