19:必死の攻防
気が付くと王宮の外壁の側にいた。王宮の方から、火事に慌て騒ぐ人々の声が聞こえる、
「さてと」
シシィの肩に担がれていた私は、木の根元に放り投げられた。私の横には手足を縛られ、麻袋を顔にかぶせられた男性が倒れている。陛下だ。気は失っているが、ご無事の様で良かった。火事の騒ぎに紛れて、私達を担いでシシィはここまで来たのか。
「さっきは、ゆっくり楽しむ時間がとれなかったからね。僕の人生のハイライトだ。君に見てもらわないと。」
「だめよ、やめて」
「ねえ、マリー。こいつやったらさ、今度こそ、僕と一緒に逃げてくれない?」
シシィは私に向かて片手を差し出した。
「あの時は、ごめんなさい!貴方の手を取れなかったのを、今でも後悔してる。あなたを橋の向こうに行かせてしまって心から後悔してる!だから、今回は、絶対あなたをあっち側に行かせない!自分の父親に手をかける人にはさせない!」
シシィの作られた笑顔がずっと不気味だったのが、少し緩んだ気がした。
「ふっ。あっち側って。なにそれ、わけわかんない」
私は両手を広げ陛下を背中にかばうようにして、シシィの前に立つ。
「私も、王家のやり方酷いって思った!許せないって思った!でも、これはだめ」
「なんで。こんなやつら殺されたってかまわないだろう」
「違うの、そりゃ間違ってたり正しくない事いっぱいしたかもしれないし、それが許されるわけじゃない。でも、今の政情の安定は全然確かなものじゃない。陛下が殺されたとあれば、一気に乱れる。戦争なんてものは、簡単におきるの。そしたらまた可哀そうな孤児が沢山増えるわ。あなたのような・・・」
ああ、これではだめだ。そう思ってないわけじゃないけど、今こんなこと言っても、詭弁にしか聞こえない。まるで政情安定のためにシシィは黙って犠牲になってろと言わんばかりじゃないか。
こんなの全然シシィに寄り添えてない。言いたいことはそういう事じゃない。
言葉がみつからず、ますます焦る。
「私は、あなたの犠牲の上で成り立った貴族の暮らしを、ずっと能天気にやってきてしまった。ごめんなさい。でも、それをわかっている上で、貴方を止めようとしている。私が間違ってるなら、きっと後でちゃんと神様から罰を受けると思う。だけど、私は、あなたに陛下を殺させたくないの!あなたに、あなたの父親を殺させたくない!!」
私は叫びながら、シシィに飛びついてナイフと奪い取ろうとする。そんな私を張り飛ばし、蹴りを入れてくる。
しかし再度シシィにつかみかかり、激しくもみあった。シシィのナイフで顔や腕をきられ、髪の一部をばっさり切られる。掴まれた手首から嫌な音がする。折れたかもしれない。
うずくまる私にとどめを刺すように、シシィはナイフを大きく振りかぶる。
私は防御を全て解き、思いっきりシシィの胸元に抱き着いた。
「ごめんね、シシィ!!私の、大事な、小さなシシィ!わああああ」
シシィを力いっぱい抱きしめて、号泣する。
シシィの手が止まり、両手をだらんとさげる姿勢になる。ナイフが地面に落ち、空になった両手が背中にまわされた。
「マリー、お願い、僕と一緒に行こう」
ボロボロの姿で二人で泣きながら抱き合っていると、王宮の方角からすさまじいスピード寄ってくる黒い影が見えた。




