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衣装


「焼け死ね」


 右腕が伸び、それが獣の頭部に変わる。

 大きく開かれた口腔から放たれるのは視界を埋め尽くすほどの火炎。

 熱波に頬を撫でられると共に、こちらも音魔法で対抗する。


「海鳴」


 音を奏でて水を操り、槍のように鋭く放って火炎を貫く。

 水の穂先はそのまま人魔を狙うが寸前のところで躱されてしまう。


「チッ」


 舌打ちが合図であるかのように、今度は左腕が別の獣になる。

 稲妻を纏うそれが牙を打ち鳴らすと閃光が拡散し、雷撃が駆ける。


地鳴じなり


 左腕の獣が稲妻を纏った時点で水を掻き消し、砂塵を操る。

 四方に砂塵の渦を作り、固めて避雷針に。

 放たれた雷撃はそちらにそれて、攻撃は俺まで届かない。


「貴様ッ、音一つでどれだけッ」

「こっちの台詞だ、それは」


 体一つで色々としてくる奴に言われたくない。

 避雷針を浮かせ、吹き矢のように放つ。


「くッ」


 壁を駆けた人魔を追って次々に避雷針が壁に突き刺さる。

 最後の一本を撃ち尽くしたところで、絨毯の上に降りた人魔。

 今度は腹部を口に変え、身が折れるほど大口を開く。

 そこからなる攻撃は、パーティー会場全体を振るわせるような咆哮。

 テーブルの上に置かれたグラスは共振破壊によって砕け散り、この場にいるすべての者の鼓膜が破られたことだろう。

 俺が逆位相の音で掻き消さなければ。


「な、なぜだ。話が違う」


 うろたえる人魔が口を滑らせる。


「話?」


 口を噤む様子を見るに、なにか裏がある。


「いったい誰から俺の話を聞いた?」

「黙って死ねッ」


 両足が肥大化し、驚異的な瞬発力で跳ねる。

 等身大の弾丸のように弾き出された人魔を迎え撃つため、刀を薙いで虚空を斬る。

 風切り音に炎鳴を重ね、音撃に火を灯す。

 鋭い火炎の刃となったそれが馳せ、腹の大口を開いた人魔を断つ。


「がぁっ!?」


 下方から斜めに切り上げられたかのように、人魔は両腕と半身を焼き切られる。

 上半分だけとなって勢いを失い、高級そうな絨毯を血で汚した。


「まだ生きてるだろ」


 近づいて確かめなくても音でわかる。


「答えろ、誰から俺の話を聞いた? 言えば楽に殺してやる」

「はっ、ははっ! どうせ詰んでるなら道連れだ」


 そう人魔が吐き捨てると、周囲に無数の魔法陣が展開される。

 最後の力を振り絞って、限界まで魔法の出力を上げたのか。

 これだけの数から一斉に魔物が召喚されたら犠牲者が出る。

 情報を聞き出すのは無理か。


「そうかよ」


 刀を逆手に持ち替え、人魔の心臓を貫く。

 短い断末魔の叫びと共に、命の音が消えた。

 きっさきを引き抜くと、周囲の魔法陣が砕け散り、召喚がキャンセルされる。

 重要なことはなにも聞き出せなかったが、とにかくこれで連続殺人は止まった。


「ラストショーット!」


 眉間が撃ち抜かれ、召喚された最後の魔物が息絶える。

 絢爛なパーティー会場は、死屍累々となって血で赤く汚された。

 この赤に人間の血が混じっていないことだけが幸いだ。


「お、シオンのほうも終わってんじゃーん」

「お疲れ様です。無事に討伐できたみたいですね

「あぁ、楽勝だった。肝心なことは聞き出せなかったけどな」


 振り返って人魔の死体に目を向ける。

 人に化け、人語を解する人魔。

 中々どうして謎めいた存在だ。


「シオン」


 フォンに呼ばれて振り向くと、親指で自警団の人達を指差していた。

 彼らは死体の山を避けてこちらにくる。


「終わったんだな」

「えぇ、これで連続殺人は止まります」

「よくやってくれた。事件が解決したのはキミ達が来てくれたお陰だ。感謝する。そして昨日の無礼を詫びさせてくれ。すまなかった」


 キルトさんは深々と頭を下げ、自警団の人達もそれに続く。


「いいんです。わかってくれれば。な、フォン」

「あぁ。それに……あの時は俺も悪かった」

「そうか、そう言ってくれるか」


 キルトさんはどこか救われたような表情をしていた。


「また同じことが起きないよう、騎士団に協力を仰ごう。いい加減、この街にも支部が必要だ」


 自警団とのわだかまりも、これで解消する兆しが見えた。

 あとは上手くいくことを願おう。


§


 レッカーサーの一角にある小さなダンスホールにて。


「ど、どうでしょうか?」


 ユキは着そびれていた赤いドレスを身に纏っていた。


「よく似合ってる」

「えへへ、よかったです。でも、まさか着れるとは思いませんでしたよ」

「着たそうにしてたから、所長さんにお願いしたんだ」


 快く引き受けてくれて、場所も用意してくれた。


「次の魔導列車が出るまでまだすこしあるから、一曲どうだ?」

「是非。ダンスは未経験ですが」

「俺もだよ。ほら」


 手を取り、音魔法でパーティー会場に流れていた音楽を再現する。

 最初はぎこちなく身を揺らすだけ、すこし慣れてくると大きく動き、見よう見まねでダンスを踊る。

 とても人に見せることの出来ないような不格好なダンス。

 それでも踊っている間はとても楽しかった。

 ユキも同じ気持ちだと嬉しい。


「シオンさん」

「ん?」

「ありがとうございます」

「どう致しまして」


 それから時間が許す限り、俺たちは踊り続けた。

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