5:弟リアムが見たものは
私はぼんやり屋敷のテラスから外を眺めていた。
ウィルからは、会えない事の詫びの手紙や花が、毎日のように届いていた。
学校と、側近としての仕事がかなり忙しい、とある。
「でもねえ、なんか極端じゃない?」
お茶につきあわせたリアムに話しかける。私の気持ちを慮ってくれているのか、いつもより大人しい。
「婚約したとたん、全く会いにこないって。なんかさ、釣った魚にエサは一切やらん的なものだったりして」
そうだ、そもそもあの優秀で真面目なウィルが(ただの真面目かは、トーマスの話の後だとやや疑問を感じるが)、ずっとこの私を好きだったなんて、やっぱりおかしいような気がする。恋だと思い込んでいたのを、いざ婚約してみるとやっぱり違ったと改めて気がついたんじゃ。それとも別の思惑が・・・とぐるぐる考えてしまう。
「なんてね!いじいじするのは好きじゃない!私らしくないわ。余計なこと考えるとろくなことない!リアム、後で鍛錬に付き合ってくれる?」
リアムはお茶のカップをもってうつむいたまま、ずっと何もしゃべらないでいる。
「リアム、具合でも悪いの?」
心配になってリアムの肩に手をまわす。リアムが小刻みに震えてるのを感じる。すると、突然、
「ねえさあーん!うえーーん!」
リアムが泣き出してびっくりする。
「やだ、ど、どうしたの?大丈夫?」
慌ててリアムの手からカップをとりあげ、テーブルに置いた。
「ひっく、ごめんね、姉さん傷つけたくなくて、だまってたんだけど、僕もね、辛くてがまんできないっ。うわーーーん」
リアムの背中をさすってなんとか落ち着かせようとする。
「そうなの、辛かったのね。姉さんは大丈夫だから、なんでも話してみて、ね、リアム」
「あのね、僕ね、実はね、ずっと憧れている人がいるの。深窓の令嬢って雰囲気で」
なんと、恋バナだった。
「学園内に、研究棟があるでしょ、卒業後も学園に残って研究続ける人達の建物。そこに自分の研究室があるぐらい優秀でね。お姿はそれはそれは麗しくて。それにね、すっごくいい匂いがするの」
「匂い?」
「研究室のぞきにいくとね、窓が開いてる時ふわあっと、あの方の香水の匂いがかげる日もあって」
思い出してうっとりとするリアム。うんうん、と聞きながら、段々弟の行動が心配になってきた。
「その方のお名前はわかるの?」
「うん、コッツフェルド公爵家のセリーヌ様というんだけど」
ソファから転げ落ちそうになった。筆頭公爵家じゃないか。セリーヌ様といえば社交界では「幻の華」と有名なお方だ。確か王族とも親戚関係で、王太子のお妃候補最有力だ。私でも知ってる情報だ。
「リアム、言いたいことが沢山あって、姉さん混乱しているわ。どうやって研究棟に出入りしてるのか、護衛もいるだろうにのぞきにいって命は大丈夫なのかとか、もうそんなのこの際いいわ。リアム、それはこの国で最難関の恋だから、あんた、むり。」
「しってるよ!いわれなくてもわかってるよ!お姿見てるだけで、僕は、幸せだったんだ。それが、あいつがっ」
可愛いリアムの顔が、一気にどす黒くなる。
「ぜったい許せない」
「姉さん、僕は、ここ数日、何度も見てるんだよ。セリーヌ様とウィルが、あいびきしているのを!二人、手を取り合って、肩にも手をまわしてたんだよ。偽善者ウィルめ、あいつ、姉さんを手に入れた途端、今度は、僕の大事な華に、手を出したんだ!!」
ショックすぎて、私はその後一日の記憶が、ない。




