第十六話 大人です!
待ち合わせの日。
義隆は約束の時間より、かなり早く到着していた。
「……早すぎたな」
腕時計を見る。
待ち合わせまで、まだ二十分以上ある。
「まあ、いいか」
スマートフォンを眺めながら、ふと駐車場の向こうを見る。
――いた。
梓だ。
少し早く来ていたらしい。
髪には、以前義隆が選んだリボン。チェックのミニスカートにブレザー。
「……可愛いな」
高校生の頃に戻ったみたい思わず笑ってしまう。
声をかけようとして――。
「……いや」
義隆は足を止めた。
「ちょっと驚かせてみるか」
物陰に隠れる。
梓はまだ気づいていない。
スマートフォンを見たり、周囲を見渡したりしている。
「……しかし」
義隆は梓を見ながら考えた。
「梓、普通に可愛いからな……」
自分がいない間に、変な男に声をかけられたりしたら困る。
そう思った矢先だった。
「…………ん?」
少し離れたところから、男性が一人、梓のほうへ歩いていく。
「え?」
義隆の表情が変わる。
男は梓の近くまで来て、声をかけた。
「すみません――」
「……!」
義隆は物陰から出ようとした。
しかし、その瞬間。
別の方向から、制服姿の警察官が歩いてきた。
男性と梓に何か声をかけている。
「……何だ?」
義隆は近づいていった。
どうやら、少し前に近くで通報があったらしい。
警察官は梓にも確認を取っている。
「お兄ちゃん、やっと来た!」
「え?」
「この方とは兄妹?お知り合いですか?」
「はい。僕の……」
義隆は言葉に詰まった。
恋人、と言うにはまだ早い。
「……知り合いです」
すると梓が慌てて振り返った。
「義くん!」
「梓!」
しかし警察官は少し困った顔をした。
「こちらの方から、未成年の女性に声をかけている男性がいるようだと――」
「未成年?」
義隆が梓を見る。
梓も目を丸くしている。
「私ですか?」
「……はい」
「私、二十二歳です!」
即答だった。
義隆も慌てて財布を取り出す。
「いや、本当に大人です。僕も二十三歳です」
「念のため確認させてください」
「はい!」
義隆は免許証を取り出す。
さらにマイナンバーカードまで確認してもらう。
「……それから、これも」
最後には会社の名刺まで差し出した。
「会社員です!」
梓も自分の身分証を提示する。
警察官は二人の身分を確認すると、ようやく納得した様子で頷いた。
「失礼しました。お二人とも成人ですね」
「はい……」
義隆は力が抜けた。
「すみません、お騒がせしました」
「いえ、こちらも確認できましたので」
警察官はそう言って、その場を離れていった。
「…………」
「…………」
二人の間に沈黙が落ちる。
最初に吹き出したのは梓だった。
「ふふっ……」
「……笑うなよ」
「だって……」
梓は肩を震わせる。
「義くん、免許証だけじゃなくてマイナンバーカードまで出して……」
「仕方ないだろ」
「最後は会社の名刺まで」
「本当に成人だって分かってもらわないと」
「……ふふふ、私が出さないと意味ないでしょ。私が未成年って思われたんだもん」
「梓」
「ごめん、ごめん」
そう言いながらも、梓は笑い続けている。
義隆も、つられて笑ってしまった。
「まさか待ち合わせだけで、こんなことになるとはな」
「私も初めてだよ」
「……まあ」
義隆は梓を見る。
さっきまでの騒ぎが嘘のように、梓は楽しそうに笑っている。
「また一つ、思い出ができたな」
「うん」
梓は少し考えてから、笑顔で答えた。
「でも義くん」
「ん?」
「この思い出、私は忘れたいかも」
「…………」
「だって恥ずかしいもん」
「確かにな、でも梓らしいな」
義隆も苦笑する。
そして二人は並んで歩き始めた。
今日のデートは、まだ始まったばかり。
ただ――。
五年ぶりに再会した二人には、また一つ。
おそらく一生忘れないであろう、妙に印象的な思い出が増えていた。




