第六話 コンビニで買うもの
その夜。
梓はベッドの上で、義隆とのメッセージを何度も読み返していた。
呼び方が戻った。
「先輩」ではなく、「義くん」。
そして義隆からも――
『これからは梓って呼ぶ』
たったそれだけのやり取りなのに、梓はなかなか眠れそうになかった。
そんなとき。
スマートフォンが震えた。
「……義くん?」
慌てて画面を見る。
『次の休み、いつ空いてる?』
「……!」
デートのお誘い。
その言葉を頭の中で勝手に付け足してしまう。
梓はカレンダーを確認して、空いている日を伝えた。
すると、すぐに返信が来た。
『じゃあ、その日にしよう』
『車で迎えに行くよ。近くにコンビニある?』
「…………」
梓は固まった。
車。
迎えに来る。
コンビニ。
なんだか急に、大人のデートらしくなった気がする。
「……うん」
梓は小さく頷いた。
そして、自宅から一番近いコンビニの住所を送る。
『ここなら分かりやすいと思います』
『了解。じゃあ当日迎えに行くね』
「……うん」
スマートフォンを胸に抱える。
その瞬間だった。
「あ……」
梓の頭に、ふとあることが浮かんだ。
「コンビニ……」
近くのコンビニ。
義くんの車。
二人きり。
そして――。
「…………」
梓の顔が、みるみる赤くなる。
「いやいやいや!」
慌てて首を振る。
「何考えてるの、私!」
ベッドの上で一人、両手をぶんぶん振る。
「まだ付き合ってもないんだから!」
自分で言って、さらに恥ずかしくなる。
でも。
頭に浮かんでしまったものは、なかなか消えてくれない。
「……コンビニで、あれ買って……」
そこまで呟いて、梓は口を両手で塞いだ。
「~~~~っ!私まだしょ・・・したことないのに。」
枕に顔を埋める。
「違う違う! そういう意味じゃない!」
誰も聞いていないのに弁解する。
いや。
そもそも、何を買うかなんて決まっていない。
ただの想像だ。
それなのに。
「……私、ほんと何考えてるんだろう」
梓は枕から顔を上げた。
鏡を見る。
頬が真っ赤だ。
「……義くんのせいだから」
小さく呟く。
五年前なら、こんなことを考えもしなかった。
手をつなぐだけで緊張して。
キスをするだけで心臓が壊れそうになって。
それで十分だった。
でも今は二十三歳。
あの頃より少しだけ大人になった。
だからこそ、昔とは違う未来まで想像してしまう。
「……だめ」
梓は頭を振った。
「まずは普通にデート」
そう。
まずは食事をして。
いろんな話をして。
昔みたいに笑って。
それから――。
「…………」
また余計な想像が始まりそうになり、梓は慌ててスマートフォンを伏せた。
「考えるの禁止!」
部屋に一人で宣言する。
しかし。
数秒後。
またスマートフォンを手に取った。
義隆からの最後のメッセージを見る。
『当日迎えに行くね』
「……楽しみ」
今度は素直に呟いた。
胸の奥が、ぽかぽかする。
五年前とは違う。
今度は二十二歳の自分として、義くんに会える。
それだけで十分だった。
――今のところは。




