4: 誕生会にて、やばい事実を知る
婚約者探しの必要なくなったので、私の誕生日パーティーはなんの思惑もない、普通に和やかなお祝いの会となった。
ただ、ウィルは急に用事ができたとかで参加できなかった。
元々王太子の側近としての教育も受けているウィルは、たまに王宮に呼ばれることがあった。今、王太子は隣国に留学中だが、王太子不在の間にも、ウィルは王宮で仕事があるらしい。学生と生徒会と側近の仕事と。有能過ぎて過労になる典型だな。そんなウィルがなぜ私を選んだのか、冷静になるとやっぱりよくわからない。
誕生会には、学園時代の仲間も多く来てくれた。リアムの婚約者立候補リストに参加してくれた、トーマスやアマンダもいる。あんな珍妙なリストも面白がれるノリを持った友人は貴重だ、大事にしようと思う。
「マリー様!お久しぶりです。お誕生日おめでとうございます!」「アマンダ、来てくれてありがとう」「マリー、お誕生日おめでとう」「ありがとう、トーマス、来年は卒業できそう?」「会っていきなりそれかよー」久しぶりにわいわいやるのは、とても楽しい。
「ところで、聞きたいんですけどっ、ウィリアム様との噂です」
集まった皆が一気に注目する。
「ご婚約されたというのは、本当ですか?」やっぱり来たかと構えつつ、気恥ずかしく思いながら答える。
「ええっと、そう、なるかな」
わっと皆の声が上がる「おめでとう!」「おめでとうございます、マリー様!」
「えへへ、みんなどうもありがとう」
「やっぱりなー」「なんだよ~あんなリスト回って来たから少しはチャンスあるのかと思ったけど、全然じゃん」参ったと両手を上げるトーマスに、「お前は一番ないだろう~」と周りが爆笑している。
「その節はどうもありがとう。弟の愚案に参加してくれて。冗談だとしても嬉しかった」
「そもそもあんなリスト、ウィリアム様の目を盗んで作成できたリアム様が凄いですよ。ああ見えてあなどれません」
「目を盗むって大げさな」
「ああ、マリーは鍛錬にしか興味なくて、周りが見えてなかったから」
「それはどういう意味?私、もしかして、気づかない所でまたみんなに迷惑かけてたのかな?」
自分の言動を思い出し、不安になる。
「そういう事じゃなくて。ずっとウィルの奴、お前を狙ってる男を丁寧にひとつひとつ消す…遠ざけてたもんなあ。ありゃあ色んな力使ってたんじゃ…。あ、やべ、なーんて俺は何もしらないから!」
慌ててトーマスは自分の口を両手で隠す。
「詳しくは自分の旦那に聞けよ」
「だ、旦那だなんて・・・!まだちがうしっ!」
真っ赤になってしどろもどろになってしまう。
「あーそういうこと…つかまったというより、お前もなのかよ」
すっと冷めた目になるトーマス。どこまでも失礼な奴だ。
「それにしても今日ウィリアム様が参加できなくて残念でしたね」
「うん、なんか仕事で王宮によばれているわ。殿下の留守中にも報告書作りがあるようで」
「側近候補ですものね。ところで王太子殿下、いつ国に戻られるんですか?」
そういえば、私、王太子殿下の事よく知らないや。ウィルが王宮で何やってるのかも全然聞いたことない。聞いたとしても、右から左に抜けていてほぼ残ってない。これからはウィルのためにも、キャッチアップを急がねば。
「えっとごめん、私、殿下の事や王宮の事にうとくて。むしろマリアンヌ達が知ってること教えてほしい」
「だから後で旦那に聞けって…ぐへっ」
ソファでふんぞり返っていたトーマスのみぞおちに、しなやかな動きで裏拳を当てたマリアンヌは、ふふと微笑みながら言う。
「そうですね、婚約者のお仕事にご興味持たれるのは良い事ですね」
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王太子であるアレクサンダー殿下には、かつてご兄弟が数人おられた。しかし食中毒で亡くなったり(証拠はないがおそらく毒殺)、こつぜんと行方が分からなくなり(誘拐の可能性も消えない)等々、謎の失踪が繰り返され、結局王子はアレクサンダー殿下お一人となってしまった。反王政勢力が関わっていたのではと囁かれたが、真実がどうなのか、一般貴族にはうかがい知れない。
しかしそんな物騒な事は、殿下が幼かった頃の話で、あれから何年もたっている。もう今は王宮内も安定して、平和な日々である。
と、ここまでの理解しか、私にはない。
「それがですね、2年ほど前、再び殿下の周辺で、きな臭い事件が頻発し始めたんです。今ご存命の王子は、アレクサンダー殿下お一人ですから…大事を取って、留学という形で一旦王宮を離れたのではという噂があります。隣国は軍事力が強いですし、母君である王妃様は隣国の生まれ。絆も強い友好国ですしね。その間に、密かに反王政勢力の残党粛清を進めるのではと噂があります。それにして殿下のご不在期間が長すぎるのも、果たしてどうかと」
「そうなんだ…」
ウィルはそれらに巻き込まれているのかしら、と今さらながらに不安になる。私は出奔してどこの国の女騎士になるか、という事ばかりに気を捕らわれて、ちゃんとこの国の事に目を向けていなかったと、情けなくなる。
「ま、所詮噂ですけどね」
暗くなった空気を換えようと、アマンダは努めて明るい調子に切り替える。
「ご苦労耐えない殿下ですが、悪い事ばかりじゃなさそうですよ。隣国の女性達にも殿下はモテモテで、楽しくお過ごしだとか」
「同じ男から見ても美形でいい男だもんな。自分の国の王太子なら恐れ多すぎるけど、他国ってのがちょうどいいかもな」
「なにがちょうどいいの?」
「遊び、だよ。なんかあっても国に帰っちゃえばあと腐れないだろう。噂じゃ殿下は女好きってきくぜ」
最初は殿下をお気の毒だと思ったのに、プライベートをお謳歌するためだとしたら、複雑な気分だ。
「マリー、その話ウィルとする時は言葉選び気をつけろよ。ウィルは忠誠心強そうだからな。『殿下は女好き』とか絶対言うなよ」
「そうね、間違ってもトーマスみたいな下品な話し方はしないわ」
「なんだよ、せっかく色々教えてやったのに!」
横からアマンダが口を出す。
「ほらほら、興奮しないで。甘いものあげるから落ち着きなさい」
と、アマンダはつまんだ角砂糖をトーマスの顔の前に差し出す。
「俺をばかにするなあ!そもそもお前俺より年下だろう!」
「今の所、貴方より先に卒業しちゃいそうです。来年も頑張ってくださいね」
「くそっ心当たりありすぎて反論できねえ!」
ぎゃいぎゃいと騒ぐ二人にすっかり楽しい時間を過ごした。
招待客が帰るのを見送ると、トーマスが別れの挨拶に来てくれた。
「色々言いすぎたけど、あれだな、ウィルとの事は本当におめでとう」
「トーマス、あなたっていいやつなのね。ちゃんと知り合ってれば、学園にいた間いい友人になれたかも」
「当たり前だよ。俺は最初からマリーとは気が合うとわかってたぜ。だけど留年して会う機会なくなったもんな。親が『王家から後継ぎの教育を強く期待されている。お前の修行だ』と外国にあちこち連れまわしたから、出席日数たりなくなったんだよ。それがさ、突然親が『もう好きにしていい。学校にちゃんと行け』と言い出してさ。解放されてやれやれだよ。そうそう!楽になったのは、ちょうどお前の婚約決まった頃だわ…って、あれ…?」
ん?と二人で目を合わせてしばし沈黙になる。
「いやいやいや!まさかなーーー!俺ごときまで排除の対象にしないよなあー!なあ?」
「ははは」
乾いた笑いになる。
「じゃ、帰るから!」
「あ、ありがとう!トーマス、なんか無事でいてね!」
トーマスは、
「こわいよう、気づいちゃだめだよう俺・・・」
とぶつぶつ言いながら帰っていった。
今日一日で、私はウィルの仕事の内容を何も知らなかったことに気付いた。
今度会ったら、ちゃんとウィルに聞いてみよう。
そう決心したばかりなのに。
その日以来、ぱったりとウィルに会えなくなってしまった。




