第十二話 見られてないよね
蚤の市を歩き始めてから、ずいぶん時間が経っていた。
気がつけば、梓の両手には小さな紙袋がいくつも増えている。
「お茶碗に、お箸に……金平糖」
「ちびカステラもあるな」
「それからリボン」
梓は髪につけてもらったリボンに触れる。
鏡がないので自分では見えないけれど、義隆が選んでくれたことが嬉しかった。
「ちょっと買いすぎたかな」
「僕も結構買ったしな」
義隆も両手の荷物を見る。
「そうだ。さっきのコンビニの袋、まだある?」
「あ……うん」
「そこに入らないかな。まとめたら持ちやすそう」
「えぇ、そうしましょう」
二人は駐車場の近くのベンチに腰を下ろした。
梓はバッグからコンビニの袋を取り出す。
「じゃあ、これに――」
中身を出していく。
のど飴。
そして――小さな箱。
「…………」
一瞬、梓の動きが止まった。
そうだった。
これが入っていた。
今から荷物を入れるなら、当然取り出さなければならない。
「……あ」
梓は慌てて小箱を手に取った。
その瞬間。
「梓、それ貸して」
「えっ?」
義隆が買ったお茶碗の袋を持ち上げる。
「こっち入れようか」
「う、うん!」
梓は反射的に小箱を自分のバッグへ押し込んだ。
「……危なかった」
「何が?」
「な、何でもない!」
義隆は不思議そうに梓を見る。
けれど、特に気にした様子はない。
梓は胸を撫で下ろした。
――気づいてない。
そうだよね。
まさか、コンビニ袋から出てきた小さな箱なんて、いちいち気にしない。
「はい、これで全部かな」
「うん」
義隆が袋の中を確認する。
「結構入ったな」
「ありがとう、義くん」
「どういたしまして」
義隆は自然に荷物をまとめる。
梓はその横顔を見ながら、そっとバッグを抱えた。
中には、今日買った小さな箱。
今はまだ義隆には知られたくないものだった。
「……よかった」
「何が?」
「ううん。何でもない」
梓は笑った。
ただ――。
バッグの中の小箱を意識するたびに、少しだけ頬が熱くなる。
今日は何も起こらなくてもいい。
むしろ、何も起こらないほうがいいのかもしれない。
焦らず、ゆっくり。
そう思っているのに。
心のどこかでは、いつかその小箱が必要になる日を想像してしまう。
梓はそんな自分に気づいて、こっそり苦笑した。
「……私、本当にどうしちゃったんだろ」
「梓?」
「なんでもないってば」
義隆は笑って、荷物を持ち上げた。
「じゃあ、そろそろ車に戻ろうか」
「うん!」
二人は並んで歩き出した。
梓はバッグを大切そうに抱えながら、義隆の隣を歩く。
――まだ、知られなくていい。
今はただ。
今日という一日を、二人で楽しみたかった。




