15: セリーヌ様の思い
王宮の客室での暮らしは快適だった。毎日ウィルは訪ねてきてくれた。なぜか殿下からも毎日贈り物が届き、部屋にあふれ始めたそれらを見て毎回嫌そうな顔をしている。
セリーヌ様も毎日一緒にお茶の時間を過ごしてくれた。
「今日は面白い物もってきたの」
装飾を施された皮で巻き留められた紙の束と、やや古い箱だった。セリーヌ様は箱の中から、木彫りの小さな馬のようなものを取り出してテーブルに置いた。荒々しく削られているようだが要所要所は細かな作業が施されている。馬は普通の馬でなく、羽のようなものが付いている。
「これはおもちゃの木馬ですか?」
「そう、アレックスがね、子どもの頃作ったの」
「殿下が!?ご自身で?すごく上手…」
「でしょ、小さい頃から武術も勉学も、こうやって物を作るのも上手にできる人だったわ」「へええ…凄い方なんですねえ」「そう、だから周りも過大な期待をしていたわ。またそれに応えてしまうのよね。それが良いのか悪いのか」
ため息をつくセリーヌ様。
「見て、この馬、羽がついてるでしょ?殿下はこういうものいくつも作っていて。『これに乗って遠くの国々を冒険して回りたい』ってよく遊んでいたわ。その内の一体が、うちに忘れられてて、侍従が保存してたの」
殿下は冒険者希望だったのか…出奔したいと企んでた自分と重ねてしまう。
「根は一か所に留まりたくない、色んな世界を見て回りたい、じっとしてられない性質なの。でも、ご自身の立場をよく理解している。できない夢を、この木馬で見ていたのかも」
「アレックスは強い人だけど、やっぱり一人の人間なの。王として立ち続けるためにも、そばに支えてくれる人がいてほしいな、と私は思うの。守られるだけでなく、アレックスと共に戦ってくれるような人」
「王宮は見た目のように綺麗なだけな場所ではないわ。アレックスのお父様である今の陛下ですら、政権を安定させるために、人に言えないようなことをされてきた。シシィの件だって、それらが生んだ末路かもしれない。 アレックスは、そういう過去の負の遺産をまるごと背負って次期王になる覚悟を持っている」
「お支えする方は、そこまで深いご理解お持ちのセリーヌ様ではないのですか?」
「王太子妃になれと命令されたら、当然従うし、国のため喜んで努めるわ。でも、そういう理屈で導かれた婚約ではなく、彼の心を満たしてくれる人とご縁があったら、どんなにいいかなと、思うの。この木馬を持ちながら空を眺めていたアレックスの、あのわくわくしていた目をね、向けられるような相手とね」
この会話の流れは、どこにむかっているのだろうと、先ほどから居心地が悪くて落ち着かない。
「ウィリアム様は素敵な方よ、貴方を心から大事に思ってる。でも、まだチャンスがあるなら、アレックスの事も考えてあげて。彼は、あなたをとても気に入っているわ」
「!」
何と答えればいいのか。私の頭は、セリーヌ様の話を整理しきれていない。だからと言って、真摯に話してくださったセリーヌ様に、適当にごまかした返事なんてもってのほかだ。
「困らせてしまったわね。もうこの話はおしまい!気にしないで、というべきだろうけど、差支えがない程度に、気にしておいてね」
といってセリーヌ様は立ち上がる。
「長い時間お邪魔しちゃった。あ、そうそう!お暇な時に、そちらも見てみて。アレックスが小さなころに描いた絵や、画家に書かせた彼の絵姿もあるから。やんちゃな顔してて、笑えるわよ。じゃあ、また明日」
いつもの天使のような温かい笑顔を残して、ご自身の部屋へと帰られていった。




