第八話 郊外のカフェ
車がコンビニを出て、しばらく経った。
義隆は運転に集中している。
梓は助手席で、膝の上に置いた小さなコンビニ袋を見つめていた。
「…………」
中身は、のど飴。
それから――コンドーム。
買ったときのことを思い出す。
レジに持っていくときも恥ずかしかった。
会計をしている間も恥ずかしかった。
店員に何と思われたのか気になって、顔を上げられなかった。
そして今。
「……私、何で買ったんだろ」
小さく呟く。
もちろん、使うつもりだったわけではない。
ただ――。
五年ぶりに義隆と会って。
昔好きだった気持ちが戻ってきて。
今日が二人きりのデートで。
もしかしたら、何か特別なことが起こるかもしれない。
そんな可能性を、ほんの少しだけ考えてしまった。
「…………」
梓は窓の外を見る。
車は郊外へ向かう道を、滑らかに走っていた。
「……期待してるみたいじゃん」
自分で言って、耳まで熱くなる。
しかも、まだ二人は付き合ってすらいない。
キスどころか、手もつないでいない。
「……早すぎるよ」
袋をそっとバッグの中へ押し込む。
すると。
「梓?」
「ひゃっ!」
突然、義隆に呼ばれて飛び上がる。
「な、何?」
「さっきから静かだけど、眠い?」
「違う!」
「そう?」
「……ちょっと考え事してただけ」
「そっか」
義隆はそれ以上聞かなかった。
梓はほっとする。
――危なかった。
もし今、
「何買ったの?」
なんて聞かれたら。
絶対に答えられない。
梓はバッグの中をちらりと見る。
「…………」
そして思う。
別に悪いことをしたわけじゃない。
二十二歳の大人なのだから、そういうことを考えたっておかしくない。
ただ。
「……義くんと、そうなれたらいいな」
その気持ちが、少しだけ本当だった。
梓は慌てて前を向いた。
隣では義隆が運転している。
五年前と同じ人。
でも、五年前とは違う人。
今度は焦らなくていい。
今日一日を大切にして。
また会って。
もっと近づいて。
もし、その先に二人の気持ちが重なる日が来たなら――。
「……そのときのため」
梓は小さく笑った。
バッグの中にしまった小さな袋は、今すぐ必要なものではない。
ふと初めてだから無しでも!心臓がドキドキし始めそう。
ただ、五年ぶりに動き始めた恋に、梓自身が少しだけ期待している証だった。
やがて車は、郊外にあるオシャレなカフェへと到着した。
義隆は慣れた様子でハンドルを切り、スムーズに駐車スペースへ車を入れる。
梓は窓の外に目を向けた。
自販機のコーヒーか、たまにファミレスのドリンクバー。それが、あの頃の自分にとっての精いっぱいだった。
こんなオシャレなカフェで、ブレンドコーヒーの味なんてわかるのかな。
ふと、そんな不安がよぎる。
「誰よ、お子様舌って言ったのは」
梓は小さく呟いて、ひとりで頬を膨らませた。




