第十四話 恋愛相談
翌週の月曜日。
義隆は会社のデスクでパソコンの画面を眺めていた。
仕事はいつも通り。
メールを確認して、資料をまとめて、上司から頼まれた仕事を片付けていく。
けれど。
どうしても頭の片隅から離れないことがあった。
「……梓も楽しんでくれたかな」
昨日のことを思い出す。
映画を見て。
食事をして。
ショッピングをして。
梓はずっと楽しそうに笑っていた。
でも。
「……ちょっと連れ回しすぎたかな」
義隆は小さく息を吐いた。
梓が「楽しい」と言ってくれるから、つい次の場所へ連れていきたくなる。
あそこも見せたい。
これも一緒に食べたい。
次はあそこへ行こう。
気がつくと、自分ばかり予定を決めているような気もする。
「……女性って、こういうのどうなんだろうな」
腕を組む。
社会人二年目。
仕事のことなら、それなりに考えて行動できる。
けれど――。
恋愛になると、途端に自信がなくなる。
「……昔は高校生だったしな」
当時は、ただ一緒に帰るだけで楽しかった。
手をつなぐだけで緊張した。
キスをしたときなんて、何をすればいいのかさえ分からなかった。
そして今。
二十三歳になった。
多少は大人になったつもりだった。
けれど。
「……結局、女性の扱い方なんて分からないな」
自分で言って、苦笑する。
そのとき。
「近江」
「はい!」
突然、上司から声を掛けられた。
「この資料、今日中にまとめられるか?」
「あ、はい。大丈夫です」
「頼むぞ」
「分かりました」
上司が離れていく。
義隆はパソコンに向き直った。
そして――。
「……AIにでも相談してみるか」
ふと思った。
最近は仕事でもAIを使うことがある。
文章の整理。
アイデア出し。
調べもの。
だったら。
『女性とのデートで疲れさせないためには――』
そこまで入力しかけて。
「…………」
義隆の手が止まった。
「……俺、仕事中に何してるんだ」
慌てて消す。
その直後。
スマートフォンが震えた。
画面を見る。
『義くん、昨日楽しかったよ。ありがとう』
梓からだった。
「…………」
義隆の顔が自然に緩む。
続けて。
『また一緒に出かけたいな』
その一文を見て。
「……そっか」
義隆は小さく笑った。
どうやら。
あれこれ考えすぎていたらしい。
疲れたかどうか。
楽しませられたかどうか。
女性の扱い方がどうとか。
そんなことより。
梓が「楽しかった」と言ってくれた。
それで十分なのかもしれない。
義隆は返信欄を開いた。
『僕も楽しかった。次は梓の行きたいところに行こうか』
送信。
そして、少し考える。
『無理せず、ゆっくり楽しもう』
追加で送る。
「……これでいいか」
パソコンの画面に向き直る。
さっきまで悩んでいたのが嘘のように、仕事に集中できそうだった。
ただ。
数秒後。
スマートフォンがまた震えた。
『じゃあ、次は私がデートプラン考えるね♡』
「…………」
義隆は画面を見つめる。
「……デートプラン」
思わず笑ってしまう。
「楽しみだな」
そして。
ふと考えた。
――梓がどこへ連れていってくれるのか。
それはそれで、ちょっと楽しみだった。




