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第20話 伝わるかな

 夕方。


 展望台から見える街の景色が、少しずつオレンジ色に染まっていく。


「今日は楽しかったな」


 隣にいる義隆が言った。


「うん……」


 梓は小さく頷いた。


 今日一日。


 陶芸体験では二人で笑って。


 カフェでは、昔の部活の話をしたり、仕事の話をしたり。


 そして最後は、こうして二人で景色を眺めている。


 梓が考えたデートプラン。


 義隆は、全部楽しんでくれた。


 それだけでも十分嬉しい。


 でも――。


「梓」


「ん?」


「今日、本当に楽しかった」


「……ほんと?」


「ああ」


 義隆が笑う。


「梓が考えてくれたから、余計に嬉しかった」


「…………」


 胸がいっぱいになる。


 しかも今日は。


「可愛い」


 何度もそう言ってくれた。


 リボンを見たときも。


 陶芸をしているときも。


 カフェで笑っているときも。


 何気ない瞬間に。


「梓、可愛いな」


 そう言ってくれた。


 そのたびに、心臓が大変なことになった。


「……義くん」


「ん?」


「今日……」


 言葉が続かない。


 バッグに手を伸ばす。


 中に入っている、小さな封筒。


 今日のために用意したもの。


 これを渡す。


 それだけ。


 何度も練習した。


『義くん、これ』


 それだけ言えばいい。


 なのに。


「…………」


 指先が震える。


「どうした?」


「ううん」


 梓はバッグを抱え直した。


 今日一日、ずっと思っていた。


 五年前に別れてから。


 もう一度、義隆に会いたいと思っていた。


 そして再会して。


 一緒に出かけるようになって。


 今の義隆を知るほど――。


 やっぱり好きだと思った。


 昔の思い出が好きなんじゃない。


 今、目の前にいる義隆が好き。


「……これ」


 梓は封筒を取り出した。


 義隆が見る。


「僕に?」


「うん」


 声が少し震える。


「今日、渡そうって決めてたの」


 封筒を差し出す。


 義隆が受け取った。


「ありがとう」


「……開けて」


「今?」


「うん」


 義隆が封筒を見る。


 梓はその横顔を見つめる。


 胸が苦しい。


 怖い。


 もし、気持ちが伝わらなかったら。


 もし、重いと思われたら。


 でも――。


 もう隠したくなかった。


「……義くん」


「ん?」


「私ね」


 一度、深呼吸する。


「今日、すごく楽しかった」


「僕も」


「それで……」


 梓は義隆を見る。


「もっと、義くんと一緒にいたい」


 夕暮れの風が、二人の間を通り抜ける。


 梓はぎゅっと手を握った。


 封筒の中身だけでは、きっと全部は伝わらない。


 だから。


 ちゃんと言葉にする。


「……これからも、私と一緒にいてほしい」


 言った。


 とうとう言えた。


 梓は顔を上げることができなかった。


 でも。


 隣から聞こえたのは、優しい声だった。


「……梓」


「……うん」


「こっち見て」


 梓は恐る恐る顔を上げる。


 義隆が、まっすぐこちらを見ていた。


 その表情は――。


 いつもの優しい笑顔だった。


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