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復活


 イリーナが位置につくと、スナイパーライフルが構えられ、照準が人魔に合う。

 狙いを定め、息を止め、引き金に掛けられた指に力が入る。

 瞬間、鳴り響いた銃声が笛の音色を制圧し、見事に人魔の眉間を撃ち抜いた。

 血を流し、力なく倒れ伏す人魔。

 音色は鳴り止み、手元から笛がこぼれ落ちる。


「なんだよ、もう終わりか?」


 呆気のない幕引きにすこし戸惑いを見せるフォン。

 一緒につつも人混みを抜けて人魔の側に寄った。


「折角なら暴れたかったぜ。ほら、シオン」

「あぁ」


 投げられた骨笛を受け取り、ユキに貰ったハンカチで浄化する。

 すると直ぐに薄汚れて黄ばんでいた笛が綺麗になった。

 これなら安心して吹けそうだ。


「どう吹けば正気に戻るのでしょうか?」

「うーん……あぁ、だいたいわかった」

「わかった? ホントか?」

「あぁ、手に持ってすぐ、なんとなくな。笛も音に関する楽器だし、音魔法のお陰かもな」

「便利なもんだな、音魔法」

「では、これで事件は解決ですね」

「あぁ、さっそく吹いてみよう」


 みんなを元に戻そうと口元に骨笛を持っていく。

 だが、吹き始める前に銃声が鳴り響いた。

 即座に振り返ると人魔の死体、その心臓が撃ち抜かれていた。

 続けざまに銃声が鳴り、四肢の関節が撃ち抜かれる。


「なにしてんだ? あいつ」

「死体撃ち……するようなタイプじゃない」


 死体を撃ったのは、撃つ必要があったから。

 つまり。


「まだ死んでない」


 その結論に行き着いたところで死体に異変が起こる。

 側の壺から魔力が溢れたかと思うと、撃ち抜かれた患部へと入り込む。

 魔力が肉体を補うように修復し、ゆらりと人魔が立ち上がる。

 最後に眉間の弾痕が塞がり、完全復活を遂げた。


「シオン! 正気に戻せ!」

「あぁ!」


 フォンが駆け出すのを受けて、骨笛を唇に当てる。

 息を注ぎ、透き通った音色が鳴り響く。

 操られていた人々の中からまず支部の人間だけを正気に戻した。


「あれ……なんだ?」

「どこだ、ここ……」

「みんな何して……」

「聞いてくれ! 手短に話す!」


 戸惑う支部の人達に大声を張り上げる。


「この場にいる全員、人魔に操られてる! 俺が正気に戻すから避難させてくれ! いいな!」

「え、あ……あぁ! わかった!」


 虚ろな表情を浮かべた人々、広場で暴れる人魔、俺の呼びかけ。

 それらを見聞きし、騎士団の一員足る支部の人達は己のなすべきことを理解する。


「やってくれ!」


 再び骨笛で演奏し、今度は全員の正気を取り戻す。

 人々の顔に正規が戻り、同時に混乱が広がった。


「な、なんだよ、これ!」

「俺たちどうしちまったんだ?」

「なんでこんなところに!?」

「ま、魔物よ! 魔物がいるわ!」


 あっという間に混乱は伝播する。

 しかし。


「聞いてください! 魔物は騎士団で対処します! みなさんは我々に従って避難してください!」


 支部の人達が混乱の波を押さえつけた。

 日頃から交流し、顔も名前も知った仲である彼らにしか出来ないこと。

 馴染みの騎士団がこう言えば、人々は従ってくれる。

 それはグリムファーロンでも同じだった。

 混乱は最小限に止まり、誘導されて避難が始まった。


「よし、あとは」


 逃げて行く人達から人前を視線を移すと、フォンの拳が炸裂していた。

 重い殴打の連撃が人魔の骨を砕き、すこしでも距離が離れればすかさずイリーナの狙撃が来る。

 普通ならすでに死んでいるような負傷を追いながらも、人魔は身を再生させながら戦い続けていた。

 攻撃し続けても壺から出る魔力をどうにかしないと埒があかない。

 と、イリーナも考えていたのか、壺が弾丸で撃ち抜かれる。

 派手な音を立てて破片が散る。

 これでもう再生できないと思ったが、次の瞬間には時間が巻き戻ったかのように修復されてしまう。


「それなら」


 音魔法で壺を揺らして共振破壊を引き起こし、粉々に打ち砕く。

 けれど、やはりと言うべきか、壺は修復されてしまった。


「駄目か」


 それどころか、壺から大量の蛇が湧き出してくる。

 側にいるフォンは足を硬質化させているから問題ないが。


「町に広がったら不味い」


 炎鳴で全部焼き切れるか?


「私が道を塞ぎます」


 ユキが唱えるのは、名のある魔法。

 名無しとは異なり、強力な威力を誇る。


火をつけて(レッド・ゾーン)


 唱えられた魔法は威力を発揮し、広間を囲うように火炎が走る。

 闇夜を照らす赤い炎は溢れ出た蛇の行き先を制限し、この広場に止めた。


「助かった」


 行き場を無くしてこちらに押し寄せるそれを炎鳴で焼き払う。

 ここまではどうにか対応出来ている。

 けれど、肝心の人魔をどうにかしないことには始まらない。


「シオン! こいつ、死ぬたびに強くなってやがるぞ!」

「なんだと!?」


 下方から突き上げた拳が人魔の顎を捉えて撃ち抜かれる。

 その衝撃で宙を舞ったところへ、追い打ちを掛けるように鉛玉が浴びせられる。

 身に幾つもの弾痕を残して地面に叩き付けられた人魔は、それでもゆらりと立ち上がる。

 その体格は先ほどよりも一回りほど大きくなっているように見える。

 このまま殺し続けても同じ事の繰り返しどころか、人魔は更に強くなってしまう。


「壺は壊しても元に戻る……」


 近づいてくる蛇の群れを焼き払いつつ思案する。

 あの壺には恐らく町の人々全員の魔力が蓄積されている。

 傷の再生に魔力が使われているならいずれ尽きるはずだけど。

 あの人魔はいつからこの骨笛で町を乗っ取っていた?


「笛? そうか」


 再び笛を構えて音を奏でる。

 音色は広場に響き渡り、壺から溢れ出る魔力に干渉する。

 人魔の患部へと注がれていた流れを断ち切り、溢れ出た蛇の行動さえも制御する。

 魔力の供給源はこれで断てた、再生はもう出来ない。


「シャアァアァアアアアアアア!」

「いかせるかよッ」


 笛の音で魔力の流れを妨害され、人魔は標的を俺へと切り替えた。

 フォンの鋼の拳を身に受けながらも、こちらに狙いを済ませて口から何かを飛ばす。

 禍々しい色合いをしたその粘液は恐らく、毒。

 弾丸のような速度で飛んだそれは、しかしユキが張ってくれた結界によって遮られる。


「させませんよ」


 更に骨笛を吹き、魔力を完全に壺の中に封じ込める。

 周辺を這っていた蛇たちも魔力に還元されて跡形もなく掻き消えた。

 残すは人魔のみ。


「終わりだ、蛇女ッ!」


 地面から突き上げられた鉄の爪が人魔を貫く。

 腹部に致命傷を負い、血を吐いた人魔はそれでも毒液を吐こうとしたが。


「あらよっと」


 スナイパーライフルを構えたまま宙を舞ったイリーナに銃口を向けられ、真っ直ぐに落ちた弾丸が頭蓋を射貫く。

 これによって人魔はとうとう命を落とし、その側でイリーナが華麗に着地を決めた。


「跳んだ意味あったか?」

「こっちのほうが格好いいじゃん」

「まぁな」


 二人が人魔にとどめを刺し、勝敗が決する。

 骨笛を吹く理由もなくなり、そっと唇から話した。


「ふー……どうにかなったな」

「お疲れさまでした」


 それぞれと勝利のハイタッチを交わして壺を覗き込む。

 中に蛇はおらず、ただ白井霞のような魔力だけが漂っていた。


「どうする? これ」

「この笛と一緒に本部に持って帰るか?」

「でも、壺自体は特別なものではなさそうですね。普通のものです」

「なら壊しちまおうぜ。もともと中の魔力はこの町のもんなんだし」


 そう言ってフォンは硬質化させた指を弾いて壺を割る。

 ぱりんと音を立てて真っ二つに割れ、中に漂っていた魔力が開放される。

 それはすぐに大気に馴染み、この町へと還元された。


「じゃあ、万事解決かな?」

「みたいだな」


 人魔を倒し、人々を操っていた骨笛は手元にある。

 もうこの町に脅威はない。


「おーい、避難は完了したぞ!」

「応援に来た! って……もしかして終わった?」


 支部の人達も駆けつけ、今回の事件は幕を引く。

 街の人々や支部の騎士から沢山の礼の言葉に送られ、夜明けの魔導列車で帰路につく。

 出発時刻との兼ね合いもあって、すこししか眠れなかったからか、イリーナとフォンは早々に瞼を閉じてしまった。


「なぁ、ユキ」

「はい、なんでしょう?」


 対面に座るユキの目を見る。


「嫌だった? 間接キス」

「むぅ……いじわるしないでください」

「わかったよ。もう言わない」


 俺も眠気が来たのですこし眠ろう。

 そう瞼を閉じると。


「……嫌でしたよ。ちょっとだけ」


 そう聞こえた。


「そっか」


 瞼を開くことなく返事をして、そのまま良い気分で眠りについた。

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