第十話 コンビニの袋
「それにしても、梓」
「ん?」
「さっきコンビニ寄っただろ?」
「……うん」
「何買ったの?」
「…………」
梓の動きが止まった。
テーブルの下に置いたバッグ。
その中には、のど飴と、もう一つ。
「……のど飴」
「のど飴?」
「うん」
「喉、痛いの?」
「ちょっとだけ」
「大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫」
梓は笑って答えた。
しかし、義隆の視線がバッグに向いた。
「他にも何か買った?」
「…………」
「?」
「……小さいものを、ちょっと」
「小さいもの?」
「うん」
梓は明らかに動揺していた。
義隆は少し不思議そうな顔をしたが、それ以上は追及しなかった。
「まあ、いいか」
「……うん」
梓はこっそり胸を撫で下ろした。
けれど。
「そういえば、のど飴ってどんなの?」
「え?」
「見せてよ。僕も一個もらおうかな」
「…………」
梓はバッグから袋を取り出した。
「はい」
「ありがとう」
義隆が一粒受け取る。
包み紙を見て、笑った。
「懐かしいな。こういうの昔からあるよな」
「そうだね」
「梓、昔もよく食べてなかった?」
「……覚えてるの?」
「覚えてるよ」
その一言に、梓の胸がきゅっとなる。
五年前のことを、義隆も覚えている。
それだけで嬉しい。
「……じゃあ、これも覚えてる?」
梓は冗談半分に、バッグを少しだけ持ち上げた。
「ん?」
「なんでもない」
「何それ」
「秘密」
「秘密か」
義隆が笑う。
梓も笑った。
けれど、そのバッグの中には。
まだ義隆には見せられない、小さな箱が入っている。
梓はそれを思い出して、少しだけ頬を赤くした。
「……本当に、何でもないからね」
「分かったよ」
義隆はそれ以上聞かなかった。
その自然な優しさに、梓はほっとする。
そして同時に思った。
――もし、いつか。
この箱を隠す必要がなくなるくらい、二人の距離が近づいたら。
そのときは、ちゃんと自分の気持ちを話したい。
高校生の頃みたいに、曖昧なまま終わらせたくない。
「義くん」
「ん?」
「……これからは、ちゃんと話そうね」
「何を?」
「いろんなこと」
義隆は少し考えてから頷いた。
「ああ。そうしよう」
その返事を聞いて、梓は笑った。
バッグの中の小さな箱には、まだ出番はない。
でも。
いつかその出番が来るかもしれない未来を、梓は少しだけ楽しみにしていた。




