7: 襲撃者
四つん這いから転がるように走り出すリアムを見届け、私は茂みから飛び出す。
できるなら相手を私にひきつけて、建物から引き離したい。
狙いはセリーヌ様だろう。時間を稼げばその間護衛が皆を避難させてくれるはずだ。
それさえできれば、あとは私は逃げることに集中すればいい。この相手、倒すのは私には無理だ。
生徒が残っているかもしれない校舎と、反対側へ向かって走る。
途中、片づけ忘れたほうきが壁に立てかけてあったので、それをつかんで走り続ける。
木刀に似た感触。ないよりましか。
気配で、ついてきているのがわかる。良かった。
森の入り口について、立ち止まり振り返る。またナイフが飛んでくるなら、木をたてにする。
さてどうする、と思っていると。
意外なことに、相手がゆっくり姿を現した。
油断してる?舐められている?
スカーフで顔を隠して表情は読めない。
全身黒っぽい服装なのだが、ぴったりとしてるわけでなく、動きやすそうだがどこかふわふわと軽そうな生地だ。暗殺者としては何か違和感がある。変装?
近づいてくる距離を計算しながら、ほうきを構える。
間合いからまだ十分距離があったのに、一瞬で私の背後にまわられた。
「!?」
首を、素手で絞められていた。
武器もいらないという事か。
「くっ」
一気にでなく、徐々に締め上げられる。引き離そうと相手の手に爪を立てる。
びくともしない。感触を味わっているように、確実にしめていく。苦しくて息ができない。
全身の力をためて一気に下半身で吐き出す。足払いで攻撃する。
相手は片手で地面をついて側転で軽やかにかわす。
服とスカーフの揺れが優雅にすら感じる。
少しスカーフが顔からずれる。化粧をしているのかはっきりとした美しい顔立ちの様だ。化粧ということは女?あの力で?
逆光でよく見えないっ。
相手はしばし私を観察した後、口を開いた。
「 名前 」
「は?」
「 名前。 お前の。 何。 」
「教えるわけないでしょ!」
「ふふふ」
低い声で笑ってる。なんてやつ。
「まて!」
何人かこちらに向かってくる姿が見える。セリーヌ様の護衛達のようだ。
(助かった・・・)
さっとスカーフで顔を隠し直した相手と、私の間に、私を守るように3人の護衛が立つ。
私の横に、黒頭巾姿の護衛が立った。さっき部屋でセリーヌ様の横にいた人だ。
もう一人、血相変えて走ってくる人がいる。ウィルだ。
「大丈夫か!マリ・・・」
「呼ぶな!!」頭巾姿の護衛がウィルの声に重ねるように大声で怒鳴る。
大声で消してくれたんだ。
「 マ リ ー 」
相手は面白そうにつぶやく。
「ばれたか。読唇術か…」
護衛が吐き捨てるように言う。ウィルはしまったという顔でさらに青くなる。
ざざあっと突風が起こり、森全体がゆれるように木の葉が激しくはためく。
砂ぼこりに一瞬目を閉じて、次に目を凝らした時には、もう、相手の姿は消えていた。




