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水都


「ふぁ」

「なんだ、寝不足か?」

「あぁちょっとな」


 魔導列車に揺られることしばらく、俺たちは水の都レッカーサーへと向かっていた。


「しかし、人魔が連続殺人とはな。それも被害者は女ばっかりと来た」

「まるで切り裂きジャックですね」

「切り裂きジャック?」

「大昔、とある国で起こった連続殺人事件です。その被害者も女性ばかりでしたので」

「もの知りだねぇ、ユキちゃんは」

「そう聞くとなんか人間くせぇな、この人魔」


 俺もどことなく、普通とは違う気がする。


「大抵の人魔は人をガッと襲って、パッと討伐されるからねぇ。連続殺人って表現は中々されなくて新鮮だなぁ。不謹慎だけど」


 妙な事件だ。


「犯行は決まって夜だ。女を殺すことにこだわりがあって、襲撃されたカップルの男ほうだけが生き残ったらしい」

「被害者はいずれも残忍な方法で殺されている、か。写真がついてるけど閲覧注意って書かれてるな」


 何の気なしに資料に挟まっていた写真を手にとって裏返す。


「うわ」


 すぐにまた裏返して、資料に押しつけた。


「そんなヤバいの?」

「仕事がらこう言うのには慣れてるけど、強烈だよ。子供なら成人するまで寝小便が続く」

「じゃあ、あたしは止めとこ」

「それがいい」


 写真ごと次のページを捲る。


「手がかりはこの写真だけのようですね。かなりぶれていますけど」

「ぼやけてもいるけど、まぁ人魔で間違いはなさそうだ」

「ここ最近、なにかと人魔の相手してるな、俺ら」

「人魔と言えばさ。あの骨笛のこと、エルレルさんなにか言ってた?」

「いや、まだ何も。心当たりがありそうな顔してたけど、どうなんだろうな」

「ふーん。そっか」


 まだ何もわかっていないのが現状だ。


「お、見えて来たぜ」


 窓越しに見えたのは、水の都レッカーサーを俯瞰した光景。

 迷路のように張り巡らされた水路が窺え、水の都の称号に相応しい構造をしていた。


「移動とか大変そうだな」

「ロマンがないねぇ、フォンくんは」

「くん付けするな」


 魔導列車は停止し、駅へと到着する。

 忘れ物の確認をして座席を立ち、俺たちはレッカーサーに降り立った。


§


 水の都レッカーサーは、その名が現すとおり豊富な水と共にある街だ。

 街のいたる所に水路が張り巡らされ、移動手段には船が用いられる。

 水路沿いには出店が多数でており、船の上からでも買い物が可能。

 その景観は美しいの一言につき、一生に一度は訪れるべきと言われるほどだ。

 実際に訪れてみると、どこにカメラを向けても絵になってしまうほど綺麗だった。


「魔導列車が駅につくたび、どっと観光客が降りてくんだってさ」

「ですが、駅で降りたのは少なかったですね」

「まぁ、連続殺人が起きればな」


 俺たちが下車した時も、降りる人より乗る人のほうが多かった。

 街並みは綺麗に映るが、人の往来は少なく寂れた印象を受ける。

 水路を埋め尽くさんばかりに船が通っていると聞いたが実際は数えるほど。

 連続殺人は人命にとってもレッカーサーにとっても致命傷のようだった。


「そりゃこの街には支部がないんだ。不安にもなるだろうよ」

「どうしてレッカーサーには支部がないんですか?」

「それはねー。騎士団の支部って色々と決まり事が多いんだけど、その一つに引っかかっちゃったからなんだよ」

「ほうほう。それはなんでしょう? うーん」


 思案するようにユキは小首を傾げた。


「正解は支部の規格だよーん」

「規格、ですか?」

「そ。支部を建てる時って規格通りにきっちり建てるんだよ。面積はこのくらいで、間取りはこうってね。で、問題なのが外観のデザインなんだけど」

「なるほど、つまり騎士団の支部を建ててしまうと、レッカーサーの景観を壊してしまうから、ですね。この街は景観の美しさに重きを置いているようですし」


 ユキは駅で貰ったパンフレットに目を落とした。


「その通り」

「それで人魔に好き放題されてりゃ世話ないけどな」


 一応、お互いに歩み寄ろうとはしていたみたいだけれど。

 どこかのタイミングで話が拗れて、結局この街に騎士団の支部が建つことはなかった。

 それが尾を引き、今の連続殺人に繋がっている。

 騎士団の支部があれば、犠牲者は最小限に抑えられたかも知れないのに。

 まぁ、レッカーサーにも事情があるんだろう。

 そんな風に話していると、水路に道を遮られる。

 渡るための船は、観光客の減少からかすぐに乗れた。

 船は三人の乗りの小さなもので、船頭が操るので乗れるのは実質二人だ。


「おっと揺れるな。ユキ」

「ありがとうございます」


 ユキの手を取り、船へと乗せる。


「シオンシオン、あたしは?」

「別の船だろ。フォンにしてもらえ」

「手首折れちゃうよ」

「人のことなんだと思ってんだ、てめぇ」


 結局ひょいひょいと軽い身のこなしで、イリーナは船に乗った。

 それから優雅で短い船旅を終えて対岸へと渡る。


「ふー。観光ならいいけど、急いでるときとか滅茶苦茶煩わしそう」

「その時のために急行船があるみたいですよ。少々お高いですけど」

「普通のは無料なのに。流石は観光地」

「船酔いする奴には地獄だぜ、この街」


 美しい景観の裏に、街の目論見を垣間見つつ役所へと向かった。


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