間接
「なるほど、ずっと聞こえてる笛の音で可笑しくなっちゃってた訳か」
「でも、なんで今は平気なんだ?」
「今は音魔法で笛の音を歪めてるからだよ。逆位相で相殺するより、こっちのほうが楽だからな」
労力が少なくて済む。
「私の魔法では解くことは出来ても防げるのは自分だけなので助かりました」
「助かったのはこっちだ。ユキがいなけりゃ俺が二人を伸さなきゃならなかった」
「あたしどんな風だった?」
「虚ろな感じで、操られてるみたいでしたよ。銃の照準もあまり定まっていませんでした」
「なら俺は?」
「ユキが言ってたのと大体同じ。ちなみに窓と扉を壊したのはフォンだ」
「無差別パンチマンじゃん」
「人のこと言えねぇだろ、乱射女」
とりあえず、俺たちは無事だ。
「外の様子を見るに支部の人達も操られてるな」
窓の外に見慣れた戦闘服が見える。
「シオンさんが無事だったのは音魔法のお陰で、私には元から防衛魔法が掛かっていましたから、ほかの人は為す術がありませんね」
「連絡が途絶えたのも操られてたからって考えた方がいいかもな」
「昼間はみんな正気に見えたけど」
「笛の音を掻き消してもフォンは操られたままだった。昼間は正気に見えていたけど、実は操られていたままだったのかもな」
「いずれにせよ、この事態をどうにかしないと行けませんね」
対抗策を練らないと。
「何者かに町が乗っ取られてる。犯人は俺たちみたいな魔法使いか、ユキみたいな魔女、あるいは人魔。乗っ取った理由は定かじゃないけど、いずれにせよ危険な奴だ」
「シオンさん。音魔法で笛の音を無効化できる範囲はどのくらいでしょうか?」
「そうだな……何もしてなければ町一つは余裕だけど、戦闘の最中だとざっと半径五十メートルってところか」
「なら、支部の連中にはしばらく操られたままでいてもらうか。それくらいだと数が増えても返って邪魔になる。俺たちだけでやるしかなさそうだぜ、こりゃ」
「問題はどう犯人を捜すかだけど……たぶん、この人の流れの先にいるっぽいよねぇ」
操られた人々は、みんな一様に同じ方向へと歩いている。
誰もが虚ろな表情をしていることもあって、さながらゾンビの行進のようだった。
ホラーが苦手なハルバさんならどう言うだろう?
「じゃあ、やることは決まったな」
フォンは手の平で拳を受け止める。
「操られた振りして紛れ込めばいい」
§
「ねぇ、上手くいくと思う? あたしら二人に襲いかかったんだよ? 外に出た途端に襲われない?」
「硝子が割れても銃声がしても、ほかの人達は見向きもしなかったから大丈夫だとは思うけど」
「何があってもいいようにしないといけませんね」
「ほら、行くぞ」
フォンが先導する形で俺たちはもぬけの殻になった宿屋から外に出る。
襲われないかと身構えたが、とうの人々はこちらに目もくれない。
ただ一定方向を向いて歩いているだけで襲ってくる様子はなかった。
「ほらな? 行こうぜ」
「どや顔腹立つー」
イリーナがフォンに続き、俺たちも足を進める。
人々に紛れ、流れに身を任せて足を進めていくと、終着点が見えてくる。
町の中央にある広場。そこを目指して人は移動していた。
「あそこに何があるんだ?」
「前に出て見ましょう」
人を掻き分けるようにして進み、最前列に割り込む。
そうして見えたのは笛を吹く一人の人魔だった。
半身は蛇の如く足はなく、鱗に覆われている。
上半身は濡れ髪の女のようで、鋭利な爪の生えた指で器用に演奏している。
笛は骨に穴を空けたもので飾り気はなく不気味で、それとは対照的に美しい音色を響かせていた。
「突っ込むか?」
「待て待て、周りに人が多すぎる。慎重に行こう」
躍り出ようとしたフォンの肩を押さえ、周囲の状況を把握する。
小さな町だから人口は都会よりはずっと少ないが、一所に集まると手に負えない。
「笛を壊せばみんな元に戻るか?」
「いやー、駄目かもしんないよ。音消しても操られたままなんだし」
「なら奪うしかないな。で、シオンが吹けばいい」
「俺が?」
「音使いだろ」
「そうだけどさぁ」
「シオンも魔物と間接キスはいやかね」
「正直言えばな、なんか変な病気が移るかも。でも、まぁ、そうも言ってられないか」
なんとかしてあの骨の笛を奪わないと。
「……シオンさん、これを」
「ハンカチ?」
「浄化の魔法を掛けてありますから、吹く前に拭いてください。これで間接キスにはなりませんよ」
「マジか、ありがたい」
これで変な病気に罹るリスクを負わなくて済む。
「おやおや、間接キスが嫌なのはユキちゃんのほうだったかー」
「え?」
ユキを見ると顔を背けられた。
「準備できたか? 作戦は?」
「あ、あぁ。なんとかして笛を奪って皆を正気に戻す」
「あたしがヘッショすれば全部解決ってことにならない?」
「それで終われば一番いいけど」
笛の音色が変わる。
美しい音色からおどろおどろしい音へ。
音色が変われば、操られていた人々への影響も変わる。
歩くのを止めて棒立ちになった人々から、魔力が抜き出されていく。
白い靄のような魔力は音色に乗って一カ所に集まり、人魔の側にある壺に吸い込まれている。
魔力を奪うのが、人魔の目的か。
「イリーナ」
「りょうかーい。あの家の天辺ね」
返事をしてイリーナは狙撃場所へと向かう。
「狙撃が失敗したらフォンが突っ込んでくれ。援護する」
「オッケ。任せとけ、そういうのは得意だ」
「ユキは魔法でみんなを守ってくれ」
「はい。任せてください」
役割を決め、時を待つ。




