第21話 今度こそ、正直に
義隆は封筒から一枚の便箋を取り出した。
丁寧な文字。
見慣れているような、少し懐かしいような字だった。
読み進める。
高校時代のこと。
吹奏楽部で一緒に練習したこと。
帰り道に話したこと。
あの頃、義隆と一緒にいる時間が嬉しかったこと。
そして――。
五年ぶりに再会した日のこと。
『久しぶりに会った義くんは、私が覚えていた義くんと同じ優しい笑顔をしていました』
義隆の手が止まる。
さらに読み進める。
『でも、昔と同じじゃないところもたくさんありました』
『仕事をしている姿も知らなかったし、大人になった義くんがどんなことを考えているのかも、私は何も知りませんでした』
『だから、もう一度好きになりました』
「…………」
義隆は息を呑んだ。
『昔の義くんが好きだったからじゃありません』
『今の義くんが好きです』
その一文を何度も読み返す。
胸の奥が熱くなる。
義隆はゆっくりと便箋を閉じた。
「……そっか」
今まで、自分は何度も考えていた。
梓を楽しませたい。
疲れさせていないかな。
次はどこへ連れていこう。
女性との付き合い方が分からない。
そんなことばかり。
でも。
どうしてそんなに梓のことが気になるのか。
なぜ、笑っている梓を見るだけで嬉しいのか。
なぜ、他の男が梓に近づいたとき、あんなにも気になったのか。
答えは、とっくに出ていた。
「……俺も」
義隆は顔を上げる。
少し離れたところで、梓が不安そうにこちらを見ている。
「梓」
「……うん」
「俺も、ちゃんと話したい」
「……何を?」
義隆は立ち上がった。
梓の前まで歩く。
そして、まっすぐ目を見る。
「俺も、梓のことが好きだ」
「…………」
梓の瞳が大きくなる。
「昔のことを思い出して、懐かしいから好きなんだと思ってた」
一度、言葉を選ぶ。
「でも違った」
「…………」
「映画に行って、水族館に行って、買い物して……」
思い出す。
どれも楽しかった。
でも、楽しかった理由は場所じゃない。
「梓と一緒だったから楽しかった」
梓の目に、少しずつ涙が浮かぶ。
「今日もそうだった」
「……義くん」
「だから、もう誤魔化さない」
義隆は静かに続ける。
「俺も、梓とこれから先も一緒にいたい」
梓の頬を涙が伝う。
けれど、その顔には笑顔が浮かんでいた。
「……本当に?」
「ああ」
「昔の私じゃなくて?」
「今の梓が好きだよ」
「……私、五年も待ってたんだよ?」
「うん」
「もっと早く言ってよ……」
「ごめん」
義隆は苦笑する。
「僕も、気づくの遅かった」
「……ほんとに」
梓は涙を拭った。
そして、少しだけ笑う。
「でも……嬉しい」
五年前に途切れた恋が。
今度は、二人の言葉で再び始まろうとしていた。




