会場
「パーティーねぇ。浮かれすぎてねぇか? 所長さん。まだ人魔を討伐してもいねぇのに」
「初めて成果らしい成果が出たんだ、浮かれるのもしようがないけど」
「おー、見てください。豪華な飾りに煌びやかな衣装。素敵です」
「なにあれ、美味しそう。食べていいかな? いいよね。いただきまーす」
ここはレッカーサーの一角にあるパーティー会場。
俺たちは所長主催のパーティーに呼ばれ、ここに足を踏み入れた。
周囲の人達はドレスコードを身に纏い、連続殺人の暗い雰囲気を掻き消すようにダンスや食事を楽しんでいる。
俺たちにもドレスコードが用意されていたが、有事の際に備えて戦闘服のままで参加させて貰うことにした。
同じくこのパーティーに参加している自警団の人達も無骨な装備に身を包んでいる。
ユキはすこし残念そうだったけど、こればかりはしようがない。
「騎士団の皆様、楽しんでおられますかな?」
「所長さん」
イリーナに続いて食事を楽しんでいると所長さんがやってくる。
「いいんですか? こんなに浮かれて」
「えぇ、いいんです。ようやく明るいニュースが入ってきたんですから。盛大に盛り上げて活気を取り戻さないと。それにあなた方にも英気を養って貰わないといけませんから」
「そうですか。そういうことなら、まぁ」
いいのかな。
人魔の活動は夜に限られているから、安全と言えば安全だけど。
下手したら不謹慎と思われそうだ。
「ん?」
ふと、音が聞こえた。
「――所長さん、所長さん。これなんて料理か知ってます?」
後ろからイリーナが出てきて皿を差し出す。
「おお、それは郷土料理のフラメンですね。そこのキミ」
所長さんに呼ばれて近くを通りかかったシェフの一人がこちらにくる。
「騎士団の皆さんに料理の説明を」
「はい。そのフラメンは――」
シェフが料理の説明をイリーナにしている間、ユキの側に寄る。
「ユキ。いま戦闘になったとして、この場にいる人全員を守れるか?」
「シオンさん? ……そうですね、少々時間が掛かりますが出来ますよ」
「よかった。なら準備しておいてくれ」
「なにかあるんですね? わかりました」
詳しい話をしなくても、ユキはわかってくれた。
それをありがたく思いつつ、次にイリーナとフォンに合流する。
「へー、魚をそんな風に料理するんですねぇ」
「郷土料理って独特だな」
「所長さんの好物はどれなんですか?」
会話に参加して適当な話題を振る。
「私? そうですね、私はこれに目がなくてですね」
手に取ったのは鉄板の上で音を立てるガーリックステーキ。
絶妙な焼き加減で、良い匂いが漂う。
「ついつい食べ過ぎてしまって妻や娘に怒られてしまうんですよ」
「たしかに良い匂いがしますね。ちなみにあなたのおすすめはなんですか?」
所長さんからシェフのほうへと視線を向ける。
「おすすめ、というより自信作という点では、やはりこちらのスープでしょう。選りすぐりの食材を使い、数時間煮込んで出来た傑作ですよ」
「へぇ、それは美味しそうですね」
「えぇ、とても。これを口にしたらほかのスープは食べられなくなるでしょう」
「なるほど。一応、これを食べる前に材料について確認して起きたいんですが」
「あぁ、なにかアレルギーが?」
「というより好き嫌いというか、生理的に受け付けないというか」
ちらりとユキを見て、目と目で通じ合う。
「それはどんな食材なんですか?」
「人の肉ですよ」
瞬間、シェフの顔から表情が失せる。
所長さんは口をあんぐりと開け、フォンとイリーナがフォークを置いた。
「昨夜、あんたを追跡するために必死で音を憶えたんだ。いまあんたから昨日と同じ音がする。まさか人間に化けられるとはな」
「……馬鹿か、貴様。この場にいったい何人人間がいると思う」
シェフが衣服を脱ぎ捨て、人魔の姿へと変貌する。
展開される無数の魔法陣。それはら一斉に起動し召喚の準備を整えた。
「な、なんてことだ! そんな!」
「ま、魔物よ! 人が魔物になったわ!」
それを見た周囲の人々から悲鳴が上がり、壁や天井から魔物が這い出てくる。
「ユキ!」
「はい!」
合図を送ってすぐに準備していたユキの魔法が起動する。
人々の足下に魔法陣が現れたかと思うと、次の瞬間には光を放って転移が完了する。
魔法陣の上に乗っていた人々はすべて何処かへと送られ、残ったのは俺たちと自警団の人達のみ。
「建物の外に転移させました。これで犠牲者は出ませんよ」
「ありがとう、ユキ。これで心置きなく戦える」
刀を抜き、人魔へと突きつける。
「ちょっとちょっと、気付いてたなら教えてくれたっていーじゃん」
イリーナが二丁の拳銃を構える。
「そうだぜ。二人だけで事を進めちまってよ」
フォンが拳を硬質化させる。
「悪い。ついさっき気付いたからさ」
まさかこんなところで人魔に会うとは思わなかった。
「よくもやってくれたな。貴様らのせいで台無しだ。ようやく信頼を勝ち取ったというのに」
「その状態でも話せるんだな」
通常の人魔は人の姿に近いというだけで人語は話せない。
流暢に喋れるのはそれだけ知能が高いという証拠。
こいつはほかとは何かが違う。
「どうやって知性を得た? 人を食うとそうなるのか?」
「答えると思うのか? これから眷属の餌となる貴様如きに!」
一軍を指揮するかのように、人魔は魔物たちを操った。
波のように大量の魔物が押し寄せ、こちらへと襲いかかる。
「どうせあいつ逃げる気だよ!」
「シオン! 昨日と同じだ! お前がやれ!」
「あぁ!」
昨夜の再現をするように駆け、刀と音撃で魔物の群れへと突っ込む。
しかし、昨日とは数が段違いに多い。
道を切り開くには時間が掛かった。
「騎士団にばかりいい顔させるな! 自警団の意地を見せろ!」
奮戦する中、強力な援護を受ける。
雄叫びを上げた騎士団が数に物を言わせて魔物の群れを強行突破。
彼らの後に道が出来た。
「行け!」
「はい!」
出来上がった道を維持するために自警団は奮戦し、彼らの最中を突っ切って人魔を追う。
群れを抜けた先で人魔は予想通りに逃げていて、すでに窓際まで進んでいる。
あとは突き破って外へと逃れるだけ。
人魔は絨毯を蹴って窓へと飛びこんだ。
だが、人魔は窓際に弾かれて二の足を踏む。
「なに!?」
「ふふーん。逃がしませんよー」
パーティー会場はすでにユキの結界で出入りが不可になっていた。
爪で貫こうとしても蹴破ろうとしても弾かれる。
何度か繰り返せば突破できるかも知れないが、俺がそれを許すわけない。
「タイマン勝負だ。今度は逃げるなよ」
「人間がッ!」
振り下ろした刀を人魔は爪で受け止める。
追加でくる音撃を躱して距離を取り、睨み合った。




