3:瓢箪から駒?
怒りまくるコリン侯爵を
「まあまあ若い者たちのやる事ですから、参りますなあ。ところで娘の部屋に無許可でいらした深い訳を、ゆっくりお聞きするとしますかな、ははは」
とお父様はご機嫌に引っ張っていった。リアムは私たちに向けた両こぶしの親指をぐっと天につきあげ、ウィンクしてから、部屋を出ていった。
「・・・さて」
静かに切り出す私の声に、ウィルは一瞬肩を大きく震わせ、がっと床に手をつく。
「申し訳ありません、マリーを助けたくて、思わずあんな事言ってしまいましたっ」
「いや、そこまでしなくても。怒ってないし。かなりびっくりしたけどね。それに、むしろあんな嘘ついてまで助けてくれて、どうもありがとう」ウィルの両手を取って、立ち上がらせる。
「でもお父様までいたのは運が悪かったわね。ウィルの優しさ知ってるくせに、これ幸いと娘を押し付けてくるかも。コリン侯爵の事は不法侵入という非があるから、お父様が上手く片つけてくれると思うから、侯爵が帰られたら、すぐお父様の所に話に行きましょうね」
お疲れさま、という気持ちも込めてぽんとウィルの肩をたたく。ウィルはうつむいたままだった顔をぐっと上げ、見たことのない強い眼差しで私を見返す。
「助けたかったのは本当だけどっ、それだけじゃなくて…」
私の手をぎゅっと握り、顔を真っ赤にさせ唇を震わせている。
「うん、わかってるから、どうもありがとう」
いつもは冷めた表情ですましているのに。長身の若者になってから初めてみせる、初心で必死なウィルの表情に、(わあ、可愛い~)と思う。
胸がきゅんとする。
(え、“きゅん”、だと?)
不整脈かと、胸に手を当てる。
「だからっ、僕はっ、本当にマリーの‥‥婚約者になりたいんだ!!」
再び驚愕で頭が真っ白になる。
「驚かせて、ごめん」
「えっと整理しよう、ウィル、責任感強すぎておかしい事なってない?」
「なってない。ちゃんと正直に話すよ」
ソファにこしかけ、とつとつと話してくれたウィルの話は。
幼馴染のリアムの家に行くたび、「遊んであげる」といいながらほぼいじめてくる私が怖いと思っていたこと。
10歳の頃、私が数か月間領地の離れの別荘地にいってしまって、会えなくてとても寂しかったこと。半年後久々に会ったら、もう相手にしてくれなくなって、ショックだったこと。私が一人鍛錬を初めてどんどん強くなって、置いていかれそうで大変焦ったこと。その時には既に、私を意識していたこと。
「子どもの頃から、マリーの笑顔が好きだったんだ。鍛錬でキラキラしてるマリーからどうしても目が離せなかった」
ふうと深呼吸するウィル。私に体を向け、私の目をじっとみつめる。まるで、私の瞳に自分が映っているのを確認するかのように。それから目元を甘く和ませ微笑んだ。
「マリーの事が、ずっと好きでした。僕と、結婚前提に、お付き合いしてください」
ぎゅうううううんんん!
鍛錬で鍛えてない部分の心臓が暴れだす。だめだ、これはどうすればコントロールできるのか全然わからない。
「やっと言えた。マリー、大好きだよ。」
どうした、一旦繰り出したらどんどん攻撃してくる。甘々の甘攻撃に、私はなすすべなく、息がうまくできずはふはふしてしまう。
「マリー、返事は?僕と、婚約してくれる?」
「はひ、よ、よろしくおねがいします」
ウィルは破顔して、私を力いっぱい抱きしめた。
思ったよりよく鍛えられた背中に、そっと手をまわし、私はまだぼおっとしていた。
耳元でウィルは優しくささやく。
「これからは僕がいるんだからね。もう出奔とか考えちゃだめだよ」
響きにうっとりしていたが、内容を理解したとたん「ひいっ、なぜそれを!」と震えあがる。そんな私をみてウィルはさらに笑みを深めた。




