第24話 今日はキスまで!
家に帰った梓は、玄関を開けるなり頬が緩みっぱなしだった。
「ただいま……」
靴を脱ぐ。
バッグを置く。
そして自分の部屋へ駆け込む。
「義くん……」
思い出すだけで、胸がいっぱいになる。
告白した。
気持ちが通じた。
抱きしめてもらった。
そして――キス。
「…………きゃあ!」
ぽすん!
梓はベッドに飛び込んだ。
「やったぁ……!」
ごろん。
ばたばた。
「義くんと……!」
ばたばた。
「恋人に……!」
さらにばたばた。
「梓!」
階下から母親の声が飛んできた。
「またあんたは!」
「ひゃっ!」
梓は動きを止めた。
「二階で何してるの!」
「ご、ごめんなさい!」
そのとき。
廊下から足音がする。
「お姉ちゃん?」
「……楓」
妹の楓が、ドアを少し開けて顔を出した。
「またベッドで暴れてたの?」
「……ちょっとだけ」
「この前もやってなかった?」
「…………」
梓は固まった。
確かに。
以前も義隆とのデートから帰ってきた日に、同じことをして母親に怒られている。
「なんか前にもこんなことが……」
楓が腕を組む。
「お姉ちゃん、何かあった?」
「…………」
「もしかして――」
「ち、違う!」
「まだ何も言ってないけど?」
「…………」
梓は完全に追い詰められた。
「今日は?」
「え?」
「義くんと、どこまで進んだの?」
「…………」
「お姉ちゃん?」
梓の顔が真っ赤になる。
そして――。
「き、今日はキスまでしかしてないから!」
「…………」
「…………一応コンド・・・持って行ったけど」
部屋が静まり返った。
梓自身も、言ってから気づいた。
「…………あ」
楓がゆっくり目を細める。
「へぇ」
「…………」
「キス、したんだ」
「…………」
「しかも『今日は』なんだ?」
「ち、違っ……!」
梓は慌てて両手を振る。
「そういう意味じゃなくて!」
廊下から母親の声が飛んでくる。
「梓!」
「はいっ!」
「何を大声で話してるの!」
「なんでもない!」
楓はニヤニヤしている。
「お姉ちゃん、顔真っ赤」
「もう……楓!」
「よかったじゃん」
「……え?」
楓の表情が少しだけ優しくなる。
「ずっと好きだった人なんでしょ?」
「…………うん」
「じゃあ、今日はそれで十分じゃない?」
梓は少し黙った。
そして、ベッドの上で膝を抱える。
「……うん」
思い出す。
義隆の笑顔。
抱きしめられたときの温かさ。
そして、優しいキス。
「……幸せだった」
楓はそれ以上からかわなかった。
「じゃあ、今日は大人しく寝なよ」
「うん」
「ベッドでバタバタしないパンツ見えてるよ」
「……はい」
楓が部屋を出ていく。
ドアが閉まる。
梓は枕を抱きしめた。
「……義くん」
今度はベッドを跳ねさせないように、静かに頬を緩ませる。
「今すぐ……会いたいな」
五年ぶりに始まった恋は。
その夜も、梓の胸の中で静かに続いていた。




