第十九話 今日の予定
「じゃあ、そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?」
義隆が笑いながら尋ねる。
「今日のデートプラン」
「まだ秘密」
「そんなに?」
「うん。義くんがどんな顔するか見たいから」
「……それは困ったな」
「なんで?」
「梓がそんな顔してると、こっちまで期待するだろ」
「……え?」
梓がこちらを見る。
義隆は少しだけ照れくさくなって、前を向いた。
「ほら。早く教えて」
「……うん」
梓はバッグから一枚の紙を取り出した。
「実はね、ちゃんと予定表を作りました」
「予定表?」
「そう」
紙を開く。
**『今日のデートプラン』**
義隆は思わず笑った。
「本格的だな」
「笑わないでよ」
「笑ってないって」
「絶対笑ってる」
「……可愛いなと思っただけ」
「…………」
梓が固まる。
義隆自身も、言ってから気づいた。
「……あ」
しまった。
今のは、昔のような軽い「可愛い」ではなかった。
髪にリボンをつけた梓を見たときも思った。
笑っている梓を見ると嬉しい。
自分の隣にいると、妙に意識してしまう。
そして今。
自分のために一生懸命デートプランを考えてくれたことが、どうしようもなく愛おしく感じた。
「……続き、聞いていい?」
少し照れながら聞く。
「う、うん」
梓もまだ頬が赤い。
「まずね、ここ」
「陶芸体験?」
「うん。この前、蚤の市でお茶碗見たでしょう?」
「ああ」
「義くん、楽しそうだったから」
胸の奥が温かくなる。
ちゃんと自分のことを見ていてくれた。
「……覚えてたんだ」
「もちろん」
「そっか」
義隆は笑った。
「じゃあ、僕も頑張って作らないとな」
「私も頑張る」
「どっちが上手にできるかな」
「私だよ」
「言い切ったな」
二人で笑う。
続いて梓が説明する。
「陶芸が終わったら、古民家カフェ」
「二人でゆっくりできるところか」
「うん」
「それ、楽しみだな」
「……カフェが?」
「それもあるけど」
義隆は梓を見る。
「梓とゆっくり話せるのが」
「…………」
また梓が黙る。
義隆も少しだけ視線を逸らした。
自分でも驚いていた。
最近、梓に対してこういう言葉が自然に出てくる。
昔の恋人だから、ではない。
今、目の前にいる梓を、一人の女性として見ているからだ。
「それで……最後は?」
「夕方に展望台」
「展望台か」
「うん。景色、一緒に見たい」
「……いいな」
義隆は素直にそう答えた。
そしてふと、梓の横顔を見る。
楽しそうに予定を説明する姿。
髪には自分が選んだリボン。
昔と同じ笑顔なのに、昔とは違う。
「……梓」
「ん?」
「今日は、俺も楽しませてもらうから」
「……うん」
梓が嬉しそうに笑う。
その笑顔を見て、義隆の胸がまた少し高鳴った。
――俺、かなり梓のこと好きになってるな。
五年前の恋が、そのまま戻ったわけではない。
五年の時間を過ごした二人が。
今の二人として、もう一度惹かれ合っている。
義隆はそう思いながら、アクセルを踏んだ。
「じゃあ、今日は梓についていくよ」
「任せて」
「ただし」
「?」
「帰りまで、ちゃんと俺の隣にいて」
「…………」
梓は真っ赤になった。
「……うん」
小さな返事。
それを聞いて、義隆も笑った。
今日のデートは、まだ始まったばかりだった。




